【編集マツコの、週末には映画を。Vol.132】『偶然と想像』

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こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。みずみずしくも、濃厚。濱口竜介監督の作品は、食べ物に例えるならそんな表現が似合う気がします。するするっと喉ごしよく食べられると思ったら、実は一口ごとに驚くほどの味わい深さがあり……。
最新作の『偶然と想像』は、3つのストーリーからなる短編集。登場人物たちによる軽快な会話劇は、やがてタイトル通りそれぞれの「偶然」にたどり着き、意外な展開を見せていきます。


3人以上の会話はほとんどんなく、それぞれのストーリーの大部分は登場人物2人の会話。その内容はリアルであるからこそ、どこかおかしみがあり、それでいて物語がどこへ進むのかまったく分からない緊張感が終始保たれています。
元恋人同士の女と男、教え子と大学教授、そして20年ぶりに地元で再開した女友だち。どの話も好きでしたが、3話の「もう一度」が特に印象に残りました。久々の同窓会で地元に帰った夏子(占部房子)は、駅のエスカレーターで友人のあや(河井青葉)と20年ぶりに再会。あやの家に呼ばれた夏子ですが、2人で話しているうちに違和感を覚え……。3話の中で一番「偶然」を感じる作品で、そこからの展開にとても意外性があるんですよね。感動の再開はほろ苦さに変わり、ボタンの掛け違いは戻らない。それでも、2人が取った行動に救われる気がして、短編集の最後を飾るのにふさわしい内容だなと感じました。


3話に共通するのは、登場人物の間に流れる長い時間。どの話も「久々に会う2人」の会話で構成されていて、現在よりもむしろ離れていた時間を想起させます。タイトルにある「想像」は、すれ違うお互いの感情を補完したり、語られることのない過ぎた時間を見る者に想像させるということなのかもしれません。
登場人物に降りかかる偶然は、必ずしも彼らをハッピーな方向に導いてはくれず、ちょっぴり切ない結末に。それでいて、どこかすがすがしさも感じるのが、濱口監督の映画の特徴でしょうか。それぞれ40分ほどのストーリーながら、人の感情の機微がぎゅぎゅっと詰まった濃密なひととき。終わってみると、1つの長編映画を見たような満足感があるはずです。

『偶然と想像』12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!
配給:Incline
©2021 NEOPA / fictive

【編集マツコの 週末には、映画を。】
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