虐待や貧困、親の病気などさまざまな事情で家庭から離れて暮らさざるを得ない子どもを家族として迎え入れ育てていく里親制度があります。栃木県内では現在、およそ90人が里親として活動しています。

40年もの間、里親の活動を続けている矢板市の夫婦に「親子」とは何かを聞きました。

小口晋さん:「子どもがいたら100倍くらい嬉しくなる。だってこういうふうに遊べるでしょ。どこに行くにも2人で行ったって子どもがいれば楽しみが10倍も100倍も違う」

小口晋さん80歳。小口さんは妻のマスヱさんと二人三脚で40年以上にわたり里親として活動しこれまで男女10人ほどを迎え入れ育ててきました。

この日は、矢板市内で里親とその子どもたちなどが参加する催しが開かれ交流を深めました。

矢板市沢にあるヘアーサロン・コグチです。小口さんは、この理容店の3代目。その隣でパーマをかけているのは小口さんの長男、友幸さんです。

小口さん夫婦は乳児院にいた友幸さんが2歳半の時、家族に迎え入れました。

友幸さんは親の跡を継ぎ、妻と両親と4人で店を切り盛りしています。

小口さん夫婦が里親に登録したのは42年ほど前、晋さんが、40歳にさしかかろうかというタイミングでした。

    

小口晋さん:「私ら実子がいなかったので里親制度があると聞いてそれはということで里親の会、レクリエーションや会議とかになるべく夫婦で出て行って少しでもイメージを。自分たちの売り込みですね。そんな感じで登録しました」

里親に登録して1年半、待望の子どもに巡り会えました。

小口晋さん:「紹介されたときは嬉しいですよ。今まで子どもの「子」の字も分からなかったのが、楽しみに地域のつながりとか、学校のPTAとかいろんなつながりが出てきたので里親会の集まりだって親子で行けるなんてのは嬉しいからすぐにでも預かりたいとそういう心境でした。子どものいない時といる時ではこれはもう楽しさは全然違いますよ。子どもがいなければ親子の一緒に遊んでいる姿を自分たちが見たってさ自分たちに喜びは無いんですよ。その親子はあるけど自分ちが子ども出来たら子どもと遊べるんですもんこんないいことないと思います」

子どもたちをどんな思いで育ててきたのでしょうか。

小口マスヱさん:「見返りをもたないことが里親の条件。せっかく育てたのにという見返りというかそういうことを一切考えたことがなく元気に育ってくれればという思いでしたね」

里親になった小口さん夫婦の生活は潤い子どもたちとと過ごしたひとつひとつの思い出は今でもはっきりと覚えています。

小口晋さん:「学校でうちのお母さんがよくね部活について応援していたのが印象的だね。子どもも一生懸命だし、親も一生懸命にうちのお母さんはどこにでも行きました。親子のつながりだと思うね」

里親制度は子どもの年齢が原則18歳までとなっています。

友幸さんが高校を卒業後、親子の関わりをこれからどうするか互いの意思を確認するため3人で家庭裁判所を訪れました。

小口さん夫妻:「別々に裁判所の方とお話したんですけど「自分から絶対「小口」になりますって言ってくれましたよ」って。裁判所の人に言われてそういうふうに本人は思っていたんだ。本当に涙が出るほど嬉しかった。子どもが先に呼ばれてその後、自分たちが呼ばれて「良い子に育ちましたね」って言われた」

両親の背中をそばで見てきた友幸さんは家業を継ぐのに迷いはありませんでした。

小口晋さん:「親子で仕事できるのは夢だったですから。こういうパーマだってやってればお父さんいるのか、せがれさんいるのかと言われるから、ありがたいなと思いますね」

一方、友幸さんは、小学生の頃に両親から血のつながりがないという事実を打ち明けられていました。

友幸さん:「その頃はまだちゃんとした理解はなかったが歳を重ねていくごとに理解が少しずつ追いついていって葛藤したこともあったと思うんですけどもそれ以上に両親がちゃんと愛情をもって育ててくれたので反発も無く素直に受け入れて、親として最初から見ていたので葛藤はそこまでなかったと思います。産みの親は産んでそのままボク施設に入ってだから産みの親の存在自体を知らないんですよ。育ててくれてる今の親が全ての親なので血より濃いっていうんですかね。親っていう存在ですね完全に」

友幸さんは結婚後、2人の子どもに恵まれて親の気持ちが分かるようになったといいます。

友幸さん:「子育ての大変さはつくづく分かりましたね。手塩にかけないと子どもは育たないので親のありがたみが分かるようになった」

そして、これまでの人生を振り返ると両親に感謝しかないと話します。

友幸さん:「感謝の言葉しかないですよね。「ありがとうございます」自分が好きなようにやって床屋と美容室の免許を取らせてもらって、修行も何年もよそでさせてもらって帰ってきて、家を継いで一緒に働いて今でも親の仕事を見たり教えてもらったりただただ感謝ですね。親子でやってるってすごいことだと思いますし、お客さんからみてもほほえましいと思うのでこれが長く続けばと思います」

小口さんは栃木県里親連合会の会長を10年務めるなど長年にわたる里親活動の取り組みが認められ今年、春の叙勲「旭日双光章」を受章しました。

小口晋さん:「この度、受章頂いたのはひとえに地域の皆様のご協力の賜物。この機会に里親さんを1人でも多く大変な子どもたちを助けて頂ければありがたいなと思います」