原発安全神話のPR施設は、事故の反省と教訓伝える場に 東京電力廃炉資料館 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年03月06日にBLOGOSで公開されたものです
東京電力福島第一原発事故の教訓や、原発を解体する廃炉作業の進捗状況を伝える「東京電力廃炉資料館」が昨年11月末、福島県富岡町にオープンした。かつては原発の安全性をPRするシンボル的存在だった施設を改装し、県内外の人に多大な被害を及ぼした原発事故を語り継ぐ場へと、その役割を大きく変えた。
館内には、原発事故直後の1~4号機の様子や事故対応にあたった社員の回想、第一原発構内の現状などに関する映像や3Dが用意され、原発事故と廃炉作業について分かりやすく伝えている。
原発事故については「今なお多大なご負担とご心配、ご迷惑をおかけしている」などと責任を前面に押し出した。一方、放射性物質が拡散したことでピーク時には16万5000人近くの県民に避難を強いたことなど、避難者の被害の実相に迫る展示は目立たない。
資料館は、原発事故の記憶と記録を残すことをコンセプトにオープン。今月5日に来場者数は1万人に達し、当初目標の年間2万人以上を大きく上回るペースとなっていて、「今も多くの方に避難を強いてしまっている状況など、来場した方からいただいた意見を展示の改良に生かし、二度とこのような事故を起こさないための反省と教訓を社内外にお伝えしたい」としている。
原発事故の記憶と記録を残したい
資料館の前身の「福島第二原発エネルギー館」は1988年7月に開館し、原発の安全性や原子力の可能性をPRする施設として家族連れなどが訪れてきた。しかし、2011年3月11日に原発事故が発生。第一原発から南に約9.5キロの位置にある施設一帯にも避難指示が出された。
事故から6年がたった17年4月に避難指示が解除されたことを受け、東電は原発事故の記憶と記録を残し、事故の反省と教訓を伝えるために資料館の開館を決めた。資料館は2階建てで、延べ床面積約2500平方メートル。昨年11月30日にオープンした。
明確に打ち出した原発事故への謝罪
2階部分は、「記憶と記録・反省と教訓」と題して、原発事故が起こった背景や現場での対応を紹介している。シアターホールは、縦3.5メートル、横13メートルの巨大なスクリーンを設けている。
「2011年3月11日、当社は福島第一原子力発電所で、極めて重大な事故を起こしました。福島県の皆様、広く社会の皆様に甚大な被害をもたらし、今なお多大なるご負担とご心配、ご迷惑をおかけしていることについて、心よりおわび申し上げます」
「当社は」と主語を明確にしながら、原発事故を起こしたことを謝罪する言葉が流れる。続いて、午後2時46分の地震発生から、1、3、4号機で建屋が爆発するまでの映像が次々と映し出されていった。
「安全とは、おごりと過信に過ぎなかった」
映像は約8分間。原発事故によって避難指示が拡大されていったことや、大量の放射性物質が拡散されたことも伝えている。そして、映像は次の言葉で締めくくられる。
「私たちが思い込んでいた安全とは、私たち東京電力のおごりと過信に過ぎなかったことをまざまざと思い知らされました。あの巨大津波は事前に予想が困難だったからという理由で、今回の事故を天災と片付けてはならないと思います」
「事故の反省と教訓を胸に刻み、福島を復興し、事故を起こした発電所を安全に廃炉にすること。この大きな責任を果たすことに全力で取り組んでまいります」
「福島の方に懺悔の思い」 事故当時を振り返る社員
他にも、東日本大震災の発生から構内の電源が復旧するまでの11日間について、AR(拡張現実)を使いながら振り返るコーナーや、地震の発生から原子炉が冷温停止状態になるまでの過程について示したパネルなどが並ぶ。
特に目を引くのが、「あの日、3.11から今」と名付けられたコーナー。当時、原発事故の発生対応にあたった社員5人が語り部となって、事故を振り返る映像を見ることができる。当時の混乱した状況を振り返る話のほか、「世話になっていた福島の方々に避難を強いることになり、懺悔の思い」などと、社員個人としての正直な思いも紹介されている。
第一原発で進む廃炉の現場を疑似体験
1階フロアは「廃炉現場の姿」と題して、現在進行形の廃炉作業の様子を取り上げている。縦4.6メートル、幅13メートルのLEDビジョンを備えたコーナー「エフ・キューブ<F・CUBE>」は、大人の目線の高さから、第一原発構内の作業員の様子や、建物や重機が写され、まるで現場にいるような錯覚に陥る。今後も撮影地点を増やしていくという。
廃炉作業の現場で課題となっている放射性物質を含んだ汚染水。「汚染水対策」のコーナーでは、▽汚染源を取り除く▽汚染源に近づけない▽汚染水を漏らさない――の対策の基本方針を紹介。ジオラマやプロジェクションマッピングも並べて、それぞれの方針の具体策を説明している。
被害を伝える展示目立たず「今後も改善」
他にも、「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」では、1、3、4号機の建屋の模型や、原子炉内を調査するロボットを並べながら、実際の作業状況について映像を交えて伝える。
事故から8年近くたった今も、多くの住民が地元に戻れずにいる点は、福島第一原発事故の特徴の一つだ。資料館には、帰還した住民が集まったり、帰還の参考にしてもらおうと放射線量に関する情報を提供したりするスペースも設けられた。ただ、展示内容を見回すと、現在の避難の状況や、放射性物質による根強い風評被害などを特集した展示は見受けられない。
同館は半年に一回程度展示内容を更新する予定で、同館の中里修一副館長は「現状の展示で資料館の完成とは考えていない。内容や伝え方について今後も改善を続けていきたい」と話している。
東京電力廃炉資料館:福島県双葉郡富岡町小浜中央378。JR常磐線・富岡駅から徒歩15分。0120-502-957。無料。午前9時半~午後4時半。毎月第3日曜と年末年始は休館。