「人生で愛以上に重要なものはない」フランスの鬼才が語る実体験

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バレンタインデーを目前にひかえ、ここで一気に恋愛モードへと気持ちを高めたいところ。そこで、“愛の国”フランスから届いたオススメの注目作をご紹介します。それは……。

『マーメイド・イン・パリ』

【映画、ときどき私】 vol. 358

記録的な雨によって浸水してしまったパリ。セーヌ川に浮かぶ老舗バー“フラワーバーガー”のオーナーの息子であるガスパールは、ウクレレを持って歌うパフォーマーとして働いていた。ある夜、ガスパールはルラという名の人魚が倒れているのを見つけ、自宅で懸命に看病することに。

美しい歌声で出会う男性を虜にし、恋に落ちた男性たちの心臓を破裂させて命を奪っていたルラ。ガスパールの命も奪おうと試みるものの、過去の失恋の経験から恋する感情を一切捨ててしまっていたガスパールには効かなかった。2人は徐々に惹かれ合っていくが、ルラは2日目の朝日が昇る前に海に帰らなければ、命を落としてしまうという。はたして、2人の恋の行方は……?

女心をくすぐるような美術と音楽が満載のオシャレなラブストーリーとして話題の本作。今回は、生みの親でもあるこちらの方にお話をうかがってきました。

マチアス・マルジウ監督

音楽をはじめ、執筆や映像でも才能を発揮し、独創的な世界観から“フランスのティム・バートン”とも呼ばれているマルジウ監督。本作は自身の小説を原作に、初の長編実写映画に挑んでいます。そこで、作品を通して伝えたい思いや愛とは何かについて語っていただきました。

―ガスパール役のニコラ・デュヴォシェルさんは、ガスパールには監督が投影されていると感じ、2か月間ずっと監督を観察して役作りをしたそうですね。ご自身でも、そのような意識はありましたか?

監督 確かにガスパールは、ほとんど私だと思います。なぜなら、彼が感じていたことは、自分も感じていたことで、分身のようなところがありましたから。ある意味で、自伝的な映画になったと言えるかもしれません。いつもは、自分から遠く離れた人物を作るほうが好きなんですけどね。

ただ、彼のほうが私より悪いところもあれば、私より強いところもあるとは感じています。まず、私よりもよくない点は、恋愛に対して極端な考えを持っているところ。私自身も過去には恋に苦しんだことがありましたが、彼のように愛をまったく感じられないところまではいってませんでしたからね。

そして、ガスパールが私よりも強いと思うところは、彼には勇気があるところ。この物語は3日間のお話ですが、彼は短い時間で自分の心を開き、ふたたび感情を取り戻すことができたのです。

すべての燃料になるのが愛

―実際に、ご自身の経験も反映されているところはありますか?

監督 これはすごくおもしろいことなんですが、実はこの本を書き終わってから私はガスパールと同じ経験をしました。それは、ある女性と出会ったときのこと。私はガスパールと同じように、3日間で彼女に心を開いてしまったんですよ(笑)。なので、私の人生哲学は彼と同じになったと言えるかもしれませんね。その素晴らしい女性とは、いま一緒に暮らしています。

―自分が書いた物語が現実になるとはすごいですね。劇中では「愛とは燃料だ」というセリフがありましたが、監督にとっての愛とは何ですか? 

監督 いまの質問をひっくり返してお答えしますが、「すべての燃料になるのが愛だ」と言いたいと思います。それが私の基本です。たとえば、病気になったときや何かを失ったときにも、抵抗する力をもたらしてくれるのは愛ですし、愛があるからこそいまを強く感じることができるとも思っています。つまり、すべての源に愛があるのです。

それは、一種の宗教のようなものと言えるかもしれません。宗教であれば神を信じるものですが、私は愛を信じています。これは恋愛においてだけでなく、親子や友人に対する愛も含まれていますが、自分を豊かにしてくれる愛が重要なのです。私は、人生において愛以上に重要なことがあるとは思えません。人生は短いもので、通りすぎる鳥のようでもあると言われています。そのなかで、愛や情熱のない人生など考えることが私はできませんから。

―心にメモしておきたくなるようなステキなお言葉ですね。

監督 そして、愛とはサプライズでもあるので、自分自身を動かし、自分と他人を驚かすものでなければなりません。だからこそ、私は人生において絶えず冒険を続けていきたいと思っています。決められたプログラムに沿っていくのではなく、そのなかで必要なのは即興性とユーモア。愛が大河なら、それらはその分流であるとも言えるでしょう。私はこれからもすべてのことに対して枯れないように愛を注ぎ続けていきたいと思います。

我慢と努力を続ければ、必ず晴れの日は来る

―ただ、年齢や失敗を重ねていくとガスパールのように、恋することを諦めてしまう人も多いと思います。愛に対して臆病になっている人たちに監督からどんな言葉をかけたいですか?

