60代のラクするもの選び。軽さと小ささを重視して迷わない
長年愛用してきた生活の道具が、年齢を重ねると使いにくくなったり、扱いきれなくなったりすることもあります。相応の道具を上手に選ぶことも、暮らしやすさのコツ。今回は、60代を迎えた料理研究家の藤野嘉子さんの、もの選びの基準を紹介します。そしてときには、自分たち家族のものだけでなく「親のもの」にも向き合わなければならないことも。藤野さんに、自らの体験を語っていただきました。
60代を心地よく過ごすものの選び方
もともと片づけは苦手だったという藤野さん。ものの見直しをしたのは、年齢を重ね、暮らしをコンパクトにしようと小さな家へと住み替えたのがきっかけだったそう。と同時に、ものを選ぶ基準にも変化がありました。
●アドバイスは素直に聞く
娘にすすめられて買った中川政七商店の常滑焼(とこなめやき)の塩つぼ。「余分な湿気を吸うから塩はいつもサラサラ。ずっとプラスチックの容器を使っていたから迷ったけど、替えて正解でした」
出勤に使っているのは、軽くてポケットがいくつもあるリュックとサコッシュ。「お店の店員さんからアドバイスをもらいながら、リュックはカジュアルに見えすぎない色を選びました」
●小さいもの、軽いものを
パナソニックのドライアイロン。「重さは0.8kgと軽いので、続けて何枚アイロンがけしても疲れません。コンパクトで先端が細く、小回りが利くので、アイロンがけが楽しくなりました」
家族の人数と食事の量が減ったので、まな板は幅21cmの小ぶりなものに。「場所を取らないので便利です。プラスチック製だと包丁を握った手首が痛くなるので、木製がおすすめ」
マラソンのときにつけている、ガーミンのランニング用ウォッチ。軽量で小型なので、腕の振りや動作の妨げになりません。「数字が大きくてわかりやすいところも気に入っています」
高齢親の生前整理をスムーズにするコツ
昨年、同居していたお母さんが介護施設に入居。本人の了承を得て、所持品の生前整理を始めた藤野さんに、率直な感想と心得をお聞きしました。
●ひとりで背負い込まず周りに頼ることも大事
同居していたお母さんの部屋は約6畳。一軒家に住んでいる人よりものの総量が少ないとはいえ、なかなか捨てられないものがあったと言います。すぐに捨てられたのは下着や靴下などの消耗品。捨てられなかったのは、お母さんが大切にしていた着物やアクセサリーです。
「一部は生前贈与として家族で受け継ぎました。残りはどうしようかと途方に暮れていたら、娘が『おばあちゃんが楽しんだのだから役目はもう果たしている。無理に残しても私たちの負担になるから片付けよう』と言ってくれて。ようやく手放すことができました。姉と一緒に整理しましたが、ひとりで抱え込まず、ときには娘にも相談するなど、周りに頼ってよかったと思います」
●アクセサリーは自分好みにお直しして使う
受け継いだアクセサリーのなかには、デザインが古いものも。「しまい込みたくないので自分好みに繕いました。複数ある羽織留め(左)は、2本つなげてネックレスにする予定です」
●自分でやると幸せな時間が味わえることも
業者にまかせず、姉と一緒に整理。「日記やハガキを見てきちょうめんな母を感じたり、意外なものが出てきて驚いたり。母に触れる幸せな時間を過ごせたので、自分たちでやってよかった」
●大きな家具は残して身の回りのものから整理
捨てやすい下着や靴下などの消耗品から手をつけるのがおすすめ。「母が長年使っていた家具を見るといろいろな思い出がよみがえるので、もうしばらく置いておこうと思います。
そのときどきの暮らしに合わせて、必要な道具をそろえていく。年齢を重ねると、「変えること」に戸惑いが生じることもありがちです。でも、自分の年齢や体力と向き合うことも大切なこと。暮らしを心地よくするもの選び、ぜひ参考にしてみてください。