※この記事は2019年03月07日にBLOGOSで公開されたものです

政治や経済を軸とした日本との関係で語られることの多い、隣国の超大国・中国。一時期よりは日本語でアクセスできる現地情報が増えたとはいえ、まだまだ日本からでは見えにくい部分も多い。

なぜ中国では次々に新たなサービスが登場するのか、そして今、中国の若者の間でどんなカルチャーが流行っているのか。中国を専門とするマーケター/コンサルタントとして活躍し、2019年1月1日からは株式会社チョコレイトの執行役員・海外事業プロデューサーに就任した陳暁夏代氏が解説する。

中国で変わりつつある日本製品のイメージ

昨年1年は日系企業の中国進出をメインにブランディングから戦略策定まで様々な案件を手がけてきました。クライアントのジャンルは幅広く、化粧品会社からコンシューマー向け家電・プロダクトのメーカー、ビジネス関係まで様々なものがあります。

日本の商品がどれほど中国で知られているかというと、基本的には日本の知名度と現地での知名度は一致するものが多いと言って良いと思います。その一方で、アイテムでもキーワードでも国ごとに必要とされるものが違うので、日本で無名のブランドの商品が中国で売れているというケースはよくあります。

観光客が多い新宿などのドラッグストアで、店頭に陳列された外国人向けの棚にある商品が全然見たことがないものだったという経験をしたことがある人は多いと思います。あれは今言ったような国ごとに必要とされているものが違う良い例で、並んでいるのはターゲットとする国ですごく売れている商品なんです。売れるから仕入れて観光客向けに売る=インバウンド売り上げ強化ということをやっています。

昔と違って、「日本の製品=No.1」というイメージはそれほど強くなくなりました。最近は中国のオリジナル商品の質も上がっているということ、もう一つは海外市場においてはすべての国と競合しているという理由です。後者については、例えば化粧水は世界中で販売されていますが、その中から中国の消費者が良いものを買おうと思ったら、知名度のある欧米のハイブランド商品との比較になります。

日本でも「メイソウ」というショップの名前を聞いたことがある人はいると思います。日本の100均コンセプトを真似し、結果店舗展開、売り上げ共に元ネタを超える、というお店です。近年こういうケースは多岐にわたるジャンルで見かけます。中国は製造原価が格段に安いので、アイデア商品のプロトタイプをすぐに作れるという強みがあります。とにかくスピードがすごく速い。日本だと安全管理や原価の問題があるので、ここで大きな差がつく面はあると思います。

日本、中国と韓国の違いを考えると、この3つの国は市場の違いでそれぞれの性格が分かれているように思います。日本の強みは独自のアイデアが強いこと。二次元カルチャー、漫画・ゲーム・アニメなど、アイデアをゼロベースから作るのがすごく上手だと思います。“想像力”ですね。その一方で、長く自国の市場だけで成り立ってきたので、そうやって築き上げてたものを海外に輸出するということをやってこなかった。だからその知見がありません。日本は今後、国内で回らなくなって海外に出ていく意欲が生まれたら、そういうノウハウも蓄積されていくのかなと思います。

中国と韓国はお金や納期、「Yes・No」のハッキリした考え方がすごく似ているなと思います。それでも市場からくる性格の違いはあって、小さな市場しか持っていなかった韓国は外へ向くしかない。日本が「100」のものを作るとしたら、韓国が作るのは「50」なんだけど、それをパッケージングして外に持っていくのが得意。中国は「50」のものしか作れないけど、それでも生きていける巨大なマーケットがあります。そのため外を向く必要がなく、国内向けに現時点で「50」のものを「60」とか「70」に磨いていけば売れていきます。

納期にルーズな中国の商売相手はお金で動かす

中国に進出する会社には、大きく分けて二つがあります。一つは現地で10年、20年やっている大きな会社で、もう一つはここ5年くらい、春節の爆買いが話題になった時期から中国に注目して、参入し始めた会社です。後者は大半が自社の商品が売れていることに何かのきっかけで気づいて「中国に行こう!」という企業です。ただ、少ない割合ですが「新しいものを作って出て行かなきゃ」と考えているグループもあります。市場の考え方として、日本だけではなく中国にも韓国にもそれ以外の国にも展開していこう、という時代の意識変革が起こっているのかなと。

長く中国でやっている大手の会社と、ここ5年くらいの新規参入の二つがあると言いましたが、私はその両方と一緒に仕事をさせてもらっています。中国で長くやっている会社がなぜ私に声をかけるかと言うと、中国の社会変革が激しいので、毎年マーケティングやブランディングの方法、商品の売り方を変えていかなければならないからです。2019年はどうしよう、次の2020年はどうしよう、という「0→1」を小刻みにやっているイメージで。それは大手でも新規でも同じ悩みを抱えています。

中国の変化が速いということはよく言われていますが、商品でも芸能人でもとにかく速いサイクルで消費されていきます。情報量が多いので、新しいバズにどんどん刷新されていく。日本だと絶対的な情報量が少ないので、同じ人がずっと売れているということが起こりますが、中国はプラットフォーマーも、プレイヤーもたくさんいるためトレンドの移り変わりが速い。

