【私のウェルネスを探して】小原ブラス30歳、ロシア系関西人でゲイ。「ダイバーシティ」「SDGs」を等身大に語る

自分のことを労わる時間、自分のことを大切にする時間は、きっと誰かを大切にする時間につながるはず。いつも忙しいあなたには、カラダとココロのウェルネス情報が必要です。いち早く気づいたキーパーソンのインタビュー集。

今回のゲストはタレント、コラムニストの小原ブラスさんです。「関西弁を喋る面倒臭い性格のロシア人でゲイ」を名乗り、ニュース番組やワイドショーのコメンテーターとして引っ張りだこの小原さんですが、現在のスタンスを確立するまでは様々な紆余曲折がありました。小原さんの「思い出の場所」だという東京・中野でお話しを伺いました。(この記事は全2回の1回目です)

中野で22歳から27歳の「一番大事な時期」を過ごす

「日本初のスパイ養成機関」とも言われる陸軍中野学校跡地を再開発し、企業、大学、飲食店等を多数誘致している複合施設・中野セントラルパーク。本場ニューヨークのセントラルパークにも負けない(?)開放感溢れる公園エリアでは、多くの老若男女が思い思いに過ごしています。今回のインタビューは、この中野セントラルパーク内のオープンカフェで行われました。合間には敷地内にある大学の学生さんや通りすがりの親子連れなど、次々と声をかけられていた小原さん。写真撮影にも気さくに応じていた姿が印象的でした。

中野セントラルパークのオフィスエリアに入居するとある企業にて、小原さんは22歳から27歳の「一番大事な時期」に会社員生活を送りました。26歳のとき「うちの事務所に入りませんか?」というSNSのDMが届いたことをきっかけに、タレント活動を開始。しばらくは会社員生活と二足のわらじでした。

「2年ぶりぐらいに来たかな? 懐かしい。(オープンカフェの前のスペースに)フードトラックがめっちゃ並ぶんやけど、12時ぐらいには全部売り切れで喧嘩状態(笑)。夜になると公園エリアがライトアップされるんです。敷地内のコンビニで酒買って、公園エリアのベンチに座ってライトアップ見ながら飲んでましたね」

見た目は外国人、中身は関西のおばちゃんのギャップ

ほどなくして東京ローカルのワイドショー「5時に夢中!」(TOKYO MX他)に、黒船特派員(外国にルーツを持つ番組アシスタント)のピンチヒッターとして出演します。どう見ても金髪碧眼の外国人ルックスなのに、関西のおばちゃんのようなコテコテ爆裂トーク。あまりのギャップで、たまたま放送を観ていた本原稿執筆担当を含む多くの視聴者に鮮烈な印象を与え、間もなく水曜レギュラーの黒船特派員に昇格します。並行して小原さん同様ロシア出身、関西育ちのモデル、タレントの中庭アレクサンドラさんとユニット「ピロシキーズ」を結成し、YouTubeチャンネルを開設。ユニット名の由来はロシア料理の「ピロシキ」からですが、込められた思いは案外奥が深く……。

「ピロシキはパンの中に肉、ジャガイモ、キャベツ、ジャム、リンゴ等々、色々な種類の具材が入ってるんですけど、一見しても何のピロシキかわからないんですよ。食べてみてから『あ、こんな具材が入ってた』と初めてわかる。私達も見た目はこんな思いっきり外国人だけど、でも中身は関西のババアのような性格をしていて、感覚も日本人にすごく近しい部分がある。そのギャップをYouTubeを通じて伝えているところです」

その後「アウト×デラックス」(フジテレビ系)のアウト軍団入り、「とくダネ!」(フジテレビ系)レギュラーコメンテーター起用等、どんどん露出が増加。会社を辞めてタレント活動に専念します。2020年11月には日本育ちの外国人タレントを中心にマネジメントを行う芸能事務所「Almost Japanese」を設立。「ピロシキーズ」相方の中庭さんも共に移籍します。自分達のような「見た目は外国人、でも日本育ちで喋りは日本人と一緒」な“Almost Japanese”=“ほとんど“日本人のタレントであっても「外国人枠」に雑にくくられてしまう現状を変えたい、既存の外国人タレント専門事務所とは一線を画した事務所を作りたい、という思いゆえでした。

