「ゴチになります！」「食わず嫌い王」「帰れま10」…テレビ史に残る優れた企画の共通点 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年10月10日にBLOGOSで公開されたものです
テレビ番組におけるいい企画は何か。その答えは人によって様々でしょうし、僕はその答えを明確に持っていません。そのため今回は、視聴率が獲れる企画＝いい企画という定義で考えてみたいと思います。
もちろんテレビマンは視聴率を獲ることだけを目指して番組制作をしているわけではありません。今後、テレビ番組に対する評価軸が視聴率以外のものに代わる可能性はありますが、少なくとも現在までは視聴率が1番の評価軸でした。
そこで近代バラエティにおいて高い視聴率を獲得してきた企画にスポットを当てて話を進めていきたいと思います。
「ゴチになります！」が人気を保ち続けた秀逸な理由
テレビマン同士でいい企画について語られる時、1番多く挙がるのが『ぐるナイ』の「グルメチキンレース・ゴチになります！」だと思います。
企画内容については多くの方がご存じかと思いますが、高級レストランで出演者たちが料理を注文し、その合計金額を番組が設定した金額に近づけるという企画。
おそらく国民のイメージは「ぐるナイ＝ゴチ」でしょう。『ぐるナイ』では長年に亘ってほぼ毎週のようにこの企画が放送されてきました。調べてみたところ、初めて「ゴチ」の企画が放送されたのが1998年10月23日。22年にも亘って1つの企画がゴールデンタイムの番組を支え続けてきたのです。テレビの歴史上、そんな企画は他には無いのではないでしょうか。
一定期間、爆発的な人気を博して世の中に一大ブームを起こした企画は数多ありますが、20年以上もゴールデンタイムで人気を保ち続けてきた企画はほぼ皆無。偉業といっても大げさではありません。いうなれば“化け物企画”です。
人気を保ち続けてきた背景には、タレントのキャスティングの妙、シーズンごとのストーリー性の構築、マイナーチェンジの繰り返しなど、出演者やスタッフの並々ならぬ努力や創意工夫があったことは間違いありません。やはりこの企画の秀逸な構造が人気を保ち続けてきた最も大きな要因だと思います。
「ゴチ」で題材となっているのは料理。テレビにおいてグルメは王道中の王道。なぜかというと人間なら誰もが料理には興味があるからです。
僕たちテレビマンは企画を考える上で「母数が大きい」「パイが大きい」といったいい方をしますが、テレビというマスメディアではまずその題材自体に興味を持ってくれる人がどれだけいるかが重要になります。
囲碁が好きな方には申し訳ないですが、例えば囲碁を題材にした企画がどれだけ面白かったとしてもテレビのゴールデンタイムで高い視聴率を獲るのは難しいと思います。それは囲碁が面白くないのではなく、囲碁に興味のある人の数がそれほど多くないためです。テレビで扱う題材として、囲碁は「パイが小さい」ということになります。
テレビの企画は、内容がすぐに理解できることも重要な要素の1つ。例えば、YouTubeでは定番企画となっているカードゲーム『人狼』をテレビで放送しても高視聴率は期待できません。なぜなら、ゲームのルールを万人が理解しにくい企画だからです。小さい子どもや年配の方が『人狼』を見てもゲームのルールが理解できず、楽しめないでしょう。
テレビのように不特定大多数の老若男女がふらっと訪れて視聴するスタイルでは、チャンネルをつけてわずかな時間で企画内容やルールがすぐに理解できるものでないといけません。
その点においても「グルメチキンレース・ゴチになります!」は「料理の値段を当てるクイズ」というシンプルな構造のため、老若男女が楽しめます。
クイズにもなっているため視聴者はその答えを確認するまでチャンネルを変えたくないという心理も働きます。テレビマンは「引っ張りがある」という言葉を使いますが「ゴチ」はまさに最後の答え合わせまで見ようと思わせる企画です。
「食わず嫌い王決定戦」の強みと弱み
「結果が気になる！」という引っ張りがあることもいい企画の条件の1つ。先述したように「グルメ」という題材はテレビにおけるキラーコンテンツですから、テレビの歴史上、多くのグルメ企画が考案され放送されてきました。
バラエティを主戦場にする放送作家なら誰もが「グルメ」と“何か”を掛け合わせた企画を考えています。その数は数え切れないほどでしょう。
例えば、「ゴチ」と並ぶテレビ史に残る名企画の1つに『とんねるずのみなさんのおかげでした』の「食わず嫌い王決定戦」があります。
これは出演者がお互いに4品ずつ料理を食べて、その中で1品だけ入っている嫌いな食べ物を当てるという企画。「ゴチ」が「グルメ×値段当てクイズ」ならば、「食わず嫌い」は「グルメ×嫌いな物当てクイズ」。
これも老若男女がテレビの前で「この人が嫌いなのは麻婆豆腐じゃないか？」 「いや、エビチリじゃない？」と、予想して楽しむことができます。
『とんねるずのみなさんのおかげでした』ではこの「食わず嫌い王決定戦」を毎週のように放送していた時期がありました。長年、番組を支えてきた最も太い柱のような存在だったように思います。