中国に進出した企業は、一度は皆同じ失敗を通るのではないでしょうか?それはいたって普通のことで発注したメーカーから上がってくるもののクオリティが低いとか、現地の人とのやりとりがうまくいかないとか。

コミュニケーションがうまくいかないのは日本語と中国語の違いの問題でもあるんですけど、中国は「Yesか、Noか」の文化で、日本は「大丈夫か、そうじゃないか」という文化がある。その日本的なコミュニケーションで進めていると、意図していたものと全く違うものが戻ってくるというエラーがよく起こります。

ビジネス習慣でいうと、納期の感覚が全く違いますね。日本は仕事を事前に進めていくイメージですが、中国はデッドラインのそのまたデッドラインが締め切りくらいの感覚でやっているように思います。これ以上は、というデッドを超えたあたりで出してくるというか。できないものはできない、頑張ったりはしないという感覚ですね。

もし多少ムリなことをお願いするときは、お金で解決するしかないですね。「お願いします」では作業してくれなくて、着金したらすぐにでも作業を始めてくれる。あとはポジショニングをしっかりとることですね。どちらの立場が上かを明確にすること。そういうことに気をつければ、中国人はメリット・デメリットがハッキリしているし、支払いもハッキリしています。納期だけハッキリしていないんです(笑)。

中国の若者が夢中になっているアプリは?

若者が使っているアプリでいうと動画アプリは欠かせないですが、中でも短尺動画アプリだと1位が「快手」で2位が「抖音(TikTok)」。その下に有象無象のサービスがひしめいているという状況です。

動画サイト(VOD)は大手3社のものが強いですね。バイドゥの「爱奇艺(iQiyi)」が1位で、アリババの「优酷视频(youku)」が2位、これは日本でも名前が知られていますね。それからテンセントの「騰訊視頻」が3位です。どんなジャンルでも、基本的に2強か3強になっていきますね。各社、その力関係の中でターゲットを変えて、載せるコンテンツを変えています。

SNSはやはり「WeChat」がメインです。1端末1WeChatという感じ。WeChatはスマホみたいなもので、あまりアプリとして捉えていない気がします。スマホを買ったら入っている「総合プラットフォーム」ですね。「weibo」は情報メディア兼Twitterといった立ち位置のサービスなので、必要のない人もいます。だからそこにインフラは積まれていない。

Instagramのようなアプリでいうと、weiboのタイムラインとWeChatのストーリー機能がその役割を担っています。Facebook的なサービスは、年代ごとに分かれたソーシャルプラットフォームがあって、それを使っている人が多いですね。

Google、YouTube、Facebook、Twitter、LINEなんかもそうですが、国内のサービスを成長させるために、中国では海外のトップサービスは使えません。だから必要のない多くの中国人は、わざわざ使うことはしていないと思います。ペルソナや個人の関心によって違うという前提はありますが、海外の情報に興味がある中国人も一定数います。(中国の場合はその一定数がすごく多いんですけど)。

ただ、どの国でも基本的には自国のコンテンツを消費するものだと思いますが、何度も言っているように中国はとにかく情報量が多いので、あえてそれ以外の情報を取りに行く必要もないのかなと思います。それでも日本と同じような広がり方で海外エンタメが流行ることはあります。例えば音楽だったら、TikTokですごい使われている曲があって、多くの人がそれを聞くようになるとランキングに登場して、テレビ番組によく出るようになってという流れですね。

中国の法律は新しいサービスに優しい

日本にあまりないサービスはいろいろなジャンルでありますが、特に注目しているのは医療系と教育系のサービスです。なぜかというと、日本でも同じ需要があるはずなのに、これらの領域のサービスがあまり見られないからです。

イメージとしては、オンライン上で塾の先生と一緒に勉強したり、医師のオンライン診療が受けられたりというものですね。医療系サービスの広がりを見て思うのは、日中の法整備の仕組みの違いだと思います。ユーザーの急激な需要に対応して、サービスがリリースされそれに伴って法律が整う、という順番で進んでいくことが良くあります。

優先されるのは市民のニーズなんですね。明らかにネガティブに違法でない限りは、変化する市民の需要に伴ったサービスが出てきます。どこの国でも、今ある法律ではカバーされていない需要領域があると思いますが、中国の場合はサービスが登場してから法律の「抜け」を整備するというイメージです。そこが日本とは大きく違うと思います。

ユーザーが一気に増えるような現象が今の日本では生まれにくいのも、この辺りのことが関係しているのかなと。日本は8割が適度に完成されている国なんです。何か新しいサービスを作って残りの1、2割を救いたいという時に、本当に頑張って法律を変えてまで、そのマイノリティを救う必要があるのか、という判断が難しいのではないかと感じています。

医療系を例に挙げると、中国だと人口の数に対して病院の数が明らかに足りないという現状があります。朝病院に行くとオープンと同時に100人くらいが、ショッピングモールのセールのように押し寄せてきます。そういう現状を皆が社会問題として捉えていて、それを解決するために現行の法律では認められていないオンライン上のサービスを展開しようと思った時に何が起こるか。そこで登場したサービスは、社会課題を解決していることが明らかなので、法律の対応も優しくなることが多いですね。

