禁煙外来で苦しまずにノースモーキング生活 年間30万円の節約も体重は1ヶ月で5キロ増 - 岸慶太
※この記事は2020年10月09日にBLOGOSで公開されたものです
数少ないオアシスだったカフェや喫茶店にはいつの間にか禁煙になり、街で灰皿が見つかることもほぼなくなった－－。改正健康増進法の全面施行で屋内が原則禁煙となり、10月からはタバコが値上がりするなど、喫煙者を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。
筆者の喫煙歴は学生時代からの約15年。最近は紙タバコとiQOSの二刀流で、喫煙できる場所さえ見つかればその度に煙をくゆらせてきた。それでも、環境の変化に後押しされて、今回、4回目となる禁煙に挑戦している。甘えを断ち切ろうと、初めて禁煙外来を頼った。
毎日朝・夕と補助薬を服用し続けているが、想定と反してイライラを覚えることなくタバコが欲しくなることもほとんどない。「楽勝だな」と油断も生まれつつあるが、本当に禁煙できるかはまだまだ今後の頑張り次第だ。それでも、禁煙外来を訪ねて1ヶ月余り。体重が5キロ増えた点だけは納得できないが、生活のあらゆる面で変化が見え始めている。
朝はまず一服 生活の多くは喫煙習慣によって決められていた
学生時代と社会人としての15年あまり、タバコは携帯電話と並ぶ必需品だった。近くのコンビニ、銭湯に行く時にも常にポケットにタバコを忍ばせ、寝ている時を除くとほとんどの時間でタバコは半径5メートル以内にあっただろう。
タバコの健康への害を改めて説明する必要はないだろう。一方で、吸うことで緊張が和らいだり、アイデアが浮かんできているような感覚を覚えることができたのも事実であり、一概にタバコを批判するつもりはない。それでも、禁煙に成功しつつある今となっては、生活のあらゆる面に影響を受けていたことに驚きを感じずにはいられない。
・最寄り駅やターミナル駅の喫煙所の位置はほぼ把握している
・車や電車など移動のたびに喫煙する
・朝起きてまずタバコを吸う
・新幹線は必ず喫煙ルーム近くを指定する
・喫煙できない東北新幹線に乗るのは苦痛
・飛行機に乗る前はギリギリまで喫煙所に待機
・カフェといえばスターバックスではなく某チェーン店
・真剣に考え事をしようとするとなぜか喫煙所に向かう
・全面禁煙の串カツチェーンに行くのは気が引ける
・ホテルは喫煙ルームを指定するのに部屋の臭いが気になる
自分の経験に基づいて喫煙者特有の傾向を挙げてみた。“喫煙者あるある”は他にもまだあるだろう。
4回目の禁煙挑戦 「喫煙していると損ばかりする」と感じた
かつては飛行機でも電車でもタバコが吸えるのが当たり前だったと聞く。しかし、今は違う。時代が変わるにつれて、世の中の禁煙を求める動きは強まっていった。“吸えない”ことへの “我慢”が喫煙への欲求を増幅させる。自身もそんな悪循環に陥っていたように思う。
禁煙に挑戦するのは4回目だ。毎回、寝る直前に“禁煙の誓い”として最後の一服をして、眠りにつく。そして、翌朝から吸いたい欲求と戦い続ける作戦だが、禁煙が続いても2日がやっとだった。3日目の早朝の出勤途中に、無意識でコンビニで購入してしまったこともある。
今回は、8月中旬に友人と焼き鳥屋に飲みに行ったことがきっかけだ。店は学生時代から常連で、鳥を焼く煙とタバコの煙が入り混じる空間は嫌いではなかったが、今年4月から店内は禁煙に。軽い喫煙者だった友人も新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が続き、家族から度重なる喫煙を注意されてタバコを断つようになったという。
そんな話を聞きながらも、酒の影響もあってかタバコが吸いたくなってしまう。複数回中座して店外の灰皿に向かう。煙をくゆらせていると、同じ喫煙者の男性と「肩身が狭い時代ですね」などと定番の雑談が始まる。