監督 「まずは辛抱強くあれ。そして勇気を持て」と言いたいと思います。愛を諦めてしまうのは、エゴが傷ついているからにすぎません。子どもの頃に自転車で転んだときのことを思い出してみてください。痛い思いをしたくないから、もう乗りたくないと思いますよね? でも、これこそがこの作品のなかでつねに訴えていたことでもあります。

つまり、人生は失敗だらけで自尊心が傷つくことばかりだけれども、本当に重要なのは失敗したあとにふたたび立ち上がってまた始めること。人生では仕事がうまくいかなかったり、失恋したり、いろんな失敗がありますが、この障害をどう乗り越えるかが一番大切なんです。

―確かに、人生では成功よりも失敗のほうが多いかもしれませんね。

監督 いい物語というのは、A点からB点に直接行くのではなく、その間にある障害を飛び越えるのか、下に穴を掘っていくのか、よそを回るのかといった具合に、どうやってそれを克服するのかを考えることで、初めておもしろいストーリーになります。もちろん、行動するよりも言うほうが簡単ですけどね。

ただ、私は恋愛において、かつてないほど幸せな気持ちをいま味わっています。だからこそ思うのは、雨のあとには必ず晴れが来るということ。一生雨が降り続けるんじゃないかと思うくらい時間がかかるときもありますが、忍耐強く我慢し、がんばって努力を続け、勇気を持って光を探して行けば、必ず晴れの日に到達するとみなさんに伝えたいと思います。

夢を追いかけて、情熱のままに生きている

―心強いお言葉をありがとうございます。では、いまは素晴らしいパートナーとの愛が、監督の創作活動にも大きなインスピレーションを与えていると感じていますか?

監督 まさにその通りですね。実は、私は昨年の3月に詩集を出版しましたが、その本のコラージュやイラストを担当してくれたのが彼女です。「恋の詩の楽しい変調」という意味のタイトルで、朗読をしたレコードも出し、コロナで中止になってしまいましたが、舞台やショーも予定していました。

そういった意味でも、人魚に出会って創作力を取り戻したガスパールと私は同じと言えるでしょうね。しかも、私が彼女に出会ったのは、ガスパールが人魚と出会った場所の近くでもあるんですよ(笑)。ちなみに、私の彼女はDaria Nelsonといって、インスタグラムやYouTubeでも活動しているので、よかったらみなさんもチェックしてみてください。

―それから、劇中でパフォーマーとしての誇りについて話しているシーンも印象的でした。「誇りはあらゆる物事の核心である」というセリフがありましたが、幅広い創作活動をしている監督にとっての“誇り”とは何ですか?

監督 とてもいい質問ですね。まず私が誇りに思うのは、いろいろなものを人とわかちあえるということ。そして、愛を維持できるということです。その愛というのは、クリエイションにおいても、友情においても、恋愛においても言えることですが、自分が夢中になり、それを突き詰められるようになることです。私にとって大事なのは、自分のしていることと自分であることが一致していること。そして、自分の好きなことをしてお金を稼げるということです。

多くの人が、食べていくために仕事をして、残った時間を自分の好きなことに費やしているかもしれません。ただ、私の場合は趣味がないので、自分の好きなことや夢を追いかけ、自分の情熱のままに生きているんです。結果的にそれが生計を立てることにも繋がっているので、私はそれをとても誇りに思っています。

自分にとっての冒険は、生きること

―そのなかで、学んだこともありましたか?

監督 当然のことながら、私は多くの間違いをしてきましたし、これからも間違い続けるでしょう。でも、学び続けていくなかで、自分の情熱を追求し続けられる人生を送れることには誇りを持てると思います。

もちろん、そういった人生を送るために多くの犠牲を払っていますし、少し変わった人でいるために戦わなければいけないこともありますが、私にとっては楽しい戦いであり、喜んでしていることですから。そして、そういった人生を送っているからこそ、素晴らしい人にも出会うことができたので、私にとっての冒険は生きることなんです。

―なるほど。本作では、どのシーンでもインテリアが非常に素敵だったので、監督から特に注目してほしいポイントがあれば、教えてください。

監督 今回は自分の部屋にあったものほとんどを装飾として持っていったので、みなさんにお見せしたいものはたくさんあります。たとえば、劇中に出てくる鳩時計やメキシコの人形は、実際に私のものですし、あとは次のアニメ作品に使う女の子の人形も出ているんですよ。

それから、映画のなかでは頭がハートになっている人物の絵がガスパールのコップや冷蔵庫に描かれていますが、これは私が前に出したアルバムのキャラクターで、私が骨髄移植を受けて入院していたときのことと関係しています。

ここでもまた愛が重要になってきますが、頭の代わりにハートであるのは、自分を愛し、自分が愛される存在にふたたびなるんだという意味が込められているので、この作品にもシンボルとして入れたいと考えていました。いろいろなものが隠しアイテム的に映っているので、ぜひみなさんも注目してみてください。

目も心も楽しませてくれる!

“恋の都”パリが魅せる美しい景色とともに、切なくてキュートなラブストーリーが堪能できる本作。恋している人も、恋に臆病になっている人も、胸が高鳴るのを感じられる大人のためのおとぎ話です。大切な人を誘って、劇場へと行ってみては?

ドラマチックな予告編はこちら!

作品情報

『マーメイド・イン・パリ』2⽉11⽇(⽊・祝)新宿ピカデリーほか全国公開配給:ハピネット

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