だから日本と中国の違いは次のように説明できると思います。社会課題を解決しているのか、サービスを作っているか、という違い。中国には解決しないといけない社会問題、課題が沢山あるから次々に新しいサービスが登場する。だから社会の進化が速い。でも、日本はその時代はもう10年前に過ぎているんじゃないかなと思っています。

中国の若者にとってはネット動画がマスメディア

中国で今、一番見られているエンタメはやはり動画です。これは日中のマスメディアの捉え方の違いで、日本ではまだテレビが主流だと思いますが、中国は日本と比べて平均年齢が10歳くらい下がるので、マスメディアの概念がインターネット上のものになるんです。動画を見る時は、時間に縛られない動画プラットフォームを見るというスタイルが、一番大きなボリュームの若い年齢層には合っていると捉えていいと思います。

テレビ番組でも同時にオンライン上にアップされるのが一般的なので、テレビと動画サイトと区別する感覚もありません。この番組が見たいと思った時に検索するという感じの視聴方法なので時間に縛られる必要もなく。

例えば音楽番組でも、ユーザーが欲しいようにアップされています。1時間の番組があるとして、放送すべては見たくないけど、ある歌手の部分だけ見たいということがあると思いますが、オンラインではその人のパフォーマンスの部分だけでアップされています。そう言った権利側の対応力も、メイン対象ユーザー=若年層の需要から来ています。

動画プラットフォーム自体がマスメディアだからこそ、そのユーザー層に適した動画の作り方に慣れているんですね。テレビと同じ番組でも、オンライン上のプラットフォームに適した形で公開するという。でも、今後日本でそうなるとも思いませんし、需要に攻められた結果の問題なのかなと。

ネットがマスメディアなので広告も自由度が高いです。テレビ番組も同時にネットに上がるのでCMはまず見てもらえません。そのため、広告は番組内にプレイスメントしたり、番組を買いきったりと様々な手法があります。

広告に関して言うと、KOL (Key Opinion Leader)というキーワードがあります。日本だとインスタグラマーのような属人的なものをイメージしますが、KOLは「影響力のある発信元」と理解するのがわかりやすいのかなと。KOLは人に紐付いているわけではなく、情報アカウントやメディアなども含まれています。

プラットフォームもプレイヤーも多様化しているので、ある情報を出すときに、動画なのかSNSなのか選択肢が沢山あります。プレイヤーで選ぶときは、その人が何に強いかを見て決める。この組み合わせが無数にあって、日本のPRよりも複雑だと感じています。日本から中国に行って起こりがちなミスで、フォロワー順に芸能人のリストが出てくるような場合、日本の感覚だとフォロワー数でGoサインが出ることもあると思いますが、中国では属性や強い分野、露出のある場所間など、フォロワーだけじゃない要素を考えることにも大きな意味があります。

私は去年1年で10社以上をクライアントに日系企業の中国進出のブランディングや企画立案などと動き、知見もかなり溜まっているんですけど、コンサルの仕事は1対1なので自分でできることには限界がある。それよりは自分の持っている知見やノウハウを作品、何かしらコンテンツに落とし込んで世に出した方が、より多くの人に届くのではないか、そういう方向に自分もシフトしていきたいと思い、今年株式会社チョコレイトにジョインしました。

弊社は映像コンテンツを軸としたIP開発をメインに行っています。これまで説明したように、中国は今動画がメインストリームです。だからこそ日本からコンテンツを持っていって色々な展開ができるなと考えています。私自身も企画から運用まで携わっていて、企画段階から中国ではこう、韓国ではこうと、リージョンごとに展開できるコンテンツを作っていこうと動いています。

すでにあるものを見せ方を変えて現地でウケるのは、当たっているものだけなんです。それはごく一部で、量産したところで二番煎じになる。だけど、企画から現地で展開できるものであれば、準備ができます。扱っているカテゴリは様々ですが、例えば料理動画なんかは日本と中国で重なる部分もあります。そうしたものを動画コンテンツ、番組、企画として展開したり、料理番組であればそこからさらに広げていったりできればと考えています。
(構成・島村優)

プロフィール

陳暁夏代(ちんしょう なつよ) @chinshonatsuyo
DIGDOG代表/CHOCOLATE執行役員
内モンゴル自治区出身、上海育ち。幼少期から日本と中国を行き来する。上海・復旦大学在学中からイベント司会・通訳を行い、その後上海にて日本向け就職活動イベントの立ち上げや日系企業の中国進出支援に携わる。2011年より北京・上海・シンガポールにてエンターテインメントイベントを企画運営。2013年東京の広告会社に勤務。2017年、DIGDOG llc.を立ち上げ、日本と中国双方における企業の課外解決を行い、エンターテインメント分野や若年層マーケティングを多く手がける。2019年よりコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.で、オリジナルコンテンツの開発やグローバル展開の仕組みづくりなどを担当している。