同性婚訴訟の違憲判断 憲法学者・木村草太氏に聞く判決のポイント - 川島透
※この記事は2021年03月19日にBLOGOSで公開されたものです
同性同士の結婚が認められないことは憲法に違反するとして、北海道内に住む3組の同性カップルが国に損害賠償を求めた裁判で、札幌地方裁判所は17日、「合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない」とし、憲法14条1項に違反すると認めるのが相当だと判断した。同性婚不受理をめぐる訴訟で違憲判断が下されたのは、今回が初めてとなる。
国への賠償請求は棄却した。
同訴訟で原告側の証拠として提出された意見書を執筆した東京都立大学教授で憲法学者の木村草太さんに、判決のポイントを聞いた。同性婚が認められなくても不利益がないと主張する国に対して、「包括的に婚姻を認めないとダメだ」というニュアンスがみえる「踏み込んだ判決」だったという。
【判決全文】
https://www.call4.jp/file/pdf/202103/533e3260db61a96e84711d1f0c02d5d6.pdf
個別の効果ごとの議論がなかった判決 だがむしろ…
同性婚を認めないことは違憲かどうかが問われた今回の裁判。
木村さんは、憲法14条1項に定める「法の下の平等」に反するかという判断は、複数ある婚姻に関する規定ごとに細かく分けて議論をする必要があると裁判所に提出した意見書で説いていた。
同居や相互扶助義務の設定(民法752条※)は、異性カップル・同性カップルで区別する必要はないだろうとしつつ、他方で例えば、同性カップルの一方が子どもを出産した場合、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と規定する嫡出推定の条文(民法772条)をどう適用するかは議論があり得るという。そこで「異性愛者のみに法律の効果を認める条文に合理的な根拠があるかどうかは、条文ごとに整理して検討する必要がある」としていた。
※夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないことを定める。
しかし、今回の判決は、細かい条文ごとの個別の議論には踏み込まずに違憲の判断をした。
木村さんはこの結果をどう見ているのか。
「判決では個別の規定ごとにどのように検討するのか、見てみたかったのは確かです。
しかし、決して不合理な判断とは言えません。今回の判決文はむしろ『包括的に婚姻を認めないとダメだ』というニュアンスで書かれている点で評価できます」
契約や遺言で婚姻と同様の効果を享受できるのか
裁判で国側は、契約や遺言で、同居・相互扶助義務や相続分などは設定できるとして、同性婚ができなくても「同性愛者に不利益はない」と主張していた。同様の法的効果は、個別の契約などによっても享受できるというものだった。
「これに対し判決は、婚姻は『身分関係を形成し』『その身分に応じた種々の権利義務を伴う法的地位が付与される』制度で、『婚姻と契約や遺言は、その目的や法的効果が異なる』として、契約・遺言の効果は『婚姻によって生じる法的効果の代替となり得るものとはいえ』ないと述べています」
木村さんは「判決は、婚姻は何よりも身分を作るための制度なのだと言っています。この箇所は、同居・相互扶助義務や相続分について、判決が配偶者同士の身分関係を作る『婚姻』として制度を整えることを立法府に求めていると読めます」と指摘する。
注目すべきは「個別の効果を議論していない」ということではなく、「裁判所が今認められている婚姻の効果は"原則として同性婚にも認められなければならない"と考えているようにみえる点」だと木村さんは分析する。
その前提で、「異性愛者のみに認められることが合理的である規定が部分的にあることは別途考える」とそういう態度を国に対して求めていることが評価できると話した。
違憲でも認められなかった国賠請求
今回の裁判で原告側は、国が同性婚を認める立法を怠ったとして国家賠償請求をおこなっていた。
違憲判断はなされたが、なぜ国家賠償請求については認められなかったのか。
「違憲な状態が生じても、法律の制定や改正には準備や審議が必要なため1日や2日では対応できません。そういう場合に違憲状態になって即、賠償責任まで認めるのは国にとって酷です」
立法不作為(国会が法律の制定や改正などを怠ったこと)の国賠請求は、
①立法不作為が違憲であること(違憲性)
②国家賠償法上の違法性と故意・過失(国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠ったと認められること)
という2つの条件が必要とされている。
②の「長期」の具体的な期間については、ある判例*では、国会が違憲だと認識した、または認識すべきだった時点から「10年以上の長きにわたって」立法措置を怠ったことが違法と認定されている。
※在外邦人の選挙権否定を違憲とした最高裁大法廷判決平成17年9月14日民集59巻7号2087頁。
同性婚については、国内で初の同性パートナーシップ条例が制定されたのが、6年前の2015(平成27)年10月であるため、仮にこの時点で国会が違憲と認識できたとしても、この判例にしたがえば「長期」には当たらない。そのため、木村さんは「条件②の国賠法上の違法性や故意・過失は認定できないという判断も理解できる」と語った。
国賠請求が棄却され、国は勝訴した形になった。違憲判決が不服であっても控訴することはできない。
原告は、控訴すれば違憲判決がひっくり返されるリスクもあり、このまま確定させる道もあった。しかし、すでに控訴する考えを明らかにしている。この動きについて木村さんは、長年苦しんできた当事者も多いとして、「きちんと賠償してほしいという気持ちもよく分かる」と原告側にも理解を示した。
「国の不真面目な態度のせいで議論が深まらない状況があった」
木村さんは、今回の判決について「正しい理論にのっとった判決で、細かいところに議論はあるが、違和感のあるところはなかった」と印象を語った。現在、同種の訴訟が東京、名古屋、大阪、福岡でも争われているが、判決に影響を与える可能性があることを指摘する。
「どんなに正しい理論でも、他の裁判所の判断がないと、裁判官は「本当に良いのだろうか」と不安になると思います。今回の判決がきっかけとなって、違憲だと考える裁判官が自信をもって判決を書けるようになります」
一方、被告である国の態度については、「余裕勝ちだと思っていたのか、『同性愛者も異性とは婚姻できるから平等だ』などと訳の分からない反論をしていた」と苦言を呈した。
これまでは「国の不真面目な態度のせいで議論が深まらない状況があった」とし、「今回の判決を受けて、国も緊張感をもって真面目に反論するようになれば、訴訟の中で、より有意義な議論が展開することになる」と期待を込めた。
今後については、最高裁判決が出るまでは時間がかかるとしつつ、「原告は序盤で大きなポイントを上げたと言える」と見ている。