伊藤健太郎問題で考える、芸能人の不祥事に対する「正義感」が招くエンタメの劣化 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年11月27日にBLOGOSで公開されたものです
放送作家の深田憲作です。今回は「芸能人の不祥事」について書いてみます。僕がこの記事を書いているのは11月初旬。テレビでは俳優・伊藤健太郎さんのひき逃げ騒動が盛り上がりをみせています。（この記事が出ている頃にはすっかり風化していると思いますが…）
この件でニュースやワイドショーを見て僕なりに思ったことがあり、コラムに綴ることにしました。このコラムで僕に求められているのは「放送作家から見たテレビや芸能界についての見解」だと思います。そのため、これまではできるだけ放送作家だからこそ知りうる情報や分析を書いてきたつもりです。しかし、今回はかなり私的な記事となります。僕からの提案というか、お願いというか、願望というか…。たまにはこのような回もいいかなとも思いますので、どうか私的な記事にお付き合いいただけると幸いです。
尾崎豊を彷彿とさせる元欅坂46・平手友梨奈の魅力
突然ですが…私は欅坂46というアイドルグループのファンでした。ご存知のように、秋元康さんがプロデュースしていたアイドルです。「ファンでした」と過去形なのは10月13日をもって欅坂46は活動を終了したためです。現在は櫻坂46に名前を変えて活動をしています。
僕が欅坂46を好きになったのは楽曲・ダンスの世界観。そしてセンターの平手友梨奈さんという存在に興味を持ったことでした。楽曲は大人に対する不信感や人間の鬱屈・憂鬱などの負の感情を描いた内容が多く、「現代の尾崎豊」という言い方をされることもありました。僕はリアルタイムでは尾崎豊に触れていませんが、尾崎豊の楽曲は幼い頃から好きだったので、そのような世界観に惹かれる性分なのかもしれません。
楽曲だけでなく、平手友梨奈さんは立ち振る舞いも尾崎豊を彷彿とさせるところがありました。特に4thシングル『不協和音』でのパフォーマンスは圧巻の一言。ファンの間では『欅共和国2017』という単独ライブでのパフォーマンスは伝説とされているのですが、眼光とか表情とか色んな意味で衝撃映像でした。当時、彼女はまだ高校1年生だったのですが、何かが憑依していたとしか思えません。気になった方は、ライブDVD『欅共和国2017』をご覧ください。あの1曲を見るだけでも4630円出す価値はあるかと思います（笑）。
また、あるライブで披露された『ガラスを割れ』という楽曲でのパフォーマンスでは、1人で花道を疾走しながら踊り狂い、曲が終わった直後、フラフラになって花道から落下。そのまま病院に運ばれるということもありました。元々は花道を1人で疾走する予定ではなく、あれがアドリブの動きだったと聞いて驚愕しました。「あんなアドリブある？」と。「まるで鬼神だったぞ！」と。
尾崎豊もライブ中に高さ7メートルの照明器具から飛び降りて足を骨折したことがあるそうですが、尾崎豊さん同様、平手友梨奈さんもゾーンに入ると理性が飛んでしまうのかもしれません。
そのため平手友梨奈さんは、狂気の沙汰としか思えないパフォーマンスをする一方で、うつむき加減で終始覇気のないパフォーマンスの日もあるという、まさに「高低差ありすぎて耳キーンなるわ！since2017」を体現していました。（since2017はファンにしか分からないと思いますが）
彼女に対して「ちゃんとやれ！」と批判的なことをネットに書き込む一部のファンもいたようですが、僕は「いやいやいや、あれが面白いんやがな！」「分かってないな～」と感じていました。
1回1回のライブや歌番組がドキュメンタリーとして、面白かったんです。「今日はスイッチ入ってんな～」「今日は20点の日か～」と、同じ曲でもその一瞬一瞬を見る楽しさがあり、文字通り一挙手一投足から目を離せない、まさに本物のアーティストでした。
さらに、ドキュメンタリー映画を見て知ったのですが、平手友梨奈さんはミュージックビデオ（MV）の撮影に行かないということがあったそうです。高校生の女の子が大人でも震えるほど予算がかけられたMVの撮影を「気持ちを作ることができない」という理由で（おそらくですが）ドタキャン。結果、その曲は発売中止になってしまいました。面白くないですか？ ムカつきますか？ 僕は面白いですね。
いや、もちろん仕事をする人間としては絶対にダメだし、社会人として失格です。
僕も一緒に仕事をしていたら呆れるでしょう。でも、彼女は社会人ではなくアーティストですから（あくまで個人の意見です）。外野から見ている分には最高に面白いです。
だって勝新太郎さんの過去の映像を見ると、「絶対に仕事では関わりたくないな」と思いますが、見ている分にはめちゃくちゃ面白いですもんね。「これぞスター！」って思います。
芸能人は変人です。だからこそ面白い。もちろん、芸能人でも普通っぽいところが親近感を持たれたり、共感を生んだりすることも多くあると思いますが、芸能人になっている時点で基本的にみんな変人です。
だって、普通の人は録音した自分の声を聴くだけでも恥ずかしいですよね？ 音楽の時間にクラスのみんなの前で歌うだけでも逃げ出したいくらい緊張しましたよね？
それが見ず知らずの大勢の人の前に出て行って、笑いを取ったり、歌ったり、演技をしたり、水着になって胸の谷間を見せたり、無駄に熱いお湯に入ったり…（これはD川さんとDチョウ倶楽部さんだけか）