男性と話をしていても、タバコを我慢できない恥ずかしさ、何度も店を出たり入ったりする情けなさが頭をよぎる。「タバコを吸っていると損ばかりする」。確かにそう思ったのだが、その時の覚悟はこれまで4回とさほど変わらなかった。
自分はニコチン依存症 その事実を前に禁煙外来を頼ることに
帰宅途中に「禁煙外来」を検索し、「ニコチン依存度チェック!」なるものを試してみた。インフルエンザにかかって高熱にうなされても、匍匐前進でベランダに向かいタバコを吸ったことさえある。「重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。」など10項目のうち7つも該当し、自分でもわかっていたものの、歴としたニコチン依存症と判定されてしまった。
翌朝、目が覚めると、いの一番にタバコを吸ったことは言うまでもない。それでも、決意が揺るがないうちにと、近所のクリニックを訪ねてみた。「自力ではこれまでと変わらない結果になる」。そんな思いがあった。
「タバコをやめたくて禁煙外来に」と告げると、受付の女性は慣れた様子で問診票を手渡し「正直に書いてくださいね」と一言。「正直に」の言葉に全てを見透かされた気がして、「1日に30本ほど」と記したように覚えている。
受付で待たされたのは10分程度。「医療体制の逼迫が言われているのに、自分は禁煙外来か…」「あのおじいさんは大病を患っているかもしれないのに、タバコをやめられない自分…」などとついあれやこれやと考えてしまう。初めてのクリニックだったこともあり、「お医者さんに冷たい目で見られたらどうしよう」と子どもじみたことも頭をよぎる。
禁煙の開始日は医師と決定 診察後もしばらくはタバコを吸える
医師の第一声は「よく来た!えらい!!!」。小学生の時に不審者を目撃して交番に報告した時以来の歓迎だ。続けて「来ただけでもえらいんだ!」。激励を受けると、自分が世の中のために正しいことをしているような錯覚を覚え、「この先生だけは絶対に裏切らない」と一方的な連帯感すら持ってしまった。
問診では、禁煙の動機や、これまでの禁煙経験、協力してくれる人の有無などを正直に答えた。思いもよらなかったのが「それで、いつから禁煙始める?」の問いかけだ。実は、禁煙外来は診療のその日から禁煙を始めなくてもよい。禁煙の開始日は医師と相談して決定する。
「ここで甘えたら成功しない。今日から始めます!」と口にはしたものの、タバコがない生活への不安が頭をよぎる。数秒後には「やっぱり、きりがいい9月1日にします」と前言撤回を考えたものの、この日から禁煙を始めることにした。
診察は10分もかからなかった。『禁煙宣言書』と言う紙に署名して、体重と血圧を測った後は、特殊な機械に息を吹き込む。呼気に含まれる一酸化炭素の濃度を測る装置だ。次回の診察で数値が上昇、もしくは横ばいだと、禁煙できていないことがバレてしまう。ちなみに、初回の測定結果は17PPMだった。
すべきことは禁煙補助薬の服用 そしてタバコの処分
処方されたのは「チャンピックス錠」と呼ばれる禁煙補助薬だ。2週間分が渡され、1~3日目は1日1回、4~6日目は1日2回、7日目以降はこれまでの倍の量を1日2回服用する。帰宅して朝食をとり、早速服用した。10分ほど経つと、医師が指摘していた通り、腹部の気持ち悪さを感じた。水を多めに飲んだほうがよさそうだ。
帰宅してもう一つやらねばならないのが、喫煙グッズの処分だった。身近に喫煙できる環境があれば、どうしても吸いたくなってしまう。iQOSをやめるのは難しくなかった。昨年秋にキットを譲り受けたが、吸っても1日に10本足らず。早速メルカリに出品すると、その日のうちに売買が成立した。
