間伐材の有効活用や再生可能エネルギーの導入などで、SDGs先進自治体として注目を集める岡山県西粟倉村。時事YouTuberのたかまつななさんが、行政とともに、村の課題解決に取り組む一般財団法人「西粟倉むらまるごと研究所」の代表理事・大島奈緒子さんに話を聞きました。

よくなる可能性があるなら、やってみよう

たかまつ 西粟倉村(にしあわくらむら)は人口1400人の小さな村ながら、再生可能エネルギーへの取り組みなど、SDGsの先進自治体として注目されています。

大島 SDGsが叫ばれる前から進めてきたことが、ハマったのだと思います。村は「百年の森林構想」を掲げ、森づくりを進めてきました。バイオマスエネルギーにしても、CO2を減らすためというよりは、未利用材も価値にするためで、村の施設に薪ボイラーが導入されました。村の森林を「宝物」としたことが始まりなんです。

たかまつ それを、村全体で推進してこれたのは、どうしてでしょうか?

大島 役場や村の方々のご努力はもちろんですが、都市との違いを感じるのは、旗を振る人と実行する人が同じ、あるいは距離が近いということです。行動が未来を変えるという意識を持ちやすい。あとは、なにもやらないよりは、失敗してもいいからチャレンジをしよう、ということを声に出してくださる方がいるからだと思います。失敗しても元に戻るだけで、行動しない限りプラスにならない。やらなければただ人口が減り、森は荒れる。よくなる可能性があるならやってみようという人がたくさんいて、そこに仲間が集まる。これは西粟倉村のすごいところです。

たかまつ その村のなかで大島さんが代表を務める「むらまるごと研究所」は<テクノロジーは地域を幸せにするのか>をテーマにしています。具体的にはどんなことを行っているのですか?

大島 代表的なものでは、関係人口構築のための拠点やソフトの整備とオープンデータプラットフォームの構築です。森林データや雨量、水位などのさまざまなデータを収集し、活用できるよう進めています。村はベンチャー企業の立ち上げをあと押ししていますが、データがあることで活動が見える化でき、データドリブンな計画策定や行動変容につなげることができます。オープン化することで、村で研究や実証をしたいという研究者や企業を呼べるのではないかと考えています。

たかまつ 研究所がプラットフォームになるんですね。

大島 あとはローカルネットワーク構築や村内の送迎や物流を担う小型EV車の実証事業。少し苦戦していますが、農業分野をテクノロジーで持続可能な形にすることも取り込んでいます。

たかまつ 偏見かもしれませんが、テクノロジーに対する抵抗感はないですか。高齢の方などに新しい技術を受け入れてもらうのは大変そうです。

大島 データプラットフォームもEVの実証実験も、まだ器づくりやネットワーク整備の段階です。村の人の生活に関わるようになると、苦労はあるでしょうね。ただ今は高齢者でもスマホを使いますし、昔の携帯より感覚的に使えます。また人口が少ないですから、最終的には人海戦術ができる。それに、すべてを理解いただけなくとも、恩恵を受けていただければいいと思います。

たかまつ 人で解決するっておもしろいですね。

大島 「あの人に聞けばいい」という関係性でクリアできると早いですよね。

たかまつ むらまるごと研究所ができて、村はどう変わりましたか?

大島 これも、まだまだです。ただ、西粟倉といえば森林だったのが、「またなにかおもしろそうなことを始めているね」と言われるようになりました。企業研修で中長期的に関わる人や月の半分を村に滞在する人、インターンなど、時間・空間を超えた村民が集まるようになった。住民・移住者だけでなく、ゆるやかに出入りする人がもたらす風通しのよさは、価値になるはずです。

たかまつ 確かに、地域の活性化には「そと者」が必要といいますね。

大島 関係人口を都合よく使うのではなく、リアルな関係性をどうやってつくっていくかは模索しています。

SDGsで重要なのは、どうふるまうのか

たかまつ 西粟倉村の子どもたちは、SDGsについて、どう学び、どう受け止めているんでしょうか。都市の学校現場ではたとえば、マイクロプラスチックやリサイクル、食品ロスが身近な問題として取り上げられるわけですが。

大島 小学校2年生の娘が「畑を荒らしたからって、シカさんが殺されて食べられるのはかわいそうだ」と言ったことがあるんです。「じゃあ、どうする?」と聞くと、「山の上にドングリを植えて、シカさんのレストランをつくればいい」と。「それはどうしたらできるかな?」と話をしていくと、村の森博士に自分から質問しにいくわけです。課題が身近で、さらにアクションまでが近い。それは大人にとっても同じですけど。

 

たかまつ 今、OECD(経済協力開発機構)は「生徒エージェンシー」を打ち出しています。社会を変えるために行動する力を育むことですが、まさにそれを体現しています。

大島 教育って「どう教えるのか」ではなく、「どう学ぶのか」だと思っていて。SDGsにしても、どうアクションしていくかのふるまいが身につかなければ、17の目標を知っていても、あまり意味がないんじゃないでしょうか。

たかまつ そうですね。みずから問題を見つけて行動する、その積み重ねでしか、社会は変わっていきませんから。

大島 SDGsのゴール設定にも、私は少しだけ違和感があるんです。ゴールを掲げているけど、通過点でしかない。子どもたち世代はその先を生きていくわけで、だからこそ、未来を見ることが大事だと思うんです。SDGsって、課題目線で願い目線ではないんですよね。先ほどの娘の話も課題目線だと、「獣害を抑えながら、生態系の多様性を守る」という話になります。でも、彼女はみんなが楽しく畑をやれたらいいし、シカさんを殺したくないと願っている。未来を目指せば、目標は途中で通過できる。西粟倉村がやってきたことは、そういうことだと思います。

たかまつ 大島さんは以前、インタビューで「課題を課題と言うのをやめる」とおっしゃっていましたよね。それに、すごく共感したんです。私は課題を明らかにしてから、解決法を考えがちなんですが、「こういう未来をつくりたい」という視点で話したほうが楽しいし、人を巻き込むことができる。

大島 それは間違いないと思います。

たかまつ 私は社会問題を身近に感じてもらいたくて政治の授業をしています。ただ、権利意識だけが育つと、批判するだけの行政のサービス者になってしまう。その意味でも主権者教育に力を入れているのですが、課題探しではなく未来を見据えるほうが大事ですね。

大島 たとえば、村に独居で寂しがっているおばあさんがいたとして、これを課題として整理すると、「高齢化」「過疎化」になります。でも、このおばあさんに会いに来る人をどうマッチングできるか、どうしたらおばあさんは外へ出てきてくれるかといった設定すると、ぐっと色が出てくる。テクノロジーはあくまで道具で、課題とテクノロジーをぶつけても答えが出ない。願いとテクノロジーでなければだめなんです。

たかまつ お話を伺っていて、変化を怖がらないことが大事だとあらためて思いました。前例の踏襲や保守的な姿勢が社会全体に根強いですが、大きく見直していくことが日本には必要です。

大島 いつの間にか変わっているとか、オンされて選択できる形がいいのだと思います。西粟倉村のキャッチコピーって「生きるを楽しむ」なんです。とても素晴らしいと思っていて、古いものを守るとか刷新するとか、二項対立な世界ではない。「生きるを楽しむ」って、それぞれの人にある。それが多様性・寛容性・柔軟性なのだと思っています。