外国人と日本人の間の「緩衝材」になりたい

「私達がもし外国人専門事務所に入ったら何をやらされるかというと、海外で起こった信じがたいニュースの再現VTR出演、または胸元に出身国の国旗をつけた外国人がひな壇に座る番組のコメンテーター。でも私達は普通に日本語喋れるし、何なら育ちは日本やから感覚的にも日本人に近い。だから日本人やミックスのタレントさんと同じような活動をしたいけど、どうしても『外国人枠』に入れられてしまう。でも私達のような人材って、今後日本が移民を受け入れたり、コロナが落ち着いてインバウンドが復活したりした際に絶対必要になる。外国から来た人と日本人の間の『緩衝材』になると思うんです。

厚切りジェイソンさんのギャグ“Why Japanese people?”ってありますよね。日本人はこのギャグを見て『確かに!』と笑って終わりだけど、本当は“Why?”の部分を外国人に対して説明できんとあかん。説明できないのに『外国の人は間違ったこと言ってるわ』って、その間違った解釈を日本人も認めてしまっていて、結果的に日本の文化が守られへんことになる。そこでずっと日本に住んでいて“Why?”の部分を知っている、でも『外国人の顔』をした私達が外国人に説明すると、ある意味(日本に長くいる外国人の)先輩なので信用を得やすい。かつ、ある程度日本人的感覚も持ってるから、日本人がどういう言われ方をすると腹が立つか、日本人の癪に障らない伝え方がわかる。そういう『緩衝材』になるタレントさんを集めた事務所を作りたかったんです」

外国にルーツのあるタレントにこだわらず、例えば女性として生まれたけれど、男性として生きる道を選んだトランスジェンダーの俳優、五輪メダリストでヴィーガンのアイスダンスカップルなど、「日本人としてのあるべき姿の枠を広げてくれそう」であれば、積極的にマネジメントする方針。そして事務所名の「Almost Japanese」の“Almost”には、「“ほとんど”日本人の外国人」以外に、もう一つの意味が込められています。日本は物事の白黒をはっきりつけない「曖昧社会」と言われることが多いですが、小原さんはそれに異を唱えます。

「芸能人の不倫とか政治家の失言とか、日本人は一度『悪』と見なしたものはとことん、徹底的に叩くじゃないですか。でも人間誰しも、絶対本当は悪いことしてると思うんですね、急いでてつい信号無視しちゃったとか。もちろんダメだけど、生まれてこのかた悪いことを何一つしたことない、完璧な人間なんていないと思うし、それは日本人としてあるべき姿じゃないと思うんですね。“Almost”=“おおよそ”良い人であれば、それはもう日本人としてあるべき姿なんじゃない? ちょっと社会からズレててもいい、『日本人はこうあるべき』という枠を、もうちょっと広げられないかな?って」

ダイバーシティ社会の「我慢しなければならない」一面

ダイバーシティ(多様性)を体現している「Almost Japanese」ですが、小原さんにとってのダイバーシティは自分と違う価値観を「我慢」する社会です。小原さん自身はゲイですが、「ゲイであることをさらけ出して我慢しない社会」ではなく、例えば「ゲイなんて気持ち悪い」といった価値観を含む、あらゆる多様な価値観を「我慢」する社会。ダイバーシティを推進している現代において、この「我慢しなければならない」一面が見落とされがちだと指摘します。

「日本でゲイが受け入れられるようになった過程を振り返ると、やっぱりいわゆるオネエタレントさん、LGBTQのタレントさんの功績が大きいと思うんですね。まず美輪明宏さんやカルーセル麻紀さんから始まって『そういう人がいるんだ』と『認知』される。その後おすぎさん・ピーコさん、IKKOさんなど『面白いやん』って笑いにして。もちろん今となっては笑いにするのはどうなんだ、とも思うけど、みんなが一気に『興味』を持つ。次の世代にマツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさんが出てきて、彼らは面白いというよりも『うわ、共感できるわ』と、『共感』を呼ぶタレントさん。この人達の話を聞くと私達とあんまり変わらん感覚の人達なんだなって。認知される→興味を引く→共感を得る、その次は『普通になる』かな」

