WWDC2022の基調講演は、Apple Parkの社員食堂と屋外を開発者に開放して、ライブビューイングの形で開催された(筆者撮影)

アップルはアメリカ時間2022年6月6日、カリフォルニア州クパティーノにある本社「Apple Park」で、世界開発者会議「WWDC2022」を開催した。6月10日までの日程で、これまで一般には開放されていない本社敷地内で、世界から招待された開発者とアップルの技術者の情報交換や交流が行われる。

「第二の顧客」アプリ開発者

まずは開発者イベントの位置づけと重要性についてだ。

アップルにとって、アプリ開発者は「第二の顧客」といえる。同時に、アップルが築いてきたエコシステム、プラットフォームの価値を共に高めるパートナーでもある。開発者がアプリなどを販売して収益を上げ、アップルは手数料を得る。そのため開発者はパートナーであり、顧客なのだ。

アップルのサービス部門の売上高は全体の20%に上り、年々その割合を増やしてきた。コンピューター中心のビジネスで瀕死の状態に追い込まれた経験から、2001年発売のiPodには2003年にiTunes Storeを、2007年発売のiPhoneには2008年にApp Storeを開設し、アプリとストアの組み合わせを追求してきた。

アップルは、単にデバイスを販売するだけではなく、ユーザーと開発者双方を「顧客」として抱えるプラットフォームを擁してコミュニティを形成していくことで、持続的に収益を上げるモデルへと移行している。つまり、iPhoneを毎年買い換えてもらわなくても、使い続けてくれれば、収益が上がり続けることを意味する。

アップルは、ユーザーに対してはより魅力的なデバイスとソフトウェアを提供し、より多くのユーザーがプラットフォームに参加し続けてくれるようにしなければならない。一方の開発者に対しては、より高度なことを簡単に実現できるアプリ開発環境を提供してデバイスの新たな使い方を開拓してもらいながら、またアプリに価値を感じてお金を払ってくれるユーザーを集めておく必要がある。

そうした背景から、開発者イベントは、開発者との重要なコミュニケーションのチャンスであり、数多くのフィードバックを得ながら、開発者がビジネスをしやすい環境作りを行う場となっているのだ。

基調講演で登場した新Mac

WWDCでは例年、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TV向けの最新OSを発表し、新たに利用できるようになった機能や開発者向けのAPIなどを告知する。これらのソフトウェアは例年9月にアップデートされ、新機能は9月以降順次利用可能になっていく。基本的にソフトウェアのイベントであるが、今年は例外的に、MacBook Airと13インチMacBook Proが発表された。

アップルは2020年6月のWWDCでインテルから自社設計のアップルシリコンへとMacを移行させる計画を発表した。同年11月に最初の自社設計チップ「M1」を搭載したMacBook Airを発表させ、これまでにMac Pro以外の製品が移行を完了した。


新チップM2を搭載したMacBook Air。薄型・フラットな新しいデザインに刷新され、バッテリー持続時間と40%の処理性能向上を実現している(筆者撮影)

今回のWWDCでは、アップルシリコンに移行した最初の2つのモデル、MacBook Airと13インチMacBook Proを刷新し、M2チップを披露した。M2は、第2世代の5nmプロセスを用いており、MacBook Airは18時間の連続ビデオ再生を実現する省電力性と、40%の性能向上を実現するパフォーマンスの向上を図っている。

チップのサイズは拡大しており、機械学習処理の性能向上、動画処理を行うメディアエンジンの高速化などが施された。メモリーは高速化され、さらに最大16GBだったメモリーは24GBに拡大された。

そして待望の新デザインも採用された。プラスチックパーツは廃止され、通気口もない美しいアルミニウムのボディへと生まれ変わった。カラーは濃い色がミッドナイトとスペースグレーの2色、薄い色はスターライトとシルバーの2色が用意された。

MacBook Airとしてはミッドナイトとスターライトが新色となるが、前者はマットブラックのようなしっとりとした質感、後者はシャンパンゴールドのような華やかな色味で、いずれも人気が出そうだ。

いままでヒンジから手元にかけて、本体部分に傾斜がかかるデザインになっていたが、iPhoneやiPad、昨年登場のMacBook Proのようにフラットなデザインに変更となった。厚さは11.3mmで旧モデルの最厚部より薄くなり、重さも50g軽い1.24kgとなった。

ディスプレーは縁まで敷き詰められたLiquid Retinaが採用され、カメラ部分を避ける切り欠き(ノッチ)のデザインが採用された。そのウェブカムは720pから1080pのフルHDカメラへと機能向上し、Web会議により美しい映像で参加できるだろう。

アメリカではM2モデルのMacBook Airが1199ドル〜、値下げされた併売モデルのMacBook Air M1モデルは999ドル〜となった。しかし日本では、円安を反映し、M2モデルが16万4800円から、M1モデルが13万4800円〜と値上げされている。

秋からiPhoneは「こう変わる」

基調講演で発表されたiOS 16は、2022年秋に提供されるiPhone向けの新ソフトウェアだ。2017年発売のiPhone 8以降で無償アップデートにより利用できるようになる。

iOS 16の重要なポイントは「われわれのiPhoneの使い方がかなり変わりそうだ」という点だ。

その変化はロック画面から始まる。

ロック画面はこれまで、あまり頻繁にカスタマイズしたり、切り替えたりしてこなかった。ロックを解除したホーム画面は、アプリの並び替えやウィジェット配置などを工夫することで、必要なアプリを素早く起動するなど使い勝手に影響を与えてきたことと対照的だ。

