●演技の楽しさ再確認「欠けていたものが埋まった感覚」

昨年8月に日本での活動再開を発表した俳優の小出恵介(37)。6月に公開された映画『女たち』で日本映画復帰を果たしたが、7月15日にスタートするABEMAオリジナルドラマ『酒癖50』(毎週木曜22:00〜、全6話)で主演として4年ぶりのドラマ出演を果たす。2018年10月より米ニューヨークで演技について学んできた小出は、約2年半で何を学んだのか。本人にインタビューすると、演技に対する意識に大きな変化があったと言い、「この感覚は今後の役者としての礎になるだろうなという気がしています」と確かな手ごたえを語ってくれた。



『酒癖50』は、お酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さを描く物語。小出は、酒癖が悪い人たちを対象に、お酒の恐ろしさを理解してもらう“Hate Alcoholプログラム”を実施する謎多き主人公・酒野聖を演じる。鈴木おさむ氏が脚本を手掛け、『全員死刑』の小林勇貴監督がメガホンをとった。

――まず、オファーを受けたときの心境と、出演を決意した思いをお聞かせください。

お酒にまつわるドラマって聞いたことがなかったので新しいなと思いましたし、それを僕にオファーしてくださったというのは非常に驚きました。どうするべきか逡巡しましたが、鈴木おさむさんからご指名をいただいたということだったので挑戦するべしと思いました。おさむさんとは、『ボクたちの交換日記』(2013)でご一緒していて、こういう形でまたご縁をいただけてうれしかったです。

――作品自体の魅力はどのように感じましたか?

お酒にまつわるドラマというのが斬新で、かなり責めていますが面白いエンターテイメントになっているなと感じました。

――講習会のシーンはカリスマ社長のようなオーラを放っていますよね。

かなりキャラクターを作って異様な方向にしました。酒癖の悪い人たちに過度な飲酒の危険性を説くのですが、皆さんその甲斐なく運命に翻弄されていくというのを予言しているような謎な立ち位置なので、その謎さを酒野の雰囲気からも出していこうと思ったので。



――主演としてがっつり演技され、やりがいなど改めて感じましたか?

ドラマ、そして演技の楽しさやありがたみなど、いろんなことを再確認しました。役を演じるということがあると、こんなにも自分の普段の感覚・状態が違うんだなと。欠けていたものが埋まった感覚があり、撮影後は非常に心の状態がいいです。演じることが自分の中で大きな部分を占めていたのだと痛感しました。

――俳優のお仕事への思いを再確認されたのですね。

再び演じることによって確信しましたし、今後も俳優のお仕事で貢献していきたいなと強く思いました。

――小林勇貴監督が、「現場のみんながやりやすい雰囲気を作ってくれて座長として素晴らしい」とおっしゃっていました。その雰囲気作りは意識的にやられていたのでしょうか?

主演を務めるときは、監督が遠慮なく意見やアイデアを伝えられる環境を作りたいと思っていて、そこは一番心がけました。皆さんが楽しそうに撮影に臨んでほしいと思っているので。何度か主演をさせていただく中で、そういうことを大事にしたいと思うようになりました。

――特にその大事さに気づかされた、転機になった作品はありますか?

NHKの時代劇(『吉原裏同心』)で主演をさせていただいたときに、自分の気分一つで現場の空気が変わってしまうと感じました。自分が疲れたり、余裕がなくなってくると、それがびっくりするくらいすぐ伝わってしまう。主演の責任は現場の環境づくりも込みなんだなと、その大事さを痛感しました。

●「これが演技なのだと…」 新たな境地に到達



――ニューヨークでの2年半はどんな経験になりましたか?

早いようで長いような、コロナの影響でいろんなものが変わったり、予定がずれたりしましたが、それも含めて壮絶な期間でした。

――ニューヨークで学べるものは大きいですか?

日本で学べないものは大いにあると思います。いろんな人種の価値観、性格、習慣を垣間見られるので、ものすごいスケールの人間観察になる。驚きの連続ですし、常に刺激を受けている感じになります。

――たくさんの人と触れ合うことで考え方など変わりましたか?

自分の常識は非常に限定的だと認識させられました。自分が当たり前だと思っていることは、ほかの人にとっては当たり前に当たり前じゃない。また、思っていることは言葉にしなくてもある程度伝わるだろうというのがまったく通用しないので、伝わるだろうと思ってコミュニケーションをおざなりにしていた癖がなくなりました。

――日本人は、なんとなくお互いの思いをくみ取ろうとする傾向がありますよね。

そうですね。コミュニケーションをさぼるというか、省エネ状態になっていて、ちゃんと自己主張をしないと通用しない国に行った時に足りない。そのことを痛感し、しっかり伝わるようにコミュニケーションをとらなければいけないんだなと、意識が変わりました。

――コミュニケーションに必要な英語はどのように習得されましたか?

