モノづくり探訪記【第十回】
伝統×モダンで作り上げる螺鈿アートの世界
〜 天然貝の輝くPrint creativeのスマホアクセサリー〜
螺鈿(らでん)と聞くと、高価な蒔絵箱や伝統工芸品を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかしPrint creativeの螺鈿アートは、これらの螺鈿製品とはちょっと印象が違う。天然貝の高貴な輝きを放ちながらも、見た瞬間「あそこに置きたい」「いつも持ち歩きたい」「身に着けてみたい」と共に暮らすイメージが湧き上がってくるような存在なのだ。今回のモノづくり探訪記では、伝統とモダンが融合したPrint creativeのデザイン力に迫ってみたい。

2021年4月12日
●取材・構成・文:編集部 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]

▷ 角度によって表情を変える「螺鈿」の魅力「螺鈿」というのはいわゆる伝統工芸品だ。貝の内側の真珠層を薄く細かく加工し、奈良時代から伝わる職人の技で珠玉の一品を作り上げていく。

Print creativeの製品に使われているのも、同じ天然貝の真珠層だが、その製法は大きく異なる。独自の加飾技術でこれまでにない螺鈿アートを生み出し、スマホアクセサリーをはじめとする身の回り品を展開しているのが、今回ご紹介する螺鈿アート雑貨ブランド「Print creative」である。

Print creativeの製品(スマホケース、名刺カードケース、コンパクトミラー、ヘアゴム)
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Print creativeの製品(スマホケース、名刺カードケース、コンパクトミラー、ヘアゴム)

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素材として使われている天然貝。写真は「あわび」のもの

▷ 伝統にとらわれない自由なデザイン力が最新アートを生み出す螺鈿アートの雑貨ブランド「Print creative」が立ち上がったのは2015年の夏のこと。当時は製品こそスマホケースなどモダンなアイテムをそろえていたが、デザイン面では黒や臙脂をベースに真珠色の貝が輝く従来の「螺鈿」のイメージを出ないものだった。

Print creativeが今のようなスタイルを確立するにはブランド立ち上げから1年余り、ある2つの製品の誕生を待つ必要がある。

では、ブランドにブレイクスルーを引き起こした2つの製品を紹介しよう。

【作品No.1】最大のブレイクスルーを引き起こした「モロッコタイル」シリーズモロッコタイルシリーズは、今でも一番人気を誇る製品だ。和の素材である天然貝を異国情緒漂うモロッコタイル柄に装飾したもので、鮮やかな色彩と極めて細かい文様が目を惹く。

実はこの模様は「プリント」である。プレート状に加工した0.08mmの薄貝に同社が誇る加飾技術で直接色を乗せている。

プリントと聞くと、お手軽なイメージを持ってしまうが、薄貝は少し力を加えるだけで亀裂が走る脆い素材。そして本来水中生物である貝は、水はもちろんインクも塗料もはじいてしまう。これを独自の技術で貝に直接プリントするという、いわば究極の特殊印刷で実現したのがこのモロッコタイルシリーズのデザインなのである。

薄貝の上に綺麗に正確に色を乗せるのは、他社には真似のできないPrint creativeの独自技術だ。残念ながら製法は企業秘密とのこと" />
薄貝の上に綺麗に正確に色を乗せるのは、他社には真似のできないPrint creativeの独自技術だ。残念ながら製法は企業秘密とのこと

デザインもそれまでのものから大きく飛躍した。この製品ができた時、デザイナーの上本さんは自分でも「これは邪道だ!」と思ったそうだ。上司や同僚からも「これは螺鈿じゃないでしょ」と言われた。しかし、いざイベントでお披露目してみると顧客からは爆発的と言えるほどの反応があった。

「螺鈿らしいデザインに縛られているのも面白くないな……」

もともとそんな思いがあった上本さんとモロッコタイル柄が出会って生まれた、Print creativeの顔とも言える製品である。

【作品No.2】天然貝の魅力を引き出す「ホワイトレース」シリーズモロッコタイルシリーズが誕生する少し前、もう一つのヒット作が生まれている。こちらは対照的に「白」を基調としたデザインだ。天然貝の色をそのまま生かし、その上に積層樹脂でレース模様を描いている。凹凸のある手触りも楽しめるようにとコーティングは極めて薄いものにした。そのせいか、キラキラした輝きだけでなく、貝の艶感、素材感までがしっかりと感じられる仕上がりになっている。

