前田会長の改革でNHKから目玉番組が消える!?スマホから受信料徴収の皮算用とは - 渡邉裕二

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※この記事は2022年03月03日にBLOGOSで公開されたものです

「番組を一新したり、人事をイジったりすることで、さも改革をしているかのように思わせていますが、自己満足のパフォーマンスに過ぎません。問題なのは、それによって局内に混乱を巻き起こしていることです」

NHKの局内からはそう言った声が漏れ聞こえてくる。

一つは看板番組「ガッテン!」の終了だった。

コスパ悪い番組はいらない 前田会長の指針

「皆様のNHK」を標榜するNHKの番組にあって、いくら長寿番組で視聴率の高い優良番組であろうと、制作費のかかる番組は、みずほ銀行出身の前田晃伸会長にとっては「費用対効果が低い」と言うことのようだ。

NHK関係者は呆れ顔で耳打ちする。

「前田会長は、元々は富士銀行出身のエリート・バンカーだったからか、NHKに来るまでテレビには全く興味がなく、ニュースや大河ドラマを観るぐらいだったようです。

それはそれで今時の若い人たちの感覚と似ていますが、当然、視聴者感覚はズレていて、番組の良し悪しの判断基準は低予算で効率の良い番組を作ることだと思っているようですね。

会長就任の時には『実情を把握して、公共放送にふさわしい仕事をしていきたい』などと意気込んで、NHKは改革に突っ走ってきていますが、例えば今回の『ガッテン!』の放送終了は、単に長寿番組だからやめたかっただけなのです。

それを記者から問われると『私も残念です』なんて他人事のような言い方をする。

長寿番組を打ち切ることが改革を訴えるには最もインパクトがあると思っているだけなのです」

番組の終了を聞かされた司会の立川志の輔も激怒したそうで、その後の番組の収録を拒否することもあったそうだ。そう考えてみると、確かに番組終了が2月2日と言うのは、どう考えても27年も続いた〝目玉番組〟の終了の仕方ではない。余りにも出演者に対しての敬意が欠けている。放送関係者が言う。

「テレビ局にとって、一つの番組を企画・制作して、それを視聴者に定着させていくのは至難の業で非常に大変なことです。『ガッテン!』もスタッフや出演者の努力で27年という歳月をかけて今のスタイルを作ってきたわけですからね。

そもそも視聴者には視聴習慣と言うのがあります。前田会長がどんな番組を望み、考えているのかは分かりませんが、今後は何を作っても定着しないのではないでしょうか。それでも改革改革と叫んでいるのであれば、もはや虚しいだけです」

次々と打ち切られる長寿番組

「ガッテン!」はすでに終了したが、他にも「バラエティー生活笑百科」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」が3月いっぱいでレギュラー放送を終了する。

「『バラエティー生活笑百科』は、視聴者の身近な悩みを法律で解決するバラエティー番組の草分け。1985年にスタートした人気番組の一つでした。昨年8月に亡くなった笑福亭仁鶴さんの『四角い仁鶴がまぁ~るくおさめまっせー』のフレーズで親しまれてきましたが、現在は桂南光が司会を務めています。

一方の『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、『プロジェクトX~挑戦者たち~』の後番組で、番組スタートから16年の歴史に幕ということになります。局内では、取り上げる職業のジャンルも狭まって、インパクトも薄れたなんて声もありますが、実際には視聴率の低迷でしょう。

前田会長には、いくら良質の番組でも視聴率の取れない番組に予算をかける必要はないという気持ちがあったのだと思いますが、その後、視聴者からの反応を意識したのか、打ち切りではなく月に1回程度の放送を予定しているようです」(前出の放送関係者)

クローズアッブ現代+はリニューアルで着地

その一方で、打ち切り説が飛び交っていた「クローズアップ現代+」は、リニューアルして放送を継続することが決まった。

「クローズアップ現代+」は1993年に「クローズアップ現代」としてスタート。フリーランスのジャーナリストとして活躍する国谷裕子氏がキャスターを務め、過去には「菊池寛賞」(2002年)なども受賞してきた。視聴者からは〝クロ現〟として親しまれ、文字通りNHKの看板報道情報番組として歴史を刻んできたのだが、番組の制作過程で「捏造制作」(2014年の『出家詐欺報道』の問題)が指摘され、16年に国谷氏が降板。さらに放送時間を変更することで番組を一新、現在のスタイルとなってきた。そこで裏事情をNHK関係者に聞いた――。

