誰にも見せられない台所。「梅仕事」に熱中して、こだわり過ぎた結果…
作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回のテーマも、見せられない部屋について。今年もやってきた梅仕事。ただ、こだわるあまり、大量の梅と年々格闘しているんだとか…。
第73回「見せられない部屋 その4」
今年も梅の季節がやってきた。東京のご近所さんには梅の木があるお宅が何軒もあって、ここ数年、6月に入ると拾いにいかせてもらっている。
あちらでもこちらでも、「いいですよ。好きなだけ取ってくださいね」と言ってくださり、こうしてわが家が梅屋敷になってゆく。梅干し、梅酒、梅シロップ、梅ジャム。睡眠不足になって原稿が滞ってしまうほどに私は梅子になるのだった。
●作るたびに家の中を占領していく大量の梅酒
梅酒を作ろうと、近所の酒屋さんに行って「今年も梅漬けるんですよー」と立ち話をしていると「去年の梅酒って飲みました?」と…。「いえ…まだ残ってます」
そうなんです。いくら梅が好きだからって毎日梅酒を飲んでいるわけでなく、まずはビールとか日本酒になってしまう。
梅の木のお宅の人と話をしていても、「最初のうちは嬉しくて漬けてたけどね、もう飽きちゃって。昔の物がまだたくさん残ってるのよねえ」と言うのだった。うんうん、なんか分かる。友達が遊びにきても梅酒の出しどころってイマイチないんだよねえ。最初ビール飲んで、そこから日本酒かワインか焼酎にいくこともある。甘い梅酒は食事中に飲むっていう雰囲気にはならないんだよなあ。
ということで、「見せられない部屋その4」は、溜まっていく私の梅酒や梅干したちである。実は3年物もあるのです。なるほどこうして人は落ちた梅を放置するようになるのか。
●みんなで分けて飲むことにしました
私は今、東京と愛媛で二拠点生活をしているのだけれど、梅酒や梅シロップを愛媛にダンボール箱に詰めてどっさりと送ることにした。一人で飲もうとするからいかんのよ。
汗だくで畑から帰ってきて、梅シロップと氷を入れたグラスに水を注ぐ。ぷはー。染みる、体中に染み渡るぜ! 東京で飲む10倍おいしい。
梅酢に含まれるクエン酸は、汗をかくこの季節には最適。仲間たちと農作業をしているので、帰りにみんなに出したり、近所の人や学校帰りの甥っ子に出してあげても、みんなおいしいと喜んでくれた。
夜は、早めの食事を終えたあとに梅酒を飲むようになった。日が沈んだらその日の仕事はおしまい。お風呂に入って、ご飯を食べて、その後家族や友人と梅酒を飲む。一人だとなかなか減らなかったけど、あっという間になくなっていきそうだ。
梅の実さえ取り出しておけば、年代物の梅酒はかえってまろやかになって美味しい。100年前の梅干しは漢方になっていたりする。なので、これもまたあまりやっきにならずに、3〜4年は寝かしておいてもいいのではないだろうか。非常食にだってなる。
●母曰く、「物の多さは豊さ」
これは自信作だぞと思えるものは、気心の知れた友人への手土産に持参することもある。「趣味の多い人は物も多くなるから、それも豊かさだと思っていいと思うんよ」と母が言っていた。実は、実験好きな私は塩や砂糖の種類を変えて毎回何種類も実験するので梅に関しては瓶が大きいのだけでも20個はある。砂糖も塩もいろんなのを試すのでどうしても台所がカオスに…。でも、とびきりの組み合わせが見つかると本当に嬉しいもんなあ。それを実験ノートに毎年書き溜めている。
夫が出張に行っている間に(というか夫もわざとこの季節出張にしているに違いない)梅パラダイスとなっているのである。ああ、今の台所を見せられん、誰にも見せられん。