小原さん自身も「5時に夢中!」に出演し始めた頃、ゲイであることを公言せず、他の出演者に好みのタイプを聞かれた際、男性俳優の名前を挙げ「あ、そっちの方でしたか?」という反応を得ていました。話してみて結果的にゲイだとわかる、そういうタレントが活躍すれば「ゲイってそこらへんに普通にいるんだな」と完全に受容されるのではないか、そしてゲイのタレントが受け入れられたのと同様の過程を経て「日本育ちの外国人」も受け入れられている途中の段階なのではないか、と持論を展開します。

SGDsと程遠い自分だからこそ、説得力が生まれる?

取材当日は、小原さんの30歳の誕生日の前日。上京してちょうど10年の節目でもありました。「今ね、30歳になる直前のこの1カ月、絶賛暴飲暴食中(笑)」とのことでしたが、日頃は健康に対する意識が非常に高く(後編掲載の「身体のウェルネスのためにしていること」に詳細)、さらにここ1年は意図せずとも「小原さんのやってること(ダイバーシティの実現等)、それSDGsだよね」と指摘されることが増えたそう。

「本当は紙のストローは美味しくないからプラスチックのストローの方がいいと思ってるし、もしもお金払って誰かゴミの分別やってくれるならお願いしたいぐらい。そんなSGDsと程遠い自分やからこそ! それを発信する説得力が生まれるんちゃうかなと思ってます(笑)。僕は元々『ヴィーガンなんてほんまは肉食べたいクセに!』と思ってたけど、ただ当事者にその思想を聞くと単純に『肉を食べるな!』と言っているわけじゃなく、『大量生産、大量消費、大量廃棄といった畜産の在り方を変えていかないと。今、肉、安過ぎるよね』と。納得できたし、意識もだんだん変わってきた。

うちの事務所所属のアイスダンスの小松原組(北京五輪銅メダリストの小松原美里・尊カップル)も、革靴じゃなく、ヴィーガンレザーを使用したスケートシューズを履いています。個人的には、これは良いことか悪いことかわからないけど……その日に食べる分だけ買い物するようになりました。以前はまとめ買いした方が安いし、と思ってたけど、一人暮らしだとどうしても食材を使い切れなくて、腐らせて捨ててしまうことが少なくないし。今食べたいものを今買って食べる、僕的には『それ、SDGs違う?』と思ってるんですよね」

(後編では理事長に就任した「一般社団法人外国人のこども達の就学を支援する会」の活動について、来日したばかりの頃の思い出、そしてロシアのウクライナ侵攻についてお話しを伺います)

小原ブラスさんの年表

1992年 ロシア連邦ハバロフスク市で生まれる

4歳 飛び級で小学校入学

5歳 母親が日本人男性と再婚し、兵庫県姫路市へ移住。地元の保育園に入園。以降、地元の小・中・高校で学ぶ

17歳 高校2年生のとき「ニコニコ生放送」で配信開始。圧力鍋を使った生配信がバズって人気者になるもアンチの心ないコメントを見て傷つき、表舞台から去る

19歳 20歳の誕生日の20日前にカバン一つで上京

22歳 東京・中野で会社員生活を開始

26歳 SNS経由で芸能事務所にスカウトされる。会社員生活と並行しつつ芸能活動を開始。「5時に夢中!」(TOKYO MX他)初出演。中庭アレクサンドラさんと「ピロシキーズ」結成、YouTubeチャンネル開設

27歳 「5時に夢中!」水曜黒船特派員に。「アウト×デラックス」「とくダネ!」(ともにフジテレビ系)にもレギュラー出演し、コラムニストとしても活躍。5年間の会社員生活に終止符を打ち、芸能活動に専念

28歳 所属事務所から独立し「Almost Japanese」設立

29歳 「一般社団法人外国人のこども達の就学を支援する会」の理事長に就任

30歳 「ポップUP!」(フジテレビ系)火曜隔週レギュラー出演中。コメンテーターとして多くの番組に引っ張りだこ

撮影/高村瑞穂 取材・文/露木桃子