人事部門の責任者が「学歴フィルター」を有用だと考える理由とは?(写真:ty.photo/PIXTA)

4月に入り、2022年4月入社に向けた採用活動がたけなわです。ここでよく問題・話題になるのが、「学歴フィルター」。

学歴フィルターとは、企業が採用する学生を学歴によって選別するやり方です。低ランクの大学の学生が会社説明会にホームページから応募しようとしたら「締め切り」と表示されたが、有名大学の学生と偽って再度入力したら「募集中」になっていた、といった話をよく耳にします。

企業は学歴フィルターをどう実施しているのでしょうか。また、今年は新型コロナウイルスの影響で採用方法が大きく変わる中、学歴フィルターも変わっていくのでしょうか。

今回は企業の人事部門の責任者・採用担当者7名への取材を踏まえ学歴フィルターの動向と将来について考えてみましょう。

学歴が問われるのは主に「選考の入り口」

日本では、学生を学歴で「差別」してはいけないという風潮があり、学歴フィルターの存在を公言する企業はほぼありません。しかし、今回取材した7社のうち6社が、公式には「学歴フィルターを実施していない」としているものの、採用プロセスで「学歴を参考にしている」と答えました。

「よく話題になっているような、エントリーシートの受付を学歴で制限するような学歴フィルターはしていません。ただ、何万人もの学生に説明会に参加してもらうわけにはいかないので、あまりにも低ランクの大学からの応募者は、学歴を見て落としたりします。説明会の後の選考でも、学歴を見ます。ただ、考える力や物事に取り組む姿勢などを重視しており、学歴は確かめる程度です」(金融)

「選考プロセスで、どこの大学のどの学部だというのは、ちゃんと確認しています。という意味での学歴フィルターがあります。人数を絞るために、志望動機や資格など他の条件とともに学歴を少し参考にしていますが、学歴だけではじくということはありません。面接に進んだら学歴はまったく関係ありません。入口のところでチェックするという使い方です」(通信)

エントリーシート方式になって学生の応募数が爆発的に増えたことから、多くの企業が採用業務の合理化のために一定の学歴フィルターを実施しています。ただ、あくまでも足切りをするためのいくつかの条件の1つとして実施している程度で、選考プロセスで学歴を重視しているという企業は逆に少ないようです。

今年の採用活動は、新型コロナウィルスの影響で会社説明会や1次・2次面接をオンラインで実施するのが主流になります。この変化によって、学歴フィルターはどう変わるのでしょうか。今回のヒアリングでは、「ほぼ変わらない」という意見がほとんどでした。

「学生に東京に集まってもらう必要がなくなったので、会社説明会はオンラインで無制限で参加してもらっても良いのでは、という意見が人事部内でもありました。でも結局、その後の評価し、選考していく手間は変わらないので、やはり最初からある程度は人数を絞っておきたいということで、昨年までのやり方を大きく変えていません」(電機)

学歴フィルター騒動」に対する人事のホンネ

ところで今回、人事部門の責任者・採用担当者の多くが口にしていたのが、学生やメディアで学歴フィルターが騒がれていることへの困惑や憤りでした。

「当社では、出身校を重視していませんが、電子系のスキルを持った学生が欲しいので、専攻は重視しています。最近は、出願が簡単になったせいか、会社の名前だけを見てスポーツ系・芸術系の学生まで応募してきたりして、さすがに学校名だけで落としています。これって、学歴フィルターってことになっちゃうんですか」(機械)

「われわれは、グローバル競争を勝ち抜くために優秀な人材を欲しいわけで、高校3年生の時点でテストの点が良かったというだけで採用すると思いますか? そんなことしていたら、昔の百貨店や都市銀行みたいに潰れちゃいますよ。明らかに欲しくない人材をはじくために学歴を見ることはあっても、それ以上の理由で学歴を見ることってありえません」(素材)

では、これから学歴フィルターはどうなっていくのでしょうか。

まず、世界的に見ると、学歴フィルターは普通に存在します。私はアメリカのMBAで学びましたが、「MBAランキング・トップ50向け合同会社説明会」といった露骨な学歴フィルターがあり、驚きました。

その後3年間働いたシンガポールでも「シンガポール大学OB・OG向け転職イベント」とかありました。建前でも各社が「学歴不問」と口を揃える日本とは大違いです。

そのうえで企業が考えなくてはならないのが、少子化・グローバル化・技術の高度化といった環境変化です。日本では、少子化の影響で若い労働力が減っています。企業の主力市場が国内から海外に移り、事業のグローバル展開が加速しています。また、AI・DXなどビジネスで使う技術が高度化しています。

この状況で企業が当然考えるのは、絶対数が減った(しかも学力が低下しているらしい)日本の学生にこだわらず、海外からも優秀な学生を採用しようということです。いま、大企業だけでなく中堅企業を含めて多くの企業で、採用のグローバル化が課題になっています。

「国籍に関係なく、とにかく優秀な人材を採用したい。そのために新卒一括採用など日本の特殊な慣行・ルールとどう向き合っていくべきか、重要な検討課題になっています。採用だけでなく、評価・報酬もグローバル化を意識して改革を進めています。学歴フィルターですか、日本人は学歴というとビビっと反応するので、扱いに困りますねぇ」(エンジニアリング)

企業は採用のグローバル化を進める中、学歴フィルターがクローズアップされる日本のガラパゴスな事情に苦慮している様子です。

学歴フィルターから「スキルフィルター」へ

おそらく、これから日本企業は、積極的に学歴フィルターの存在とその中身を公開するようになるでしょう。そうしないと、世界から優秀な人材を集めることができないからです。

たとえば、学生にとって、次のA社とB社でどちらが魅力的でしょうか。

A社「当社は公平な会社でありたいと思います。学歴不問ですし、スキルも問いません。どなたでもどしどし応募してください」

B社「当社は今後DXのコンサルティング事業を強力に推進します。IT系の大学・学部をGPA(成績評価値)3.5以上で卒業見込みの方、同等の資格を持っている方のみ応募してください。条件に該当しない方は応募を受け付けません」

日本の学生からエントリーシートがたくさん集まるのはA社、数は少ないものの世界中から優秀な学生が集まるのはB社でしょう。優秀な学生がA社を敬遠するのは、A社が何を目指しているのかわかりませんし、自分のスキルを高く評価してもらえるのか不明だからです。

ここで厄介なのが、日本では企業が「学歴を見る」と口にした途端、学生だけでなく一般国民・メディアから「差別をする会社だ」と袋叩きに遭うことです。そうならないためには、「学歴フィルター」という用語を止めて「スキルフィルター」とするなど、工夫が必要かもしれません(それでもバッシングは完全にはなくならないでしょうが)。

学歴フィルターというと、とかくふるいにかけられる学生の問題だと考えがちです。しかしそこには、企業がグローバルな人材獲得競争にどう立ち向かうかという大きな問題があるのです。