米ニューヨーク州の上院において、電力を大量消費する暗号資産のマイニング(採掘)を制限する法案が可決された。キャシー・ホークル州知事が署名して成立すれば、同州は米国で初めてマイニングの制約に乗り出す州になる。

法案は、膨大な電力を消費するPoW(Proof of Work)によるマイニングが環境へ与える影響について包括的な調査を完了するまでの2年間、化石燃料由来の電力を使用するマイニング事業の新規申請および更新申請の許可発行を停止するという内容。

中国で暗号資産マイニングの規制が強化されてから多くのマイニング業者が米国に拠点を構えた。石炭や鉄鋼といった旧来の産業の衰退が進むラストベルト(Rust belt:さびた地帯)に含まれるニューヨーク北部地域には使われなくなった電力施設や工場が残っており、安価なエネルギーと設備を求めてマイニング業者が集まっている。

それによって衰退する地域の再生が進み始めたが、ニューヨークは2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げており、化石燃料を使う発電所の再稼働や大量の電力を消費するマイニング施設が、脱炭素化を目指す同州の取り組みの脅威になる可能性がある。また、生態系への影響も懸念されている。例えば、ニューヨーク州北西部フィンガーレイク(細長い11の湖の総称)にあるグリニッジ発電所は現在、暗号資産マイニングのみに電力を供給しており、最大108MWの発電容量を持つ天然ガス発電所に改修された。その影響でセネカ湖(フィンガーレイクの1つ)の水温が大きく上昇したと近隣住人が訴えている。

Greenidge Generating Station

ニューヨーク州議会では民主党が多数派を占めており、4月に法案が承認されたが、州上院では制限が環境と経済のどちらにより大きなコストをもたらすかという議論が紛糾。立法期限間近までもつれた。マイニングが他州に奪われれば、ニューヨークの経済が弱体化するばかりか、グローバル金融サービスとテクノロジーのリーダーという立場にも影響が及ぶ可能性がある。1月に就任したニューヨーク市のエリック・アダムス市長は、最初の給与を仮想通貨で受け取るなど、暗号資産への強い関心を示し、関連産業の振興にも力を入れている。

法案は、グリニッジ発電所のような既存の事業や申請済みの事業の継続を認めるモラトリアムであり、今後の温室効果ガスの排出量の増加を抑えながら、再生可能エネルギーで稼働する事業や、PoS(Proof of Stake)のような環境負荷が軽いコンセンサスアルゴリズムを採用する事業の成長を支援する。しかしながら、マイニング事業者は法案に猛反発しており、知事の判断が注目される。