ただ、これだけの名企画ですが、強いて弱点を挙げるならば…それはキャスティングによって興味が大きく左右されることかもしれません。
例えば、矢沢永吉さんの嫌いな食べ物を当てることの興味に比べて、野々村真さんの嫌いな食べ物を当てる興味は大きく下がってしまいます。（野々村真さん、並びに野々村真さんファンの皆様すみません）
それに加えて、嫌いな食べ物がたくさんあるという人も珍しいため、1人の芸能人を何度もキャスティングすることができません。
その部分においても「ゴチ」は「料理の値段」にスポットを当てているため、その時期の旬の芸能人をキャスティングすることが可能で、繰り返し出演することができます。
料理の値段当てクイズのため、出演にあたってタレントとしての特別な能力が必要なわけでも、トークが特別に面白い必要もないため、芸人だけでなく俳優・女優も積極的にキャスティングすることができます。
事実、これまでに国分太一さん、船越英一郎さん、優香さん、佐々木希さん、杏さん、上川隆也さん、本田翼さんなど、豪華なアイドル・俳優・女優がレギュラーメンバーとして参加しています。
出演者選びだけでなく、お店選びでも困ることがありません。
テレビ番組で取り扱いたいお店を交渉する際に、企画内容によってはお店側が「番組で取り扱って欲しくない」とNGを出すケースもあるのですが「ゴチ」で取り扱われてもお店のイメージが損なわれることはないでしょう。おそらくNGが出ることはあまり無いと思います。（むしろ、お店の宣伝になります）
悪い例のように扱ってしまうのはしのびないのですが『とんねるずのみなさんのおかげでした』でやっていた「きたなトラン」という企画がありました。店内は汚いけど美味しいお店へとんねるずが行くという企画で、内容もとても面白いのですが、おそらく「汚いお店として扱ってほしくない」と断るお店もあったのではないかと思います。
このように、画面には映らないお店の取材や仕込みといった点においても「ゴチ」は永続的にやっていける企画であるといえます。
余談ですが「ゴチ」の企画を考えたのは、レジェンド放送作家の1人である堀江利幸さん。堀江さんはあの『\マネーの虎』も考案されていて、テレビ史に残る名企画を2つも生み出しています。（僕が知らないだけで他にもあるかもしれません）
そんな人が普段からどんな風に企画を考えているのか？ 一度お話を聞いてみたいところです。
思わず感心した名企画「帰れま10」
話を戻して…「グルメチキンレース・ゴチになります！」「食わず嫌い王決定戦」に並ぶ名物グルメ企画で思い浮かぶのは『もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!』という番組で放送されていた「帰れま10」です。
これはお店の人気メニューベスト10を当てるという「料理×人気ランキング当てクイズ」が構造の企画。「ゴチ」や「食わず嫌い」と違って、この企画が始まった時に僕はすでに放送作家として活動を始めていたので「これは見事な企画だな」と感心した記憶があります。
当時は視聴率20％前後を毎週のように叩き出していたため、ここ10年のテレビ界における名企画の1つでしょう。しかし、そんな「帰れま10」ですら毎週放送し続けたことにより視聴者に飽きがきたのか、視聴率はジリジリと下降し、レギュラー放送は終了しました。
しかし、現在でも定期的に特番として放送され、そのたびに高視聴率を記録していることからも、「帰れま10」が見事な企画であることは証明されています。
ただ「帰れま10」ですら、レギュラー番組としてそう長く続かなかったことを考えると、「ゴチ」がいかに化け物企画であるかが分かります。
ここまでご紹介した企画以外で、僕がテレビの名企画として思い浮かぶものを挙げてみます。
お正月などに定期的に放送され、そのたびに高視聴率を記録する『芸能人格付けチェック』、『ペケ×ポン』という番組の人気企画で、これも現在も定期的に放送されている「ペケポン川柳」。『めちゃ×2イケてるッ！』の人気企画だった「抜き打ちテストシリーズ」
「グルメチキンレース・ゴチになります！」「食わず嫌い王決定戦」も含めて、これらの企画に共通する点があります。それは企画が“クイズ構造”であること。 どの企画も「クイズ」とは謳っていませんが、どれも予想をして当てるため構造がクイズです。
日本人は本能的にクイズが好きなのかもしれません。たまに「クイズ番組は嫌い」という方もいますが、そういう人でもご紹介した企画は楽しんで見ているはずですから。
突き詰めるとテレビにおいて大切なことは、自分も参加している感なのかもしれません。僕も実体験として、お正月に実家に帰った時、親戚が集まって『芸能人格付けチェック』をワイワイいいながら見ているのを見て、この参加感が大切なのだと強く感じたことがありました。テレビに限らず、エンターテインメントの本質といっていいものかもしれません。
今回はテレビ史に残る名企画について述べましたが、みなさんが今後テレビを見る上で楽しめる目線が増えたのならば幸いです。
深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensaku19830728
・日本放送作家名鑑
