※この記事は2020年11月22日にBLOGOSで公開されたものです

臨時国会も早いもので折り返しを迎えました。学術会議の任命拒否問題が焦点となるはずだった臨時国会も、コロナ第3波の直撃を受けて様子が変わりつつあります。菅内閣誕生からまもなく2ヶ月が経とうとする中で、国会論戦の評価と与野党の課題について考えてみたいと思います。

攻め手欠く野党 任命拒否問題に手詰まり感

当初、今回の臨時国会は「日本学術会議の任命拒否問題」が最大の焦点になると言われていました。菅内閣初の国会論戦に期待が高まっていましたが、予算委員会における質問などを見ている限りは、任命プロセスの確認や追及などに対して人事に関わる問題だとして答弁を拒否する姿勢を一貫したことで、期待されるような論戦にはなっていません。

また、この問題にいち早く取り組んだ日本共産党の質問こそ当を得たものでしたが、野党各党のこの問題に対する取り組みに協調姿勢が見られなかったことも残念でした。多くの学術会議がこの問題に対して政府の判断を批判する声明を発表している一方で、当事者たる6人の中には国会前のデモ活動に参加するなどの動きも見られ、抗議活動と政治活動との境界線がぼやけたことで、マスコミが報道しにくくなった一面もあると思います。

臨時国会が召集されてから1ヶ月が経ち、世間の日本学術会議の任命拒否問題に対する興味関心は当初よりも大きく薄れてきています。攻め手側である野党にこれ以上の追及方法がないことに加え、国民の関心は急速に進むコロナ感染拡大に移りつつあります。医療体制の逼迫や経済対策といった目の前の政策課題をおざなりにして日本学術会議の任命拒否問題にこだわり続ければ、野党に対する支持も確実に悪化するでしょう。一言でまとめてしまえば、この問題は野党にとって手詰まり感が出ており、結果的に「時間切れ」になりつつあるということです。

振り返ってみれば、安倍政権下における森友問題や加計問題、桜を見る会といった問題も、「時間切れ」となった経緯があります。予算委員会などの与野党国会論戦の場で「負の側面」に関する議論に終始している間に、淡々と政策実現を別ルートで進めていれば、内閣・与党の支持率が一定以上割ることはあり得ません。菅内閣にも継承された安倍内閣の国会運営手法がこの国会でも続いています。

2018年に当時自民党の筆頭副幹事長だった小泉進次郎氏は、加計学園の問題について、「国会で国民生活に大事な法案を審議する一方、スキャンダルなどについてもダブルトラック(同時並行)でどう回していくか」と特別委員会の設置を提起していました。特にコロナ禍における感染拡大防止の政策や経済政策は緊急を要するものがあります。すれ違いの議論で国会論戦を空転させて国民の期待を失わないよう、特別委員会の設置などメリハリのある国会運営が双方に求められるでしょう。

菅「長官」というイメージを拭い去ることができるか

一方、政府与党の運営も不安が残ります。まず何より、トップリーダーとしての情報発信が異様に少ないことが気に掛かります。

安倍政権下においては、菅官房長官(当時)が政府の広報役として、毎日の記者会見をこなしていました。長期政権における女房役のイメージから、今でも永田町で「長官」と言い間違える人が多いのも事実です。ところが、今年に入ってから新型コロナウイルスの感染拡大によって、安倍総理(当時)による情報発信や国民への呼びかけの必要性が叫ばれるようになりました。

安倍総理も情報発信や記者会見の少なさが指摘されていましたが、首相官邸のホームページに公開されている記録によれば、安倍総理の2020年における記者会見は、(式典後の会見やぶら下がりを除けば、)2月29日、3月14日、3月28日、4月7日、4月17日、5月4日、5月14日、5月25日、6月18日、そして辞職を表明した8月28日の10回にわたります。特に緊急事態宣言の発出前後では平均して隔週ペースでの記者会見が開かれており、政府からの国民向けアナウンスとして一定の効果があったでしょう。

しかし、菅総理は総理大臣就任後、記者会見をほとんど開いていません。9月16日の総理就任時に記者会見を開いた後は、唯一ベトナム及びインドネシア訪問についての内外記者会見で国内外4社から質問を受け付ける記者会見を行いました。ただ、そのほかに掲載されている会見は、「会見」とは題されているものの、いずれも記者からの質問も受け付けない「ぶら下がり」の場での一方的な数行程度のコメント対応ばかりです。緊急事態宣言こそ発出されていないものの、現状の第3波は当時の第1波より規模がはるかに大きく、また「GoToキャンペーン」などの政府施策との関連などの説明責任を記者会見の形で問う声もあります。

危機対応や広報力はリーダーシップの大きな構成因子ですが、これを発揮できないようであれば牽引力のないリーダーとして見做されるリスクが付きまといます。この点、今後コロナ感染拡大が急速に悪化した場合や、再度の緊急事態宣言が発出されるような事態になった場合の対応を鑑みてリーダーシップを発揮しなければ、菅「長官」としてのイメージを払拭するには至らないでしょう。

政治的焦点がないまま衆院解散総選挙に?

繰り返しになりますが、日本学術会議の任命拒否問題は「時間切れ」の様相を呈してきました。まだ臨時国会の日数は残されていますから、今後の展開も期待されるところですが、コロナ第3波の状況を鑑みれば、国会論戦の主軸が「コロナ対策」に移ることは致し方ないはずです。

来年1月の通常国会召集後の解散も噂されていますが、このままの国会運営が続けば、大きな政治的焦点がないままの年末年始を迎えることなります。コロナ対策でいえば、ワクチン接種に関する補償や優先度の問題、困窮世帯や事業者に対する経済対策、医療需要の逼迫といった問題がありますが、いずれも第3次補正予算で解決の方針が示されるはずです。東京オリンピックの実施可否という問題もありますが、実施主体たるIOCの意向が最優先される中で、日本が開催を辞退することは国際外交的にも相当大きな決断であり、野党がここまで踏み込んでくることは現時点では想定しにくい状況です。

仮にこのまま感染拡大が悪化すれば、最悪のシナリオとして「緊急事態宣言」の再発出も視野に入ってきます。政府がそのシナリオをとる時には、「定額給付金」のような大規模経済施策とのセットとなることが確実であり、平常時とは異なる警戒時の有権者の心理も加わって、「現状維持」という選択を多くの有権者がとることになるはずです。1年以内に確実に行われる衆院総選挙を意識し、先の長い展望を持って国会論戦に臨むことができるのは、与党でしょうか、野党でしょうか。