グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という共通点があります。妻はASD(自閉スペクトラム症)、夫はADHD(注意欠如・多動症)の特性をもち、お互いに助け合いながら暮らしています。苦手分野を克服しながら生きてきた2人ですが、今回は夫の光さんのお仕事についてつづってくれました。

ADHDの夫の仕事が続くようになった理由

ADHDである夫が仕事をするようになり、私は結婚当初よりラクになりました。その理由は、4年前、2人で夫の苦手分野を把握し、苦手を排除し続けたからです。そこでたどり着いたのは、訪問介護という職業でした。どんな仕事に就いても10日ほどで辞めてしまっていた夫が、なぜ今この仕事をずっと続けられているのか話したいと思います。

●苦手分野が排除された、恵まれた職場だった

まず訪問介護とは、手助けが必要な方の家に伺い、手伝いをすることです。

大まかにわけると、身体に直接触れる身体介助、身体に触れない家事手伝いなどの2種類があります。夫がしているのは、主に身体介助で、ヘルパーとして働いています。

夫がこの仕事を続けられている理由としては3つあります。

・(1) チーム体制のおかげで、苦手分野がサポートされているから

1つ目は利用者さん宅へ赴くほかのヘルパーのマンパワーのおかげなのです。重度の要介護判定が出ている利用者さんの部屋では、24時間体制でだれかがいる状態を維持しています。

じつは一つの家に夫だけが出入りしているわけではなく、朝昼晩と24時間交代でヘルパーが常駐するため、家事が得意な人もメンバーにいるというわけです。夫も皿洗いなどはしますが、家事系統はほかのヘルパーさんが多く担っていると思います。夫が不注意により利用者さんの部屋を汚してしまい、それに気づかず放置してしまっても、交代したヘルパーのだれかが自然に掃除してくれていることになります。

出入りしているヘルパーさんは数名いて、それぞれが部屋の汚れやなんらかの変化に気づくと思いますが、気づく箇所が人それぞれ異なります。24時間だれかが家を守っている状態なので、実質、夫は家事が得意な人たちにサポートしてもらっている形になります。

 

・(2) 同僚とコミュニケーションをとる必要がないから

2つ目の理由として、1人で仕事ができる状態だからです。交代制なので、利用者さんとヘルパーが1:1の状態で家にいることになります。職場で大勢で過ごしたりコミュニケーションをとることが極端に苦手な夫は、それで数々の職場を辞めてきただけあり、今はまさに奇跡の環境です。

・(3) “指示待ち”してもいい環境だから

そして3つ目は、利用者さんがなにをしてほしいか、指示をくれるからです。例えば「車椅子を押して、ここに連れて行って」「体を起こして」「インスタントコーヒーを入れて」などです。

ゆっくりとしたペースでタスクを1つずつ夫に投げてくれるそうです。随時「指示をしてくれる」状態が夫にとっては大変働きやすい環境だったのです。

夫は社会人になってから、働けど働けど自分で考えて行動することが苦手で、極端な指示待ち人間になってしまい、気が利かないと思われがちでした。または丁寧に教えてくれる上司に応えられず、上司と本人ともに、すごく疲弊してしまうのです。

しかし訪問介護のように1対1で向き合い、指示を1つ1つもらえれば、夫は的確に動けます。そしてマルチタスクではなく、相手が丁寧に指示をしてくれるので、より動くことができるというわけです。

大勢が集まるオフィスでは、下手したら夫が歩いているだけで、忙しい人に「どいて!」と言われてしまうかもしれません。静かな部屋で利用者さんだけに注目できる環境が夫には合っています。

介護の仕事へは集中力が発揮できる

夫は不注意によるミスで困っていますが、すべてにおいて不注意が起こっているわけではありません。興味がないことにはドーパミンが働かずミスが頻繁に起こりますが、興味が向くことには集中できます。この介護に関しては集中が続いている状態です。おかげで、長年夜勤の仕事ができています。

夫はほぼほぼ利用者さんのお宅にいて、自宅に帰ってくる時間が少ないので私も1人静かに仕事ができるようになりました。

 

●苦手なことはやらないをモットーに生きたい

私たちは出会ったときから、ずっと「こうあるべき」という固定概念を捨て、自分達にとってラクな環境を探し続けたので、今はかなり生活しやすくなりました。

苦手分野には手を出さないようにし、自分達が最低限できる分野のみに絞って努力をしました。得意分野を探して伸ばすという考え方より、「最低限できそうなことをする」という考えをもって行動しています。

これからも時代は常に変わり、環境も変化すると思うので、また大変なことが起きたときは、そのとき思いつく新しい方法を探し、また色々と試みようと思います。