新しいiOS 16のロック画面にはウィジェットを配置することができ、AirPodsの電池残量やアクティビティの経過、直近の予定などをわかりやすく表示することができるようになる。また複数のロック画面を用意したうえで、これを手軽に切り替えられるようになる。ちょうどApple Watchの文字盤を切り替えるように、手軽に着せ替えができる点は楽しめそうだ。

またスマートフォンの通知対策は、アップルがかねて取り組んでいた課題だ。やっていることを中断したり、スマートフォンを触り続けるきっかけを与えてしまう通知を抑制するため、昨年のiOS 15では「集中モード」を導入し、通知が表示されないモードを用意した。

今回iOS 16ではロック画面が刷新したうえで、通知をコンパクトに格納する仕組みとしたことで、通知よりも自分がやりたいことや、好きなロック画面の表現を楽しむ方向へと振り向けられたとみている。

「共有」と「コラボ」がカギに

iOS 16、iPadOS 16、macOS 13 Ventureで共通した機能として用意されたのは、さまざまな作業の共有だ。現在のiPhoneでは、FaceTimeのビデオ通話中に、Apple MusicやApple TV+などの音楽や映像を同時に再生しながら楽しめる機能が用意された。

新OS群ではさらに共有機能を強化し、ウェブブラウザのタブの共有、文書の共同編集をきっかけにしたグループメッセージやFaceTimeグループ通話、撮影したそばから共有アルバムに保存できるiCloud共有写真ライブラリなどの機能が追加された。


iPhone/iPad/Macで連係機能が強化されているのが2022年の新ソフトウェアの特徴となる。アプリで共同作業をしながら、メッセージやFaceTimeなどのビデオ通話で会話をするコラボレーションのスタイルが定着するか注目だ(筆者撮影)

さらにiPadOS 16では、メモアプリで、広大なホワイトボードをメンバーで共有してブレインストーミングを行う機能も追加された。手書きはもちろん、付箋のようなデザインを置いたり、文字や画像、書類などのファイルを並べて、アイデアを持ち寄る作業は、特にGIGAスクールでiPadを導入した小中学校でも重宝する作業スタイルになるのではないだろうか。

ではAppleがなぜ、OSレベルのコラボ機能を強化しているのか?

もともとパンデミック以降、リモートワークやテレワークの文脈で、ビデオ会議とともに遠隔地間での共同作業を強化する動きが見られていた。そうした共同作業は、社内で同じツールを導入し、環境を整えているからスムーズに進んでいたし、新しいデジタルの活用方法として定着しつつある。

これを家族や友人同士のコミュニケーションに取り入れようとすると、問題が起きる。同一環境を持ち合わせない家族同士や友人同士では、ファイルのやり取りや1つの書類を共同編集する作業なども、あまりすんなりといかなかった。

そこでiPhoneやiPad、Macといったアップル製品同士で手軽に共有・共同作業ができる仕組みを用意することで、新たに定着したデジタルコラボレーションを、日常の中の不便解消の仕組みとして取り入れようとしている。アップルユーザー同士での利便性を高めることになり、プラットフォームへの囲い込み施策と見ることもできる。

超クールな「自動車機能」の背景

最後に、次世代版CarPlayについて紹介しておこう。

CarPlayは、自動車のUSBポートとiPhoneを接続、もしくは無線接続することで、カーインフォマティクスとiPhoneを連携させる機能だ。もう少し簡単に言えば、自動車のスクリーンをiPhoneが乗っ取り、地図やナビゲーション、音楽、Podcastなどのエンターテインメント、メッセージの音声でのやり取りなど、iPhoneの体験を安全に実現する仕組みだ。

WWDCの基調講演によると、アメリカで販売される新車の98%がCarPlayに対応し、アメリカの自動車購入者の78%がCarPlayに対応しているかを考慮するという。新世代のCarPlayでは、これまでのナビやエンターテインメントだけでなく、より深く自動車の情報と連携し、エアコンの調整、カーラジオなどの操作に対応。


新世代CarPlayは、自動車メーカーとより深い連携を通じて、ブランドごとの表現を実現するという。対応車種は2023年後半登場の予定(筆者撮影)

さらに車速やギアなどの情報も取得して、リアルタイムに走行データを表示するスクリーンを用意するなど、これまで以上に深いデータを自動車とiPhoneとの間でやり取りすることを前提としている。

その理由は、これまでのCarPlayが「iPhoneすぎた」ことにある。

CarPlayはiPhoneが自動車のディスプレーとマイク、スピーカーを、いわば乗っ取る技術だった。そのため、フェラーリであろうがBMWであろうが、スズキの軽自動車であっても、ディスプレーにはiPhoneでおなじみのアイコンが、同じデザインで並ぶことになる。

今後、スクリーンがクルマのインテリアの大きな部分を占めるようになる中で、スマートフォンとつながる利便性のために、クルマの体験やブランドを表すディスプレーのデザインを犠牲にすることは難しくなっていくだろう。その対策もあり、次世代CarPlayを自動車メーカー各社と深い連携で作り込んでいく戦略を打ち出すことにしたのだ。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)