自分の意志でそれらを行う芸能人という生き物は変人です。変人だからこそ僕らを笑わせてくれたり、感動させてくれたりするわけです。
不祥事を起こした芸能人がテレビに出演できない理由
長々と書いてきましたが、何が言いたいかというと…。そんな変人だからこそ、あの人たちは失敗を犯してしまいがちです。「100％許してあげてください」とは言いませんが、もう少し寛容であって欲しいという思いから今回の記事を書きました。
この数年間だけでも、スキャンダルによりテレビで目にする機会が激減してしまった芸能人が数多くいます。その原因として近年、特に多いのが「不倫」。僕は思います。不倫は1年や2年にもわたり、仕事を奪われてしまうほどの悪事でしょうか？
もちろん褒められたことではありません。不倫された家族や事務所の関係者は鬼のように怒っていいと思います。その芸能人のクリーンなイメージを高いお金で買ってCMに起用していた企業も怒っていいし、CMから降ろして当然でしょう。
しかし、バラエティ番組や映画・ドラマに長い期間出られなくなるほどの悪事とは思えない。テレビにとっても才能ある芸能人を出演させられないのは大きな損失です。
ではなぜ、不倫などの不祥事を起こした芸能人が長い期間テレビに出演できないのか？ それはズバリ、視聴者からのクレームが原因です。「あんな奴を番組に出すな！」「見ていて不快だ！」「あいつを出すなら2度とこの番組は見ない！」とテレビ局に寄せられるクレームの数々。不祥事を起こした芸能人を番組に出演させると「視聴率が下がるから」ではなく、クレームが殺到するため起用できなくなってしまうんです。
テレビ局にとっては視聴者の全てがお客様。番組に出演させるたびにクレームが寄せられる芸能人を起用するなら、テレビ局は同じような属性を持つ別の芸能人をキャスティングします。不祥事を起こした芸能人が一定期間「テレビから干される」という現象が定型化するのはこのためで、中にはその番組のスポンサー企業に電話をかけるクレーマーもいるそうです。なかなかの執念ですね。
こういったクレーマーの中には、悪意ではなく純粋な正義感から行動を起こす方もいるのでしょう。「不道徳な人間が成功を収めるべきではない」といった信念があるのかもしれません。ただ、その正義がテレビやエンタメを劣化させる原因になっていることも、ほんの少しだけ認識して欲しいなと個人的には思います。
「テレビが面白いメディアであり続けて欲しい」
エンターテインメントの劣化といえば、インターネットに芸能人の誹謗中傷を書き込む行為もその一因なのではないでしょうか。
10月にダウンタウンの松本人志さんがメインパーソナリティを務めたテレビの特別番組『まっちゃんねる』内で「女子メンタル」という企画がありました。
女性芸能人が1つの部屋の中でお互いを笑わせ合うという内容で、ファーストサマーウイカさん、朝日奈央さん、ゆきぽよさんといった今をときめく女性タレントたちや松野明美さん、浜口京子さん、金田朋子さんといった芸能界を代表する天然モンスターたちを差し置いて優勝に輝いたのがAKB48の峯岸みなみさんでした。
その後、峯岸さんがウェブメディアの連載で綴った「女子メンタル」での優勝エピソードは胸に響くものがありました。連載には「アイドルのくせに芸人の真似事をするなと世間から酷評されたことで怖くなり、長年バラエティの仕事から逃げてきた」という旨が書いてあったのです。
芸能人は変人だと書きました。ただ、「変人」であっても「傷つかない」わけではありません。むしろ、普通の人たちよりも傷ついてしまう人種だと思います。書き込んだ側からすれば、届いていないと思っているその声は、確実に彼女たちにダメージを与え、仕事のパフォーマンスを低下させているんです。
みなさんお気づきかと思いますが、今や影響力のあるタレントはテレビがなくても稼げる時代になりました。YouTube、Instagram、note、オンラインサロンと、影響力のある人間がお金を稼げる選択肢が劇的に増えています。そして、今後はもっと増えていくでしょう。
影響力がある人、つまりは私たちが見たいと思う才能溢れるタレントほど、嫌気がさしたらいつでもテレビの世界を離れることができる時代になってしまいました。
だから、芸能人を「普通」の枠に閉じ込めて窮屈な思いをさせてしまうと、その反動はテレビ番組の劣化として視聴者に返ってきます。
もちろん、企業が成長するためにクレームは不可欠だということは承知していますし、インターネットで芸能人の悪口を書き込むことも完全悪とは言えないでしょう。
僕は不倫をした人を擁護して欲しいとは思わないし、ましてや罪を犯したタレントを「許してあげてください」と言いたいわけではありません。
ただ、もう少しだけ芸能人の失敗に寛容であって欲しいです。怒ってもいいし、嫌ってもいい。でも、芸能界や社会から抹殺するようなクレームや誹謗中傷はやめてあげて欲しい。
今回のコラムはかなり私的な内容になってしまいましたが、テレビが面白いメディアであり続けて欲しいと思う僕からのお願いでした。
深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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