【大谷和利のテクノロジーコラム】
クリエイティビティを底上げするiMac&iPad ProのM1搭載機強化
そして、Apple TV 4K&AirTagへの期待と要望
2021年4月27日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

2021年春のAppleスペシャルイベントは、春先に相応しく、ティム・クックCEOが陽光の中でAppleキャンパスの中庭を巡りながら語りかける新たな演出のもと、Apple Card、PodCast、AirTag、Apple TV 4K、新型iMac、新型iPad Proという多彩な話題が1時間の動画内で巧みに紹介された。AirTagのAR表示機能は(少なくとも今回は)登場せず、M1の上位チップのデビューも今年後半に先送りとなったが、iMacの7色展開やiPad ProのM1化などのサプライズもあり、飽きさせない発表会だったといえる。ここでは特にM1搭載製品の新展開、Apple TV 4K、AirTagというプロダクト系の話題に関して考察を加えてみた。

▷ iMacとiPad Proへの搭載でコストダウンを進めるM1チップ新型iMacは、7色(最下位モデルのみ4色)のフラットなアルミ合金筐体にM1チップを搭載し、4.5K(4,480 x 2,520ピクセル)でP3の広色域と500ニトの高輝度を持つTrueTone 24インチ(実質23.5インチ)ディスプレイを採用して登場した。従来の2倍の解像度となるFaceTime HDカメラや、6スピーカーで空間オーディオにも対応するオーディオ機能など、リモートワークを意識した仕様強化も行われている。

従来の27インチモデルに相当する上位機種に関するアナウンスはまだないものの、今年後半にMacBook Proの上位バリエーションや新型Mac Proと共に公開されるものと思われる。

また、新型iPad Proは11インチと12.9インチの2モデル構成はそのままだが、搭載CPUがAシリーズからM1に移行し、セルラーモデルの通信規格も5Gへとアップグレードされた。しかも、11インチモデルのディスプレイは前モデルと同じLiquid Retina(2,388x1,668ピクセル、120Hzリフレッシュ対応ProMotionテクノロジー、P3広色域、600ニト、TrueTone)なのに対し、12.9インチでは純正ハイエンド外付けディスプレイであるPro Display XDR並みの性能を持つLiquid Retina XDR(2732×2048ピクセル、120Hzリフレッシュ対応ProMotionテクノロジー、P3広色域、1000ニト[ピーク輝度1,600ニト]、1,000,000:1コントラスト比、TrueTone)へと進化し、名実ともにプロに相応しい画質を実現している。


新しい12.9インチiPad Pro

加えて、新たにフロントカメラとして12MPセンサーと122度の視野角を持つ超広角カメラを採用し、ビデオ会議などの際に、ユーザーの顔が常に中央に来るように自動で切り出しを行う「センターフレーム」機能も加わった。リモートでの作業が増えている昨今、これはタイムリーな改良点といえる。

自分も含め、スペシャルイベントを視聴していたほとんどの人にとって、最も大きなサプライズは、新型iMacと新型iPod Proが共にM1チップを搭載して登場したことだっただろう。iMacについてはM1の上位チップではなかったことが意外であり、iPad ProについてはAシリーズチップではなくMacと同じM1チップだったことに驚きを感じたわけだ。

しかし、どちらの場合も、これまでのデスクトップコンピュータやタブレットデバイスと既存のCPUに対する先入観がそのように感じさせたのであり、「デスクトップマシンはノートブックよりも上位のCPUを搭載する」、あるいは「タブレットにはモバイル用途に特化したCPUを使う」という固定観念を捨てるときが来たといえる。

実際には筆者も、MacBook Air、MacBook Pro 13"、Mac miniにM1が採用された時点で「どれを選んでも基本的な性能面での差がなく、しかも既存製品を大きく上回るとなれば、ニーズや目的に比重を置いて選ぶ」、それが「これからのコンピュータ選びの基準」と書いたのだが、まだ自分のどこかに旧来の製品ヒエラルキーの概念が残っていたことに気付かされた。iMacといえどもベースモデルとなる24インチ製品ならばM1チップの性能で十分であり、MacBook AirがM1チップでのファンレス&長時間バッテリー駆動を実現しているからには、iPad ProもM1チップを搭載しておかしくない。

ただし、冷却ファンの有無や熱設計がピークパフォーマンスの維持に影響することはMacBook AirとMacBook Pro 13"の例でも明らかなので、現実にはファンを内蔵するiMacのほうがファンレスのiPad Proよりも高負荷の処理に向くといった違いは出てくると思われる。

すでに業界内ではM1の成功を見て、Intel、AMD、NVIDIAなどの半導体メーカーが追従・対抗する動きを見せ始めている。その意味で、AppleとしてはM1の搭載製品をiMacとiPad Proにも拡げることによってM1の量産効果を高め、さらなるコストダウンにつなげる狙いもあるはずだ。

▷ iMacとiPad Proの役割分担クリエイター的な視点から見ても、新型iMacは魅力的で、用途によってはこれで十分な面もある。だとしても、数ヶ月内に性能面でこれを上回り、スクリーンサイズも24〜27インチ(あるいは、それ以上)のミドルレンジ〜ハイエンドモデルが確実に発表される状況を考えると、購入の検討はそれを待ってからでも遅くはない。

一方で、M1の性能と24インチスクリーンで事足りるという場合でも、最安モデルは避けるべきだろう。というのは、主に教育市場やエントリーユーザー向けと考えられる最廉価モデルは、高効率コアが7個、I/Oポート数も2個しかなく、付属キーボードのTouch IDもないため、クリエイターがメインあるいはサブのデスクトップ機にするにはやや物足りない面もあるためだ(このあたりは、あえてコストパフォーマンスで選ぶ意味もあったモバイル用途のMacBook Airの素のモデルとは、事情がやや異なる)。