「実は、大阪拠点放送局長だった有吉(伸人)さんが、前田会長や正籬聡副会長とソリが合わずに役職を外され、放送総局特別主幹という肩書きで東京に戻って来たのですが、そこから〝クロ現〟に代わる新しい番組を企画する動きが出てきたのです」

有吉氏は、前述した「プロジェクトX~挑戦者たち~」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」、さらには「ドキュメント72時間」などを企画、提案した辣腕の制作マン。NHKの制作関係者によると、

「とにかく仕事の出来る人で、一言で言えば24時間仕事をしていたい〝働き蜂〟です。本人的には常に現場にいたいタイプですね。『プロジェクトX』にしても本当は、自分がやりたくて提案したのですが、スタートした途端に外されてしまった。そこで後番組として『プロフェッショナル』を提案したのです。

ディレクター気質で意欲があり過ぎることがNHKの中では嫌われてしまうのかもしれませんね。前田会長や正籬副会長とソリが合わなくなるのは分かりますが、ここで新しい番組を企画するとしたら有吉さんしかいなかったのかもしれません」

しかし、〝クロ現〟に代わる番組を生み出そうとしてきたのだが「なかなか局内ではまとまらなかった」ことから、結局は〝時間切れ〟となってしまった。

クロ現新キャスターに桑子真帆アナを抜擢

「有吉さんは自分が現場に携われるのであれば真剣に考えると思いますが、今の立場は理事待遇ですからね。プロデューサーにもなれなければ、現場にも関わることが出来ません。最終的に「+」が取れて『クローズアップ現代』として再スタートすることになりましたが、有吉さんは単なるアドバイザーと言う立場になります。

時間を『ニュース7』後の19時30分からの放送にしたことの意義は大きいのですが、今さらタイトルを元の『クローズアップ現代』に戻す必要性があったのですかね。あと、桑子真帆アナをキャスターに指名したのも実は正籬副会長の判断だと言われていますが、有吉さんとしては不満なのではないでしょうか」(前出のNHKの制作関係者)

確かに、桑子アナをキャスターに据えたことについては「理解出来ない」と言う視聴者は多いのでは。この抜擢にはNHK内でも疑問の声が出ているほどだ。

「正籬副会長は桑子アナの人気が高く、視聴者ウケがいいと思っているようですが、その一方で何とか看板アナを作りたいというNHKの事情もあるのです。かつては久保純子アナや有働由美子アナがいましたが、ここ数年は小粒ばかり。本来でしたら和久田麻由子アナなのでしょうけど、彼女は夜の仕事は出来るだけ控えたいと言い出したようで、だったら桑子アナしかいないと言うことのようです。

だとしても桑子アナをNHKの看板社会情報番組のキャスターにするのは理解出来ないですね。本人は『身に余る大役』『国谷キャスターに憧れていた』『自分自身の成長にもつながる』なんて言っていますが、それは勘違いでしょ。そもそも彼女は知見も力量も乏しい。キャスターとして、どのようなコメントが出来るのか正直言って怖いですよね。いくら知名度があっても、〝クロ現〟では客寄せパンダにもなりませんよ」

スマホやパソコンから受信料を徴収したいNHK

新年度を前にNHKの内部は騒々しいが、前田会長と正籬副会長の目指す改革は、どうやら「団塊世代の排除とコアターゲット獲得」のようだ。

「早い話が受信料をどこから取るかなのです。若い人のテレビ離れは止められないので、だったらパソコンやスマホから取ろうと言うわけ。将来は配信からも受信料を徴収する考えですので、今のうちから若者層を『NHKプラス』に誘導したいと思っているのです。

去年の『紅白』も視聴率は最悪だったにもかかわらず『スマホの視聴は高かった』とアピールしていました。

しかし、せっかく定着した人気番組をコスパを理由に打ち切り、代わりに低コストの番組を作ることがいいことなのか…。その考えこそが視聴者、さらに言うならコア層の若い視聴者を馬鹿にしているとしか思えませんけどね。結局はYouTubeと変わらない番組ばかりになってしまいます」(放送ライター)

番組だけではなく、前田会長の号令で組織改革も動き始めている。

口癖は「タテ割りの組織を改革する」とかで「管理職もガラガラポンにする」(NHK関係者)のだとか。

「役職を変えるとか、無くすとか言い出していますが、前田会長の考えは放送事業を主体とするNHKの根底を崩壊しかねません。このままだと誰が放送番組の責任者なのかも分からなくなってしまいます。

全ての責任は会長が取ると言うことなのでしょうけど、年齢も年齢ですので果たして…。いずれにしても中身のない見せかけの改革パフォーマンスだけはやめてほしいですね」(前出のNHK関係者)