※この記事は2021年03月19日にBLOGOSで公開されたものです

東京五輪開催の是非が二分している。

独米のPRコンサルティング会社「Kekst CNC」が日米欧6ヵ国で実施した新型コロナウイルス調査によると、4ヶ月後に迫った東京五輪の開催に反対の回答が最も多かったのは開催国・日本で56%。続いて英国55%、ドイツ52%、スウェーデン46%、フランス37%と、世界的に強い批判が高まっているのだ。

ちなみに、米国は賛否ともに33%で拮抗していた。

五輪開催の可否はワクチン接種に頼る部分が多分にあると思われるが、その接種に対しても日本は「する」「したい」と回答した人が64%という水準だ。

どんなにコロナ対策をしようとも、五輪開催によって感染が拡大しかねないと不安を抱く国民は多い。しかし、政府、東京都、大会組織委員会は、あくまで開催を優先させているのが現在の状況である。

「政府はコロナ禍で停滞した経済を回復させるには東京五輪の開催しかないと思っているのかもしれません」(社会部記者)

3月25日、聖火リレーがスタート

そんな中、東京五輪開催のいわば前哨戦とも言うべきイベントとなるのが3月25日にスタートする聖火リレーだ。前出の社会部記者は言う。

「現在発令中の緊急事態宣言は中途半端に21日まで延ばしましたが、聖火リレーまでに感染拡大を抑え込もうとしただけの策に思えます。しかし、感染者の減少は思惑通りには行かず、何だかんだと理由をつけて解除するしかなくなりました。

首都圏では知事によって解除の意見が分かれたりしていましたが、もはや無理矢理に意思統一を図っているとしか思えません。そもそも菅義偉総理の頭の中には、緊急事態宣言を延長しようなんて考えはなかったと思いますから」

ところが、その東京五輪への機運を高めるはずだった聖火リレーに対して思わぬケチがつき始めている。

「各地で走ることになっていたタレントなど著名人ランナーが続々と辞退を申し出ているんです」(芸能関係者)

芸能人が続々と聖火ランナーを辞退

ざっと主な辞退者を挙げると、愛知県犬山市を走る予定だったロンドンブーツ1号2号の田村淳、福井県内を走る予定だった演歌歌手の五木ひろし、福島市南相馬市を走る予定だった俳優の斎藤工。その他にも女優の常盤貴子(石川県七尾市)、シンガーソングライターの阿部真央(大分市内)、女優の玉城ティナ(沖縄県浦添市)、さらには福島県内を走る予定だったTOKIO(南相馬市)や窪田正孝(福島市)などが次々に辞退を明らかにした。

「辞退と言ってもその理由、事情は様々です。田村淳に関しては、五輪組織委員会の会長だった森喜朗氏が「コロナがどんな状況でもオリンピックは必ずやる」などと発言をしたことに対して、抗議の意味を込めての辞退だったこともあってやや際立っていましたが、田村以外は、基本的に聖火リレーが1年延期されたことによってスケジュールが合わなくなったことを理由に挙げています。

これはメディアの伝え方にも問題があります。確かに森前会長の女性蔑視発言が大きな問題になりましたが、必ずしも、不適切な発言が原因での辞退というわけではないのです。

メディアとしてはインパクト的にも、森氏の発言に関連づけたかったのでしょうが、いくらタイミングが合ったとは言え、全てを結びつけてしまうのは、さすがに無理がありますよ」(プロダクション幹部)

実際、常盤貴子は昨年9月に新しいリレー日程が発表された段階で辞退の申し出をしたと言うし、それはTOKIOや窪田正孝らも同じで「昨年の暮れから辞退を申し入れていた」。結局は、その申し入れを受けていた各自治体が発表を控えていたこともあり、今回の問題に発展したようだ。

「辞退者が一気に集中したのは、どうやら五輪の大会組織委員会から公表については2月26日以降にするようにと通達があったそうで、そもそも国から感染予防対策のガイドラインが示されたのも2月です。

しかも、ランナーには2週間前から外出を避けるなどの制約、それに体調管理が求められていました。スケジュール調整が困難なタレントにそんな対応を求めること自体に無理を感じましたね」(芸能関係者)

しかし、その中でもTOKIOの辞退は、やはりインパクトの大きさが違っていた。前出の芸能関係者が言う。

「TOKIOの辞退については昨年12月にジャニーズ事務所側から申し入れがあったようですが、彼らの場合は、他のランナーとは立場が全く違います。東日本大震災以降、長年に亘って福島に通い続け、県の物産などをPRするなど福島県民にとって馴染みが深かったわけです。

そう言った意味でも今回の辞退は衝撃も大きく、県民の間からは残念がる声も多かった。建前上、今回の東京五輪は〝復興五輪〟と言っているわけですから、辞退の理由はどうであれ、無理してでもスケジュールの調整が出来なかったのかという思いは残ります」

しかし、その一方では、島根県の丸山達也知事のように、

「我慢してオリンピックを受け入れるのが国民の声とは県民に言えない」

などと、県として聖火リレー中止の検討を表明し、この意見には同調する知事もいた。

捨てる神あれば拾う神あり

だが、辞退者がいる一方で走りたい人も多い。

被災地である福島県の聖火ランナーは25日から27日の3日間に26市町村265区間(51.71キロ)を巡る予定になっているが、第一走者を「なでしこジャパン」の澤穂希が務めることになった。その出発式は福島のサッカー施設「Jヴィレッジ」で行われる。

その他にも著名人のランナーとして音楽ユニット「Foorin(フーリン)」のひゅうがは相馬市、女優の菊池桃子が福島市を、さらに箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた柏原竜二選手と男子マラソンの藤田敦史選手が白河市。また、南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代がいわき市、元バレーボール選手の大林素子が会津若松市を走ることになった。

また、お笑いコンビ・オリエンタルラジオの藤森慎吾は、自身のツイッターで「藤森、地元長野で聖火ランナーやらせていただきます」と呟き、さらに「諏訪市の田んぼ道を走れるといいな!」と、返していた。

お笑いコンビ・ロッチの中岡創一に至っては、インスタグラムで「聖火ランナーのキャンセルでお困りの皆さん 中岡仕上がっています」なんて聖火ランナーの空き枠に立候補していた。

それだけではない。石川県では常盤貴子の代わりとして6月1日に女優の若村麻由美が七尾市の最終区間を務めることも決まった。このように続々と〝代役〟は決まっているのだが…。

「結局は、タレントなど著名人を起用することばかり考えていること自体が問題なんです。東京五輪を盛り上げたい気持ちも分からないわけではないのですが、コロナ禍での聖火リレーになるわけですから、その時点で人寄せパンダ的な著名人というのは極力控えるべきなのです。そもそも一般市民の間では走りたい人が多いはずですからね」(週刊誌の芸能記者)

緊急事態宣言解除を目前にした17日の東京都の感染者は409人。また、宮城県では過去最高の107人となった。

辞退者続出だけなら、その一方で走りたい人も多い聖火リレーだが、感染拡大は開催に向けての本質的な問題である。これまでを振り返っても何かとトラブル続きの東京五輪だけに、無事に聖火リレーがスタートできるのかが気になるばかりだ。