難航したのが紙タバコだ。ベランダにはライター4本が無造作に置かれていた。廃棄するために1本ずつガスを抜いていくが、最後の1本になると手が止まる。傍らにはほぼ新品の紙タバコも。昨夜のうちに捨てておかないのは大きなミスだった。
「タバコはやめる!」はずが… 手を出してしまった弱さ
目の前には最後のライターと新品のタバコ。頭の中で何度も「俺はタバコをやめるんだ」「いや、今日からじゃなくてもいいらしい」と葛藤を繰り返し、時間ばかりが過ぎる。「30半ばになって平日の朝から自分は何やってんだ」とも思ったが、ここで弱さが出た。
1本にとどまらず、朝だけで3本。結局、その日は我慢しながらも10本近くを吸う結果に。「やっぱり自分には無理か」と不甲斐なさに苛まれた。
翌日も補助薬は服用しているものの、なかなか悪癖は抜けず、目覚めてから2本、昼食をとって2本などと禁煙できる気配はなかった。タバコが残り1本となったのは就寝前。『禁煙宣言書』を裏切っている罪悪感と情けなさを覚えつつ、最後の1本を惜しむかのように大切に吸い終えてから就寝した。
3日目朝。手元にはライター1本と空になったタバコの箱がある。ここでコンビニに走ってしまうと、これまでの繰り返しだ。補助薬の効果かは分からない。タバコを吸いたい気持ちはあったものの、足は向かなかった。タバコを吸えない多少のモヤモヤ感を抱えつつ、1日を過ごし、夜はなんとか眠りにつけた。この日からしばらくはそんな日が続いた。
外出すると出くわす誘惑の数々 補助薬の効果も着実に
在宅勤務のため日中はほぼ自宅で過ごすが、夕方からは毎日外出している。当然、誘惑も多い。
駅に行けば、喫煙所が目に入り、「いかん。いかん」と誘惑を断ち切る。コンビニも難所だ。レジに向かえば、自ずとタバコが目に入る。愛用していた銘柄を見てしまうと昔の彼女に再会したような感覚になる。言わずもがな酒の席は我慢の連続だ。
補助薬の力を感じたのは9月初め。通院から10日ほど経った日の昼だった。その日1日を振り返ってみると、毎朝感じていた「吸いたい!」と言う欲求を感じなくなったのだ。「これって禁煙できてるってことか。余裕だな」と慢心しそうになる。しかし、ここで通院をやめてしまうと最終的には4.7%の人しか禁煙に成功しないそうだ。
2回目の診察は9月18日だった。初回に処方された補助薬は2週間分。薬を飲み忘れることが度々あり、数日遅れの診察となってしまった。医師には正直に伝えた。「最初の頃はどうしても吸いたくなってしまって」「薬を飲み忘れたことがあった」
医師は残念そうな表情で「薬はしっかりと守らないとな」。期待を裏切ってしまったようで申し訳なさが募る。それでも、「全然大丈夫。今日こうやって来てくれたのも禁煙したい思いがあるからだ」。生まれたての子馬のような目で見つめられ、禁煙への思いを新たにした。
この日も2週間分の補助薬が処方された。飲み忘れを防ぐため、カレンダーに丸をつけて、欠かさず服用していく。確実にタバコへの欲求が日に日に無くなっていき、「1本だけ吸いたい」と思う瞬間も無くなっていった。
禁煙のメリットは様々な場面で 周囲の激励も励みに
禁煙のメリットを実感するようになったのはこの頃からだ。以前は、タバコの臭いが気になって1日で2度3度と着替えることがあった。特に、向かい風の中でタバコを吸うと髪にも臭いが染みつく。禁煙開始後は、朝に着たシャツで夜まで過ごすのが当たり前になった。洗濯の量は半分以下にまで減った。
禁煙は財布にも優しい。コンビニにタバコを買いに行って同時にガムやペットボトル飲料水を購入する無駄遣いも減った。
自分なりのルールも定めた。寝ぼけてタバコに手を出すことを避けるため、朝一番にシャワーを浴びるようにした。医師の勧め通り、周囲の友人らには禁煙していることを宣言した。「そのほうが絶対にいい」と言う言葉の力は強く、飲みの席でもタバコを我慢することは苦痛でなくなっていった。
