猪口 真 / 株式会社パトス

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「DXやってます」と言わなければビジネス自体を否定されんばかりの今の状態だが、中小、小規模事業者にとって、分かるようで分からないのが、DXだろう。

レガシーな大企業さんだけの話かと思っていたら、最近は「中小企業こそが必要」的な話も多い。補助金や助成金も用意されているようだ。

少し古いが、経産省がとうとうと語った「DXレポート」がきっかけともなり、またたくまにバズってしまったのだが、改めて見れば理解もできるのかと思い見てみたが、やはり難しい。

そのなかで、DXの定義について「IDC Japan」の内容を引用し(レポートなのに引用!)、「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」だと紹介している。

いったい、何人の中小企業の社長が「顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出」することが、自分のビジネスに置き換えることができるのかと思うが、デジタル化することで、顧客エクスペリエンスが本当に変わるのだろうか。しかも、「破壊的な変化」ってどんな変化なのだ。(「新しいビジネス・モデルを通して」とあるので、要はビジネスを変えて、ということか)

「第3のプラットフォーム」というのも、IT関係の業界でなければあまり聞いたことはないだろう。これは、同IDCが、かなり以前から「モバイル」「ビッグデータ」「クラウド」「ソーシャル」の4つの要素で構成される新しいテクノロジープラットフォームとして紹介しているもので、ちなみに、第1は「メインフレームと端末」で、第2は「クライアント・サーバー」だという。

それこそ、既得権益でビジネスを継続するようなレガシーな大企業ならともかく、少なくとも経営状況に敏感で常に危機感を持ってビジネスを展開する中小企業の社長なら、すでに多額の運用経費、メンテナンス費用がかかるメインフレームを使い続けている会社などあるはずもないだろう。40年前にメインフレームを導入したような先駆的な経営者なら、オープン化も早かったはずだ。

このDX発想のもとになっているのは、「既存のITシステム(レガシーシステム)が、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっている」という話なのだが、DXレポートのなかにも面白いことが書いてある。

「ユーザー企業は、自身がレガシー問題を抱えていることに気付きづらい特徴がある」「レガシー問題の発見は、ベンダー企業にも容易ではない」とあり、「なんだこりゃ」と正直思う。

よく、DXについてのアンケート調査で、「なにが課題か分からない」「どうすればいいのか手立てもない」という声が多いと聞くが、それも当たり前で、ユーザーは気づかないし、ベンダーも発見できないのだから。

さらにレポートでは、「企業が生き残るための鍵は、DXを実装する第3のプラットフォーム上のデジタルイノベーションプラットフォームの構築において、開発者とイノベーターのコミュニティを創生し、分散化や特化が進むクラウド2.0、あらゆるエンタープライズアプリケーションでAIが使用されるパーベイシブAI、マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション、大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン、音声やAR/VRなど多様なヒューマンデジタルインターフェースといったITを強力に生かせるかにかかっています」となっている。

実に大きなお世話までしてくれているわけなのだが、要は「いま」注目されているDXを採り入れないと、えらいことになるぞ。ということらしい。こうした話は、レガシーシステムと呼ばれるITシステムを導入するときも言われていたような話だ。「今変革のとき」というのは、戦後ずっと言われている気がする。そもそも、ここに書いてある言葉の意味は、私はよくわからない。

丁寧に説明してくれる人は、手始めに「紙の書類はできる限りデジタル化すると場所も取らないし、検索も楽ですよ」「サーバーはクラウド化すれば、どこからでもアクセスできるしコストも下がりますよ」「電話やFAXはメールかチャットにしましょう」「プロジェクトのタスク管理はオンラインにすればリアルタイムで管理が可能ですよ」などのありがたい助言をいただくが、そんなレベルのことを言っているのではないことは自明だ。それは中小企業のITスキルをバカにしすぎであって、現時点でそれぐらいのことができていない企業はDXどころの話ではない。

中小・小規模企業の経営者は、こうした動きにまどわされてはいけない。DXのために、本業がおかしくなるという愚の骨頂だけは避けなければならない。

将来まで事業を継続するために、製品の出荷までのリードタイムが短縮し、顧客にタイムリーに提案でき、現場の声をいち早く救い上げ意思決定を早くする、あるいはリスクを低減する、こうした事業の継続に向けて、日々努力を続けるしかないし、これにDXが貢献できるのであれば、どんどん採用するだけの話だ。

本業の本質を見失うことなく、それこそ今こそ、自分たちの強みがさらに生かされるような仕組みづくり。そこにデジタル化が役立つのであれば、積極的に活用する。この基本を忘れずに、あまたある「DX業者」に騙されることなく、事業を継続していきたいものだ。