猪口 真 / 株式会社パトス

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ついに東京の人口が、前年を下回ったという。東京都が2021年2月25日発表した2月1日時点の推計人口は、前年同月比662人減の1395万人。1996年6月以来、約25年ぶりに前年を下回ったらしい。

これはまぎれもなく新型コロナウイルス感染拡大による、テレワークや在宅勤務の推進、つまり都心のオフィスに行かなくてもよくなったこと、そして都心の大学に在籍しているものの、学校に行く必要がなくなってしまった学生の地方回帰によること、さらにここへきての出生数の減少も大きく影響しているとされている。

東京都の人口は、2020年5月がピークだったようで、コロナ前は、一極集中が叫ばれ、東京への人口集中(しかも都心への集中、そして地方の人口減少)が進み、都心のタワーマンションを中心にマンションの価格も上がった。

ところが想像もしないコロナ禍がやってきた。

企業は相次いでテレワークを導入し、都心のオフィスに出勤する必要がなくなってきた。

そこで、時代の先端を行く(?)方々は、オフィスに行く必要がないのなら、無理して家賃の高い都内に住む必要もないと判断し、東京脱出を試みたということなのだろう。

しかし、東京脱出といっても、北海道や沖縄、本当の地方というわけではない。埼玉、神奈川、千葉という近郊、普通に都会の地域だ。実際、この3県では人口は増加している。

たまには、都心のオフィスに行き(あるいは、たまには都心に遊びに行き)、普段は、車で少し走れば自然にも触れることもできながら、駅周辺のショッピングモールには行きたいし、コンビニもほしいという、いわゆる生活を満喫するというやつだと思われる。

移住ではなく、セカンドハウス的に、都心から1〜2時間の地にもうひとつの家を持つ人(いわゆるデュアルライフ)もいるという。

こうした動きを見れば、どちらかといえば、仕事にも資金にも余裕のある方たちが、郊外のゆったりとした住まいを購入したり、借りたりしているのだろう。

その証拠といえるかどうかは別として、テレワークを実施している人は、高収入の人が多い。ある調査によれば、東京23区内のテレワーク実施率のほうが地方に比べると3倍近く、年収別で見た場合、1000万以上は半数以上で、300万円未満は1割ちょっとだという。完全に収入とテレワークの実施率は比例しているといえそうだ。
つまり、テレワークがどうのこうのという議論は、都会で高収入が条件ということなのだろう。どういうことかといえば、儲かっている企業(大企業を中心とした年収の高い企業、そしてその企業にお勤めの方々)ほど、テレワークを導入しているということだ。
テレワークの条件は、ICTシステムの導入やら、多彩な働き方改革の土壌やら、柔軟な人事システム・業務プロセスやら言われることも多いし、もちろんそうした要素もあるとは思うが、もっとも大きいのはその企業において、バリューチェーンがどれだけ盤石かによるところのほうが大きいのではないか。

テレワークの問題として、上司への報告や事案に対する意思決定、コミュニケーションの不足による仕事の停滞などを挙げる人は多いが、すでに確固たるバリューチェーンができていて、状況に応じた意思決定が常に行われているのであれば、オフィスワークであろうがテレワークであろうが、仕事のプロセスとしては大きな問題はない。しかるべき人がしかるべきときに意思決定を行うシステムができているからだ。

多くの中小企業や小規模事業者は、バリューチェーンはあるものの、その場対応の的確な意思決定や例外的で臨機応変な業務が必要なケースが多く、テレワークの場合、そこに問題が出ることのほうが多い。

また、オンラインミーティングとひとことで言っても簡単ではない。人がひしめく多くの中小企業おオフィスで、それぞれのメンバーがそれぞれにオンラインミーティングを行うには、かなり難しいものがある。デスクにてフリーに声が出せる環境のオフィスであれば問題ないが、デスク上でのオンラインミーティングはまず不可能だろう。基本ミュートにしておかないとオンラインミーティングはできないし、そういうミーティングで何かが生まれるとは思いにくい。

話はずれてしまったが、テレワークの環境をどこで築くのかを判断するのは、自分のおかれているビジネスにおいて、どのようなバリューチェーンで価値が生まれているのかをもう一度確認してからの方が良い。

もちろん、生活面のこともよくよく考えるべきだ。

都会のたくさんのエンターテイメントや文化、充実した飲食など、仕事中心の仲間との適度な距離感など、都会に住むメリットは、挙げればきりがない。

純粋に地方暮らしが合っているという人はいるだろうが、趣味や何かを始める機会は圧倒的に都会のほうが多い。

2拠点に住まいを持つことができる裕福な人はまったく問題ないが、テレワークだからどこでもできる、テレワークのほうが自分に向いている、少しでも広く安いほうが良いと、短絡的に遠方を探すのもいいが、自分の仕事がなぜテレワークでも問題ないのか、なぜ成立しているのか、その本質を見極めてからでも遅くはない。