では、新型iPad Proはどうかといえば、最大2TBのストレージオプションを用意してきたことからも、Appleの本気度が伺える。もちろん、フル装備では価格もそれなり(12.9インチのセルラーモデルで2TBにすると総計で税込279,800円)になるので、そのようなユーザーは限られるだろう。

しかし、たとえば映像制作のロケ現場で、あるいは移動中に画質チェックやラフ編集を行う必要がある場合などには、M1の処理能力とバッテリー駆動時間の長さ、そして12.9インチモデルであればLiquid Retina XDRが誇る画質や輝度を、高い機動性と組み合わせて利用できる意味は大きい。内蔵のUSB‑Cコネクタは新たにThunderboltに対応したので、種々のアクセサリに加えて、Pro Display XDRを6Kのフル解像度で駆動することも可能だ。

また、iPadシリーズをMacの拡張ディスプレイとして利用できるSidecar機能を使って、iPad Proを外付けのLiquid Retina XDRモニタとして使う方法もある。この場合には、iPad Pro自体のストレージは標準状態でも構わない。iPad Pro側に転送する情報量が多い動画編集には、Sidecar機能をWi-Fi経由ではなくケーブル接続で利用するほうが望ましいと考えられるが、その場合、あらかじめMacのFiderから有線接続中のiPad Proを選び、信頼するデバイスとして登録しておく必要があるので注意されたい。

▷ Apple TV 4Kが備えるべき機能Apple TV 4Kは外観はそのまま、CPUやグラフィック性能を向上させ、iPhoneを利用したカラーバランスの最適化機能と新しいSiri Remoteを備えたビッグマイナーチェンジ版ともいえる製品だ。

A12 Bionicチップ採用による基本性能の向上に加えて、4K解像度のHDR動画を60fpsで再生できることや、iPhoneのフロントカメラをテレビ画面に当てて行うカラーバランスの自動調整(これはtvOSのアップデートによって、先代のApple TV 4KやApple TV HDでも利用できる)、タッチやスワイプに加えて十字キー的操作やジョグダイヤル的操作も可能になった新Siri Remote(こちらも旧機種でも利用可)により、確かに魅力が増している。


Apple TV 4Kのカラーバランスの自動調整

筆者は、Apple TV HDをHomePod/AirPods Maxとの組み合わせで利用し、Apple TV、Netflix、Amazon Prime Videoなどをこのシステムに集約し視聴している。このままでもカラーバランス調整や新Siri Remoteが利用できるとなると、今のところ積極的に買い換える理由が見当たらないのだが、それは背中を押すのにもう1つ重要な機能性が欠けていたためだ。それは、AirPods向けの空間オーディオの再生機能である。

確かに、iPhoneやiPadでは本体=スクリーンなので、デバイス本体に対するユーザーの頭の位置や角度に応じた空間オーディオを実現できるのに対し、Apple TVではテレビとの位置関係が一意的ではない。そのため、本体を基準にした空間オーディオの実現は難しい。しかし、カラーバランス調整と同じように、iPhoneを使ってApple TVとテレビとの位置のずれを自動補正するようなことも、技術的には可能なはずだ。

個人的には、Apple TVが空間オーディオに対応したときが買い替えのタイミングになると考えている。


Apple TV 4K

▷ AirTagに秘められた可能性今回のイベントでAirTagが発表されたことで、先日の「探す」機能のサードパーティ製品への開放が、自社製の忘れ物・紛失防止スマートタグのリリースに向けた下地作りであったと確定したことになる。しかし、期待していたAR機能は残念ながら付加されなかった。

念のため、AirTagの役割を記しておくと、これは内蔵するBluetooth(近接検出を担当)とU1チップのUWB(超広帯域無線通信で、「正確な場所を見つける」機能を担当)、NFC(紛失モード設定時に、Android携帯を含む対応スマートフォンからの連絡先情報の読み取りを担当)によって、それが装着されたアイテムを探し出すことができるアクセサリである。家の中などでの探し物はもちろん、iPhoneを含めて世界に10億台以上ある「探す」機能対応のApple製品のネットワークを活用して、ユーザーのプライバシーを守りながら、紛失したアイテムを見つけ出すことができる。


AirTagの機能

先んじてAR機能を自社のGalaxy SmartTag+に付加したSamsungは、スマートフォンメーカーとしては初めて忘れ物・紛失防止タグで同機能を実現したが、スマートタグの専業メーカーにはそれ以前から対応していたところもある。iOS上でのAR表示によって探し物の発見率が従来比で2倍超になったと主張するスマートタグメーカーのMAMORIOは、画面に実写とレーダーチャートのようなイメージを組み合わせた「カメラで探す」を2019年の6月に実装していた。


MAMORIO

この2社の例からも、Appleが「探す」機能でAirTagのAR表示を実現できないわけはないことがわかる。しかし、あえて見送ったのは、ベストと思えるARユーザーインターフェースの見極めがまだできていないか、ARグラスの発表がいつになるにせよ、その発表時のインパクトを最大限に高めるためとも考えられる。

かつて、iOSがiPhoneOSだった時代にも、当初はコピー&ペースト機能が実装されず、今に続くインターフェースアイデアが固まってから対応した例があった。また、初代MacBook Airのユニボディ構造も、その次に同構造を採用したMacBook Proのデビューまで伏せられていた。このようにAppleは、自分たちが納得するまで、あるいは、最も効果的と思えるタイミングが訪れるまで、重要な革新を隠しておけるだけの胆力がある。このことから、AirTagもまず基本機能を満たした製品としてリリースし、機が熟したところで機能が拡張されることになるだろう。

[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。

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