調達購買部門が目指すこと/野町 直弘
今回は、調達購買組織論について、最近の動向やそこからのインサイト、そしてそもそも調達購買部門は今後何を目指していけばよいか、ということについて3回シリーズで考察を述べていきましょう。
昨年の4月に本田技研工業は4輪事業の組織変更を行いました。
プレスリリースによりますと、「2030年ビジョンの実現に向けて、現在取り組んでいる
「既存事業の盤石化」と「将来の成長に向けた仕込み」をさらに加速させるために、事業運営体制の変更を行います。」「従来の「営業(S)・生産(E)・開発(D)・購買(B)」の自立した各領域による協調運営体制から、SEDB各領域を統合した一体運営体制へ変更します。これにより、四輪事業全体を捉えた戦略を立案し、より精度の高い企画に基づく開発を実現するとともに、開発から生産まで一貫した効率のよいオペレーションを通じてものづくりを進化させます。」
「これらの事業運営体制の変更に伴い、生産本部、購買本部は発展的に解消します。」という発表内容になっています。
ホンダは従来、開発は技術研究所で行い、製造販売は技研工業で行っており、購買機能は技術研究所と技研工業で役割分担をしていました。それを四輪事業全体を捉えた一貫したオペレーションの確立を目的に、技研工業にその機能を持たせ、技術研究所は先進技術を中心とした技術開発を行う、という役割分担に移行したのです。
この役割分担は他自動車メーカーでは既にこのような形になっており、それを導入するものでした。
一方で「生産本部、購買本部は発展的に解消します。」とあり、生産本部は四輪事業本部の生産統括部に移管されました。それでは、購買機能はどこに行ったか、といいますと、四輪事業本部の「ものづくりセンター」へ主たる機能を移管したようです。「ものづくりセンター」は所謂開発機能であり、購買が開発機能と統合されたのが今回の組織改編でした。
従来、多くの企業では、調達購買部門の役割を経営は評価し、どちらかというと、その重要性の高まりから、従来生産部門や開発部門、場合によってはコーポレート部門の一機能という位置づけから調達本部、購買本部のように本部化する傾向が強かったのがその傾向と言えます。
それに対して、今回の本田技研工業の組織変更は、購買本部を発展的に解消し、依頼元である開発本部と統合という、従来ではあまり見られない改革となっているでしょう。
調達購買部門にとっては、たいへん興味深い組織改革と言えます。
一方で集中購買か分散購買か、という点に関しては組織内の体制がどのようになるかによるので、一概に、この本田技研工業のケースが分散購買化につながる、とは言えません。
しかし、自動車の開発組織は、おそらく車種別、部位別の組織となるケースが多いと言えます。そのため、品目別、サプライヤ別組織(従来の調達購買機能)である横串機能は弱まる方向です。つまり、依頼元(開発部門)による分散購買化の方向に向かうと言ってもよいでしょう。
このように、2012年位からでしょうか、調達購買の本部化の流れとは別に、行き過ぎた集中購買から、事業への貢献を目的に、縦の機能強化を行い、調達購買の分散化を進める動向は顕著に出始めてきています。
所謂、調達購買改革の第一次の波であった集中購買化が2000年以降進んできたわけですが、(何でも)集中化し、コスト削減を、という流れから、事業スピードを重視し、コストよりもスピードやデリバリー、変革への対応を重視することで分散購買化する傾向が、様々な企業で出てきています。
実名を上げるのは避けますが、某重工メーカや電機メーカなど、一時期は本部化したものを再度事業所毎に分散化を進めたり、コーポレート調達センターから事業毎の調達に戻すなどの事例が上げらるでしょう。
今回の本田技研工業の組織改編は分散購買化の一つの事例として上げられます。しかし、このような分散購買化の動向において、調達機能の弱体化を防ぐために様々な仕組みを作っている企業も出てきています。例えば、価格の妥当性をチェックするための情報提供を行ったり、購買監査の仕組みをつくり、依頼元の購買統制のPDCAを回す仕組み、などです。
これらの仕組みを構築することで、誰が購買しても適正な購買ができるような仕組みを作り、購買統制を担保しています。
このような仕組みによって事業スピードを損なわずに、分散購買でも適正な購買が実行できる仕組みを構築しているのです。
このように事業軸を重視し、過度な集中購買から分散購買化する動向が見られる一方、グローバルでのカテゴリーマネジメントで組織体制を整備する方向の企業や、ホールディング傘下の調達体制の整備を進める企業も多く出てきています。
次回はそれらの企業の組織体制整備の動向について述べて紹介していきましょう。