1ヶ月余りで5キロの体重増 禁煙が進むにつれて増した食欲
ただ、気がかりな点がある。異常なまでのペースで体重が増えていることだ。初回の診察(8月27日)の測定時は82.6キロだったのが、10月8日現在で87.6キロと5キロも増えた。
その点は、3回目の診察(10月1日)時に医師に相談した。医師の説明では、ニコチンにはもともと食欲を減退させる効果があり、補助薬は人をニコチンを欲しない状態にさせる。そのため、補助薬を飲み続けることで、食欲が増すというのだ。補助薬の副作用ではなく、つい多く食べ過ぎてしまうのだという。
思い返すと、禁煙開始から3週間が過ぎた頃、こんな日もあった。
午前7時過ぎの朝食にUber eatsで配達してもらったカレーパンと焼きそばパンを食べ、午前10時には再びUber eatsでカツカレーとサラダを注文。昼過ぎの午後2時ごろにコンビニであんかけ焼きそばとサバの味噌煮、パック入りのコーヒー牛乳を購入。
自宅での勤務を終えた午後5時ぐらいに所用で外出し、立ち寄ったケンタッキーフライドチキンで好物のビスケット2個だけのはずが、さらにオリジナルチキン2ピースとコーンサラダも食べる。午後8時過ぎに友人と落ち合ってジンギスカン店で暴飲暴食。締めは長浜ラーメン。
禁煙生活にはメリットしか感じていないが、体重の増加は盲点ともいえる。食べ物を美味しく感じていることは、禁煙が進んでいる証だが、肥満によって健康を害しては本末転倒だ。
禁煙外来で浮いた3万円 「金がもったいない」も立派な動機
「お金がもったいない」というのも立派な禁煙の動機だろう。最後に、タバコに関わる財布の状況を示したい。
禁煙前、筆者は一日に約30本を吸っていた。紙タバコが20本、iQOSが10本と言う内訳だ。紙タバコが1箱(20本入り)540円(10月まで490円)、iQOS用タバコ550円(10月まで520円)なので、新料金で計算すると一日あたり815円費やしてきたことになる。
一方、禁煙外来は診察料と補助薬(いずれも自己負担分)の料金の2種類で、これまで3回の診察でかかったのは計1万3,140円。内訳をみると、診察料が①1,760円②1,130円③1,130円、補助薬の料金が①1,940円②2,480円③4,700円――。
補助薬は初回の診察から計8週(56日)分が処方されており、仮にその期間中も喫煙を続けていたとするとタバコ代に4万5,640円投じたことになる。これまでの禁煙外来の費用は1万3,140円だから、3万2,500円が浮いた計算になる。
タバコに投じていた30万円 旅行費に充て禁煙のモチベーションに
診察は初回から2、4、8、12週間後の計5回必要で、途中で勝手に診察を受けるのをやめてしまうと、再び喫煙を始めてしまうケースが多いという。筆者もまだ治療の途中であり、禁煙に成功したと表現するのは早計だ。
確かに、受動喫煙など周囲への悪影響を配慮した上であれば、喫煙は個人の権利として認められるべきであるし、最近の喫煙者への風当たりには寂しさを感じるのも正直な思いだ。
それでも、禁煙を始めた今は、お金や健康の面で手に取るように感じられる変化が楽しく、禁煙前の生活に戻りたいとは思わない。禁煙を始めてある試算をしてみた。従来通りのペースでタバコを吸い続けたら、年間で29万7,475円を費やす計算になる。
新型コロナの感染拡大が報じられる前、長期休みを使ってイランを訪れることを計画していた。節約に努めて旅費を貯めてきたが、それは禁煙によって簡単に補えそうだ。
イランに行く一つの目的は本場の水タバコ。目的を改めて、コロナが収束した頃にイランを訪ねたい。それは禁煙の一つのモチベーションになりそうだ。
