ロッテ・佐々木朗希について語る江川卓氏【写真:荒川祐史】

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江川卓氏の独占インタビュー第4回、同じ“怪物右腕”への大きな期待

“昭和の怪物”は“令和の怪物”が描く成長曲線をどのように見つめているのか――。巨人OBで野球解説者の江川卓氏の単独インタビュー第4回。YouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」とのコラボ企画の最終回は佐々木朗希投手の未来について。美しいフォームからホップするストレートで打者を圧倒する投球をしてきた江川氏に次世代のスターへ託す思いを聞いた。佐々木朗希は「もっと怖くなる」と感じている。【聞き手・楢崎豊、宮脇広久】

――先ほど完成度が80%くらいとお話になっていましたが、佐々木朗希投手の20%の伸びしろ、課題はどのあたりになるのでしょうか?

「フォーム的には問題はないですけど、1年を通してやらないといけないと思いますので、夏になったとき、同じことができるのか。体力が一つの課題になってきます。安定した成績を夏や秋にできたら、素晴らしいと思います。やっぱりどうしても疲労してくるので、健康状態を持続してやってほしいなと思います」

――80%の完成度というのはあの完全試合した時に限ったことではなく、最近の佐々木投手の状態を見てのことでしょうか?

「あの(完全)試合を見る限り、そのような感じでした。彼の中であと20%くらい可能性があるかなと思うんです。左バッターの内角球、よかったところもあったのですが、右に少し抜ける感じの球があったので、そこを狙って、アウトローにいくようになると、もっと楽にストライクがとれると思います」

――打者目線の質問なのですが、佐々木投手は直球が速く、フォークボールも直球と同じ腕の振りで投げてくるのでわからない。直球狙いで打席に入った方が打つ確率は高いのでしょうか?

「必ず真っ直ぐ(直球)は来るわけですから、真っすぐだけを待っていたらいいのですが、頭の中にはフォークボールがある。そうすると不思議なんですけど、打者はフォークボールも何とかしようと思ってしまい、ストレートを待つんですよ。だから直球に遅れるんです」

――さらに佐々木投手のフォークボールはスピードもあり、落差もある。かなりバッターの手前で落ちると聞きます。

「フォークボールの印象が強いので、ストレートを待つと遅れてしまうんです。だから、ストレートに遅れたくないとなると、フォークを振ってしまう。みんなそうなってしまうんです」

江川氏が好きだった捕手のタイプは? 登板前は“貝”になる?

――ロッテの高卒新人・松川虎生捕手にも注目が集まっています。

「年下の捕手なので、投げやすかったと思います。自分より上の人だとやっぱり多少気を使いますから」

――江川さんはどちらかというと年上、年下の捕手はどちらが良かったのでしょうか?

「僕は同級生が一番です」

――年下だとサインに首を振るのが申し訳ないという気持ちが生まれるのでしょうか?

「そうですね。できるだけ首を振らないようにはしたいんですが、そうすると合わないことが起きて、それで打たれてしまうのですよ。打たれてしまうのはかわいそう。自分が悪いのですけど……。そういう感覚になるので、僕は同級生が一番好きでした」

――若い捕手と組んで打たれてしまった時はベンチに戻った後、ケアをしてあげたりしていたのでしょうか?

「僕は試合中、そういうケアを捕手にしなかったです。ゲームが終わってから、話すことはあります。今の選手たちはゲームの中で話をすることが結構ありますけど、僕はNGなので。(登板日は)朝からずっと誰とも話をしません。だから今日が先発と周りは分かってしまうんですけどね(笑)」

――チームメートやスコアラーさんとも話はされないんですか?

「向こうが報告をしてくれるだけで耳を傾けています。試合に集中したいので、会話をするのが好きではないんです。自分で(気持ちを)作ってきているので」

――もしも、江川さんが監督で、相手チームの先発が佐々木朗希投手だったら……。どのような指示で佐々木投手を攻略しますか?

「うーん……攻略ですか。自分のチームの打者がどういう選手かわからないので、お答えするのが難しいです。打者の性格は一緒に生活をしたり、遠征をしたり、食事をしたりとかでわかるんですね。それがわかっていないと指示が出せないです。だから、仮想でやろうとしてもちょっと難しいですね」

――そうですね。失礼しました。それでは、質問を変えます。佐々木朗希投手を攻略する術は江川さんの中でありますか?

「基本的にはストレートに狙いを定め、真ん中付近にある程度、張っていくしかないんですよ。フォークボールを頭から消してくれっていうことですかね。9回までの打席で全球がフォークボールだったら仕方がないです。ストレートを打っていってくれという風になると思います」

――この先、佐々木朗希投手はどうなっていくのでしょうか?

「やっぱり、コントロール(が鍵となるポイント)ですね。できれば、速いストレートがコントロールされるようになるともう少し(打者が)怖くなります。カーブもコントロールできるとまた次の段階にいくので、そういうふうに(制球を極める投手を)目指してほしいなと思います。ただ、これは結構、難しいんですよね。きついんです。コントロールを身につけるのは相当な時間がかかる。ただ、ストレートのコントロールがついたらもっと怖くなるっていうかそうなるとは思います」

江川卓(えがわ・すぐる) 1955年5月25日生まれ、福島県出身。作新学院高(栃木)時代にノーヒット・ノーラン12回、イニング連続145回無失点など数々の記録を達成し、甲子園でも活躍。1978年に巨人に入団。9年間で135勝を挙げ、MVP1回、最多勝2回、最優秀防御率1回。1987年に現役を引退後は、野球解説者・評論家として多方面で活躍。チャンネル名の「たかされ」は座右の銘でもある「たかが野球、されど野球」、著書の「たかが江川、されど江川」というところから。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)