アメリカ・ニューヨークの下水から、未確認の変異をした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が少なくとも4種類発見されたと報告する論文が発表されました。これらの「不可解な変異株」はいずれも、新型コロナウイルスに感染済みの人やワクチン摂取済みの人の免疫を回避する変異を持っていたと報じられています。

Tracking cryptic SARS-CoV-2 lineages detected in NYC wastewater | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-022-28246-3

MU scientist helps detect novel SARS-CoV-2 variants in NYC wastewater // Show Me Mizzou // University of Missouri

https://showme.missouri.edu/2022/mu-scientist-helps-detect-novel-sars-cov-2-variants-in-nyc-wastewater/

Mystery lineages of coronavirus are popping up in NYC sewage | Live Science

https://www.livescience.com/mystery-lineages-coronavirus-new-york-sewers

下水道の廃水には人から排せつされた新型コロナウイルスが含まれるため、これを分析することで感染の拡大状況などを把握することができます。そのため、公衆衛生当局や研究機関らは全米廃水監視システムをはじめとする下水の調査体制を構築して、新型コロナウイルスの検査を実施してきました。



そんな中、ミズーリ大学のウイルス学者であるマーク・ジョンソン氏らの研究チームは2022年2月3日に、ニューヨーク市の公共下水道の廃水サンプルから、SARS-CoV-2の「不可解な変異株」を4種類特定したとの論文を、オープンアクセスの学術雑誌・Nature Communicationsに掲載しました。

研究チームによると、「WNY1〜4」と名付けられたこの4つの変異株は、どれも抗体を部分的あるいは全面的に回避する能力を持っているとのこと。実際に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染したことがある人やワクチンを接種済みの人の血液サンプルを、今回見つかった4つの変異株にさらす実験でも、被験者の抗体の作用が低下してしまうことが確かめられています。

ジョンソン氏はこの点について、「『ウイルスが免疫を回避するとしたらここが変異するだろう』という場所に変異がありました」と話しました。



記事作成時点では、ニューヨーク市の下水で発見された変異株の起源は不明です。考えられる可能性としては、消化器に存在するSARS-CoV-2と、呼吸器に存在するSARS-CoV-2とでは種類が異なるため、鼻にスワブと呼ばれる綿棒を入れて行う現行の検査では見つからない変異株が下水から見つかったというケースがあります。また、寝たきりの人など、検査を受けることができないような人から排出された変異株が見つかった可能性も否定できません。

しかし、これまでのところ腸と鼻のSARS-CoV-2が別種だったという研究結果は報告されていません。また、ニューヨークの人々の間でのみ感染が広がってそこから拡散しない変異株があるというのも奇妙だと、ジョンソン氏は指摘しています。

そこで考えられるのが、変異株のキャリアがネズミなどの動物であるという可能性です。今回見つかった変異株に見られる変異は、SARS-CoV-2のネズミへの感染力を高めた変異と関連したゲノム領域に見られるものだったとのこと。また、ネズミは下水道に出入りし遠くの地域には行かないことも、この説を補強しています。

今回の変異株とは種類が異なるものの、オミクロン株もげっ歯類の体内で変異したのではないかといわれています。

新型コロナのオミクロン株はマウスで変異して人に感染したのが起源だと判明 - GIGAZINE



ジョンソン氏は今回の研究結果について、「例えば、オミクロン株もどこから来たのか分かっていませんが、どこかに起源があるはずです。同様に、今回見つかった『不可解な変異株』が次の懸念される変異株(VOC)の由来になる可能性もあると、私たちは危惧しています」と話しました。