コロナ禍で収入の大幅減少に悩む人は少なくありません。分譲マンションに住むには住宅ローンとは別に毎月、管理費と修繕積立金を支払う必要がありますが、管理費等は、厳しい家計の中では優先順位が低くなりがちです。管理費等を長期滞納してしまうとどうなるのでしょうか。

国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によれば、全国のマンションのうち管理費や修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸があるマンション管理組合は24.8%もあります。コロナ禍で未払い・滞納が増えたという話も耳にしますが、国土交通省の調査は平成30年ですから、コロナ禍以前から管理費等の滞納問題は常にあったことがわかります。
失業して完全に収入がなくなれば、住宅ローンの返済ができなくなるかもしれません。しかし、そこまでいかなくても、収入の大幅減少で家計を切り詰めなければならないときは、管理費と修繕積立金の支払いの優先順位が低くなってしまうかもしれません。

住宅ローンの返済が厳しいときは金融機関と支払い計画の変更などを行うことになりますが、管理費と修繕積立金については、マンション管理組合の扱いになります。コロナ禍の住宅ローンの返済については国や金融機関も救済策を講じてきましたが、管理費等についてはそうした救済策は聞こえてきません。

住民すべてが直面する可能性のある滞納問題

マンションの管理組合は、マンションの建物およびその敷地などを共同で管理するための組織です。分譲マンションの所有者全員が対象であり、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」)に規定されています。購入したマンションを賃貸に出している場合でも、所有者が管理組合に入る必要があります。

マンション住民の意見をまとめ、維持管理に反映させるための組織が管理組合の理事会であり、理事会役員のトップが理事長です。前出のマンション総合調査によれば、理事会役員の任期は「1年」が57.0%ともっとも多く、次いで「2年」が36.7%と、9割以上が2年以内となっています。

理事会役員は区分所有者(住民)が輪番制で務めているマンションが多く、分譲マンションを所有する人は誰もが役員や理事長になる可能性があるということです。そして、役員や理事長になった人は管理費等の滞納問題に直面することになります。

管理費等の滞納に管理組合はどう対応するか

管理組合としての対応の仕方について、さくら事務所のマンション管理コンサルタント、土屋輝之さんに話を聞きました。
「委託している管理会社によっては対応の仕組みがしっかり決まっています。例えば、1ヶ月の滞納なら電話やメールによる督促、2~3ヶ月の滞納なら直接訪問というように、督促の仕方を厳しくします。それでも支払われない場合には内容証明を送ったうえで支払督促、少額訴訟、通常訴訟といった法的措置を講ずる必要が生じます。問題は、長期滞納という扱いをどの時点でするか。6ヶ月滞納されたら、回収するのは難しくなってきます」

督促をして、「払います」と回答があったときは分納などの支払い計画に関する書類を書いてもらうことが大切です。それでも、約束が守られるとは限りません。6ヶ月過ぎたときから、契約している弁護士から通知(督促)が届く仕組みにしている管理組合もあるとのこと。

「6ヶ月分くらいだと簡易裁判所扱いの少額訴訟で対応できます。裁判所から支払い命令が下されてもなお支払われない場合は強制執行を申し立てる必要も生じます。裁判所への競売の申し立てです。裁判所への申し立ては、管理組合が法人化されていないと、理事長名で行うことになります。個人名なので皆さん嫌がり、問題を先送りしてしまう。理事長職の任期は基本1年だから。申し送り事項にしてしまう。それを延々とやってしまう組合があります」(土屋さん)

滞納問題が発生したときに、その都度対応を考えるのではなく、「6ヶ月超えたら弁護士から督促→少額訴訟→競売申し立て」というようにシステマチックに進められるようにしておくのがよいでしょう。

「裁判所から通知が来れば、たいていの場合は慌てて、申し立てを取り下げてほしいと言ってきます」(土屋さん)

滞納させないように早めに手を打つ工夫を

5年が経過すると、債務者が時効を援用することで管理費の債権が時効消滅します。時効を意識して回収計画を立てることが重要です。

結局、管理費等の滞納は、そのままにしていても決して見逃してもらえるものではありません。どうしても将来的に支払いの見通しが立たない場合は、強制的に競売にかけられる前に、自分で部屋を売却して支払いに充てるしかありません。
なお、管理費が滞納されたまま部屋が売却されても、旧所有者は売却後も滞納した管理費の債務を免れませんが、法的には管理組合は新所有者に管理費を請求することも可能となります。

土屋さんは「滞納させないよう早めに手を打つ工夫をすることが大切」と言います。

「滞納に対して厳しく対処している管理組合では、長期化してトラブルになることはありません。例えば、住んでいる人の名前は出さずに、滞納している部屋の部屋番号を掲示板などに公表している組合もあります。いたたまれなくなって出ていくのであれば、それは仕方がないと割り切るしかありません。最終的にはどこまで同情するのか、同情されるのか。そこを組合で決めないといけません。私が聞いた話では、滞納を10年以上放置している組合もあるようです」(土屋さん)

日本人はドラスティックな法的対応が苦手と言われます。滞納している住民の家族の顔を知っていれば、長期滞納したからといって競売にかけるのは心苦しく感じるでしょう。しかしながら、最終的に管理費等をまじめに支払っている住民が肩代わりさせられるようなことがあっては困ります。

<取材協力>
さくら事務所