洗練されたヨーロピアンな印象だが、よく見るとモチーフには和柄の「花菱」が使われている。

「白だからこう見えますが、模様に色がついていたら『ザ・和風』という印象になると思いますよ。でもホワイトレースは洋風のイメージで作りたかったんです」とデザイナーの上本さん。

このバランス感覚も絶妙である。

日本の伝統文様「花菱」をモチーフにしたホワイトレースシリーズのスマホケース。積層樹脂の凸凹は触感もおもしろい" />
日本の伝統文様「花菱」をモチーフにしたホワイトレースシリーズのスマホケース。積層樹脂の凸凹は触感もおもしろい

▷ 天然貝の輝きを引き出すデザインの秘密斬新なデザインはデザイナーのインスピレーションによるところも大きいが、素材選びや組合わせ方にもポイントがある。使われている貝は「アワビ」「白蝶貝」「あこや貝」「ミミ貝」の4種類。それぞれ輝きに特徴があり、デザインに合ったものを使い分けているという。

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左から「ミミ貝」「白蝶貝」「アワビ」

●「ミミ貝」の名刺カードケース

例えば、この名刺カードケースに採用されているのは「ミミ貝」。ミミ貝は青海波のような弧を描く条線模様が特徴で、これをスクエア柄と組み合わせることで面白い効果を生み出している。プリント柄と天然貝の条線模様、どちらか片方だけであったら、もっとつまらない作品になっていたことだろう。

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写真は「名刺カードケース(ミネラルブルー)」のもの

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日本の伝統文様「青海波」

●「あわび」と「白蝶貝」のコンパクトミラー

コンパクトミラーは色柄と素材(貝)の相乗効果で異なる印象に仕上げた。いずれも強い色が使われたデザインではないが、色彩のバリエーションが楽しい左の製品には華やかな輝きの「あわび」を、ブルーを基調とした右の製品には乳白色で涼やかな輝きを放つ「白蝶貝」が使われている。言葉では言い表せない「輝き」の使い分けが見事だ。

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「あわび」を使ったコンパクトミラー

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「白蝶貝」を使ったコンパクトミラー

「モロッコタイル」「ホワイトレース」以降も、たくさんのデザインが誕生しているが、どれも天然貝の個性を生かした独自の輝きが楽しめる製品となっている。

天然貝以外にも、金箔や銀箔をベースにしたものもある。箔アートシリーズは、デザインによってはっきり金(銀)が見えている部分と、ほんのりゴールド(シルバー)を感じる部分があり、加飾印刷の面白さが感じられる製品だ。金箔銀箔とプリントシートを重ねるだけではこうはならないだろう。

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金箔アート(左)と銀箔アート(右)のスマホケース

▷ 伝統×モダンのスタイルで日常に寄り添って伝統的な「螺鈿」を知る人の中には、Print creativeの製品を邪道という人もいるかもしれない。しかし、天然貝の生み出す神秘的な輝きは紛れもない本物だ。その魅力を現代のマストアイテムとなったスマホケースでこんなにも自然に、身近に取り入れられるのは、Print creativeの技術力・デザイン力あってこそではないだろうか。

「私たちは職人さんたちの領域に踏み込みたいとは思っていません。伝統×モダンというスタイルで皆様の日常に寄り添っていければ」と語る上本さん。そんなPrint creativeが次に目指すものとは何なのか。まだ非公開だという次回作のお話を少しだけ聞かせていただいた。

●2021年はさらなる新作が!?

次のテーマは「革製品との融合」。革職人とコラボして、なんと「貝を縫う」技術を開発しているのだとか。新作はもうすぐ、今年の5〜6月には登場する予定だ。「貝を縫う」と言われてもにわかには信じられないが、最新の技術力と突き抜けたデザイン力でまた私たちを驚かせてくれるに違いない。

「Print creative」
https://www.pricre.shop/
合同会社アクトウイングのクリエイター・上本ミナさんが、2015年夏に立ち上げた螺鈿アートのオリジナルブランド。「伝統×モダン」をテーマに螺鈿の美しさをライフスタイルの中で身近に楽しめる身の回り品を展開する。直営のネットショップのほか、creema、minne、全国各地で行われるイベント出店などで製品を購入することができる。