とにかく勉強するしかなくて、語学学校に通い、そこから演技の学校に行くというのをひたすら続ける学生生活でした。

――最初の英語のレベルはどれくらいだったのでしょうか。

小さいときに海外に住んでいたこともありましたし、少ししゃべれると思っていたのですが、全く通じませんでした。通じないと「は?」という顔をされるので、それがつらくて早く伝わるようになりたいと思い、必死に勉強を頑張りました。

――どれくらいでコミュニケーションがとれるようになりましたか?

1年くらい経って少しずつ伝わるようになり、少しずつわかるようになりました。それまでは人と絡んでいる感じがしなくて本当につらかったです。



――コミュニケーションとれない段階から演技の学校にも通われていたんですよね?

行きました。あのときはわかっているふりという演技をしました(笑)。言語の学校ではなく演技の学校ですから、わかっていない顔をずっとしているのも失礼だなと思って。

――言葉を理解できるようになってから、演技の授業をようやく理解できるように?

こんな大事なことを言っていたんだなと、やっと気づくことができ、今まですみませんでしたって思いました(笑)

――演技に関して学んだことを教えてください。

よりミニマムに、その場所にその人間として立つことの大切さを痛感しました。経験を積めば積むほど、いろんなテクニックを足したくなるものですが、そういった表面的なことではなく、役の感情に近づくことが大事なんだなと。

――演技に対する意識の変化があってから『酒癖50』の撮影に臨まれ、現場でも違いはありましたか?

演技をしていて楽しくなりました。表面的な部分で考えることが減ったので、より演技に集中できる。役の気持ちにどっぷり浸って演じることができて楽しかったです。

――役の気持ちに浸って、そこで出てくるリアルな表情や行動を待つわけですね。

そうですね。以前はそれがいいと思っていても怖くてできなかったのですが、委ねる勇気が出ました。アメリカに行って、これが演技なのだと学びました。

――俳優として大きな変化ですね。

かなり大きな変化です。この感覚は今後の役者としての礎になるだろうなという気がしています。今回のドラマでそういう演技の取り組み方をして、自分の中で非常にしっくりきたので、僕はこれからこういうスタイルを大事にしていくと思います。

●日本と海外の両方で活動を! ハリウッド映画にも意欲



――昨年8月に日本での活動再開を発表されましたが、決意した思いも改めてお聞かせください。

去年の夏に新たな事務所に所属し、この時期で大丈夫かなという不安はありましたが、前に進むしかないと思って決意しました。日本での活動は絶対再開をしたいと思っていて、事務所とのご縁も含めて整ったので去年の夏に。向こうで勉強したものを形として見せられるようなタイミングじゃなきゃダメだなというのもありました。

――先ほどおっしゃっていたように演技に関して大きな学びがあり、手応えがあったタイミングでもあったのですね。

そうですね。

――今後、拠点は日本とニューヨークどちらになるのでしょうか。

どちらか一方が拠点という意識はありません。海外での挑戦もずっと続けていきたいですし、演技や英語の勉強も続けていきたい。日本の作品にも出演させていただきたいですし、両方で活動できたらと思っています。

――ニューヨークではいろんなオーディションを受けましたか?

かなり受けて、少しずつ手ごたえを感じられるようになってきました。ちょうど慣れてきたところなので、これからもっともっと受けたいですし、ハリウッド映画のオーディションも受けさせてもらったので、ぜひ参加したいと思っています。

――そういった目標を一つ一つ叶えて、将来的にどのようになっている自分を想像していますか?

まったく想像できないです(笑)。向こうでいろんな映画に出演させていただく可能性もありますし、10年経ってもずっとオーディションを受けているかもしれないですし、それも含めて挑戦は続けたいと思っています。

――今後についていろいろ伺いましたが、まずは主演ドラマ『酒癖50』の反響が気になるところかなと思います。特にどのような方に見てもらいたいですか?

本当にいろいろな方たちに見ていただきたいですが、昔ご一緒した監督やプロデューサーたちに、またこうやって演技をしている姿を見ていただけたらうれしいです。

――演技において新しいものをつかんだ小出さんとご一緒したいと思う方もいるかもしれないですよね。

そう思っていただくことが僕の目標です。

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