社会の隅々に根を張る「レイプ文化」を根絶せよ 英サイトに1万3千人超のサバイバーが衝撃告白 - 木村正人

写真拡大

※この記事は2021年04月05日にBLOGOSで公開されたものです

[ロンドン発]英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで英文学を学んだソマ・サラさん(22)は昨年6月、自分自身が体験した「レイプ文化」をインスタグラムで共有した。それまでに話し合った友人が全員、自分と同じような「レイプ文化」を10代で経験していたからだ。1週間で300人の投稿が寄せられた。

スカートめくりや親密な写真を勝手にシェアする行為が日常的にまかり通ると、性的暴行やレイプの入り口になる。ミソジニー(女性嫌悪)、性別による保守的な「らしさ」を求めるスラット・シェイミング、性犯罪被害者の落ち度を責める言動、セクハラは「レイプ文化」の温床そのものだ。

33歳の英女性が男性警官に誘拐、殺害される

33歳の女性セーラ・エバラードさんは3月3日夜、ロンドン南部クラパムの友人宅から帰宅する途中、行方が分からなくなった。 ロンドン警視庁の現職男性警官(48)が同月9日、誘拐、殺害容疑で逮捕され、エバラードさんの遺体が発見された。

同月13日、ロックダウン(都市封鎖)中にもかかわらず、クラパムコモン(市民が自由に楽しめる公園)で追悼集会が開かれ、キャサリン妃も遺族と女性たちの気持ちに寄り添うためお忍びで花を手向けた。

女性の参加者は増え続け、数百人に達した。現場の警官隊が感染防止のため集会を解散させようと参加者ともみ合いになり、数人を逮捕した。女性に手錠をはめて野外ステージから引きずり下ろしたり、馬乗りになったりした。

手向けられた花さえも警官隊に踏みにじられ、女性たちの怒りは爆発。追悼集会を呼びかけた主催者にはコロナ規制法違反で1万ポンド(約153万円)の罰金が科せられて起訴される恐れもあったが、世論の反発にあって取り下げられた。

女性に対する男性の暴力を集計している団体「フェミサイド(女性や少女を標的にした男性による殺人)調査」によると、イギリス全体で2018年までの10年間に1425人の女性が男性に殺された。3日ごとに約1人殺された計算だ。

こうした理不尽にこれまで沈黙を余儀なくされてきた女性たちが#MeToo(ミートゥー)をきっかけに世界中で蜂起し始めたのだ。

サバイバーたちの証言

性的暴行やレイプが容認され、正当化される社会的態度や行動、仕組みが「レイプ文化」を形作り、レイプという悲惨な結果をもたらしているとサラさんは主張する。

サラさんが開設した告白サイト「Everyone’s Invited(レイプ文化を根絶するため、みんなで取り組もう)」には4月3日時点で4万1200人超が賛同し、9歳から80代までの1万3400人超が自らの体験を寄せた。「レイプ文化」を生き抜いたサバイバーたちの証言は衝撃的だ。

「大学在学中、学費や生活費の足しにするためバーで働いていました。怖いと思ったり、男性に嫌がらせされていると感じたりしたのは実に100回以上です。ある晩、髪をポニーテールにして化粧もせず、ジーンズやトレーナーを着て飲み物を運んでいくと、1人は私のお尻を触ったあと股間をまさぐり、もう1人は2本の指で乳首をつまみました。私は何日も泣きました。その夜、男性は私の車までつけてきました。私は車に乗り込んでドアをロックしました。14歳の時には、制服を着て歩いていると、バンに乗った男性から声をかけられました。変わる必要があるのは女性ではなく、男性です」

「親友の誕生パーティーの時、私は17歳でした。その夜は恋人と別れたばかりで非常に落ち込んでいて、かなり酔っ払ってしまいました。パーティーの参加者は知らない人ばかりでした。10歳の時から知っている男が近づいてきて離れたところに連れて行かれ、キスされました。彼は避妊しているかと聞いたあと、無理やり性行為に及んだのです。私は自分に起きたことを認識するのに2週間かかりました。学校から締め出され、治療を提供されず、男がセックス中にコンドームをしていなかったことを医者に咎められました。私はまだ深刻なフラッシュバックの中で生きています」

「私はまだ同意年齢の16歳に達しておらず、彼は18歳でした。私はパーティーに参加し、初めて大量に飲酒しました。彼は私にキスし始め、彼の股間に私の口を押し付けたので息ができないような気がしました。彼は私の中に挿入してきましたが、私の記憶は真っ暗に消えてしまいました。朝、廊下で目を覚ますと、靴も下着もなくなっていました。翌日、学校に行くと、私のブラジャーやパンティーの写真が出回っており、ふしだらな女というレッテルをはられてしまったのです」

女性の大半が「レイプ文化」に苦しむイギリスの実情

悪いのは全面的に男性なのに、「レイプ文化」の中で苦しんだり、責められたりするのは被害者の女性だ。

証言の中には名門私立校イートン・カレッジ、チャーターハウス・スクール、トンブリッジ・スクールの名前も含まれている。英紙フィナンシャル・タイムズによると、事態を重視した名門私立校のダリッジ・カレッジ、キングス・カレッジ・スクール、ウェストミンスター・スクールはレイプ文化について正式な調査を開始した。

こうした名門私立校にはイギリス富裕層の子どもたちの7%以上が通っており、学費は年2万ポンド(約460万円)以上もする。世界を代表するエリート養成校だが、「男らしさ」を強調する前時代的な文化が残っているとも言われる。ギャビン・ウィリアムソン教育相はこうツイートした。

「名門私立校であろうと公立校であろうと、学校は性的虐待が起こり得る場所であってはならない。若者たちが安全でないと感じる環境であってはならない。私が最近聞いた主張は衝撃的で忌まわしい。これらの不快な行為の犠牲者は、家族や友人、教師、ソーシャルワーカー、警察など、信頼できる人に相談して下さい。われわれは適切な措置を講じる」

「レイプはどこにでも」 サラさんの訴え

サラさんは筆者の取材に次のように答えた。

「レイプ文化は普遍的で風土病と言えるでしょう。特定の学校、人口構成、または個人に焦点を絞り過ぎると、これらのケースが特に異常なように見えてしまうリスクがあります。しかし、これらは特異ではなく、いつでもどこでも起きているのです」

「人や特定の責任だけを追及すると、重要なメッセージを弱めてしまいます。レイプ文化はいたるところに存在するというのが伝えなければならないメッセージです。そして、それはどこにでもあるので、すべての人に影響を及ぼします」

「これは女性だけの運動ではありません。男の子、女の子、Xジェンダー(男性、女性のいずれかに限定しない性別の立場を取る人たちのこと)、両親、教師、年配の世代、若者世代など、誰もがこの対話に参加することを招待されています」

「私たちは皆、広範囲に根差しているレイプ文化に責任を持ち、それを解消して根絶するために積極的に協力しなければなりません。これは、文化的レベルで取り組む必要のあるグローバルな問題です。私たちの社会の構造に存在する、深く根付いた性差別的な態度や信念を変えることです」

「レイプ文化を根絶したいのであれば、レイプ文化についてこうした会話をする重要性を強調しなければなりません。レイプ文化と性的暴力の規模を包括的に理解するために、私たちのサイトに寄せられた証言の数々を読んで下さい」

「レイプ文化を理解できれば、自分の行動を振り返り、これまでどこが間違っていたのかを確認し、将来に向けた前向きな変化に取り組むことができます。話し続け、聞き続け、他の人の経験を理解しようとし続けて下さい」