医療ベンチャーのメドレー社の豊田剛一郎氏(36)は文春オンラインに不倫が報じられ、2月3日に代表取締役を辞任。妻はニュース番組「news23」キャスターの小川彩佳アナ(35)だ。麻酔科医の筒井冨美氏は「豊田氏のように名門医学部卒業者が外資コンサルへ転職するケースは少なくない。『日本の医療を改革したい』『世界スケールの仕事をしたい』『老人の世話に飽きた』『モテそう』など、動機は様々だが今どきの野心的な若手医師にとって地味な診察よりも魅力的なキャリアパスなのかもしれない」という――。
「news23」(TBS系)のHPより

■「東大医学部→マッキンゼー」のエリート経営者に文春砲が炸裂

新型コロナウイルス(以下コロナ)感染拡大による非常事態宣言が出されている中、妻子を持つあるセレブ男性がウェブデザイナーと不倫をして不適切な夜の濃厚接触をしていた、と文春オンラインが2月3日に報じた。

文春砲のターゲットとなったのは豊田剛一郎氏(36)。東京大学医学部を卒業し、脳外科医として勤務の後、外資戦略コンサルティング企業のマッキンゼーに転職し、医療系ベンチャー企業「メドレー」のスタートアップに参画した。

「代表取締役医師」を名乗り、「日本の医療を変える!」とNHKを含む各種メディアに登場しており医療界では知られた存在だった。

2019年12月、メドレー社はマザーズ上場を果たし、発行済み株式の11.6%を保有する豊田氏の含み益は、現在では約180億円と試算されている。2020年のコロナ禍では、オンライン診療が注目されて株価は続伸し、11月には菅義偉首相と面談するなど「前途有望な若手経営者」として広く知られる存在となりつつあった。

一方、私生活では人気女子アナウンサーの小川彩佳氏(35)と2019年7月に入籍し、翌20年には第一子に恵まれた。小川氏は産後3カ月で「news23」(TBS系)のメインキャスターに復帰し、他のテレビ番組(※)では「夫は日中仕事に出ていて、私は夕方から仕事が始まっていくので、いい具合にバトンタッチができる」と、「妻の仕事をサポートしつつ、育児にも積極的に参加する父親」として「完璧な夫」ぶりを各種メディアでアピールしていた矢先の出来事だった。

※2021年1月30日放送のTBS系「サワコの朝」

■患者を診ずに「金と不倫」に走り、濃厚接触の大きすぎた代償

2月3日夜に公開された豊田氏の不倫報道を受けて、メドレー社は「豊田氏を代表取締役医師から取締役に降格」「2021年分の役員報酬返上」「ストックオプション(新株予約権)の未行使分(320000株分、2月4日の株価で16億円相当)の放棄」を発表した。

妻の小川アナもメディアに対して、「緊急事態宣言下の自粛について夫婦で話し合っていたにも関わらず、このような夫の行動が明らかになり、大変残念に思っております。医療従事者などエッセンシャルワーカーの皆様をはじめ、多くの方が耐えながら過ごしていらっしゃる中で、本当に申し訳なく思っています」とコメントを発表し、今後については「今後については夫婦でしっかり話し合ってまいります」と明言を避けた。

今後もし、不倫に激怒した小川氏が「離婚」を選択した場合、豊田氏は有責配偶者となり、慰謝料と財産分与は回避できない。「女子アナと結婚」→「豊田氏とメドレーが有名になる」→「マザーズ上場」という順番だったので、株式上場にあたって「妻同伴で大口投資家と会食」など小川氏の貢献が認められれば、離婚時の財産分与は巨額になりそうだ。

Amazon創業者のジェフ・ベゾスの元妻マッケンジーは、離婚時の財産分与で一躍「世界23位」の大富豪になった。規模は異なるが、小川氏も「和製マッケンジー」になるかもしれない。

■東大医学部生がマッキンゼー説明会に100人中40人が参加

2004年、新研修医制度が始まり、大学卒業したての新人医師は母校の大学病院よりも都市部の病院に就職するトレンドが始まった。同時に、医大教授や大学病院の凋落も始まった。「救急車たらい回し」「医師集団辞職」「母体死亡で産科医逮捕」のような報道が相次ぎ、地域医療は深刻な人手不足に悩んだ。

写真=iStock.com/ranmaru_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranmaru_

こうした医療業界の矛盾を目の当たりにした若手医師の中には、有名医学部を卒業するものの、「医師を辞めて外資コンサルに転職」という進路を選ぶ者が出現するようになった。

実際、文部科学省の「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会(第6回)議事録」(2009年)には、「マッキンゼーが東大医学部の学生に対して就職の説明会に来た。(東大医学部6年生の)100人の学生のうち、実は40人近くが参加して、医者にならなかった学生も結構出た」「医者という仕事に夢を感じられなくなったから」という発言が残っている。

大学病院で出世し「大学教授」ポストに就いたとしても、ドラマ「白い巨塔」のようなブランド力はもはやない。よって、むしろ「ビキニ美女を同伴してヨットに乗る豊田氏」のスクープ写真のほうが、今どきの野心的な若手医師の羨望を集めるのではないだろうか。

■元外資コンサルタント医師は今どこで何やってる?

外資系コンサルタントのほとんどは、就職数年間で辞めて起業や転職することが一般的である。例えば、2010年前後に外資系コンサルに就職した医師たちは、現在なにをしているのだろうか?

調べてみると目立つのは、やはり「医療系ビジネスの起業」「医療系ベンチャー企業の役員」である。医学をアピールするためか医療系ベンチャーは「メドレー」の他にも「メドピア」「メトリカ」「メドメイン」など「Med」で始まる社名が多い。

特に「メドピア」社は、メドレー同様に「医師が代表取締役」「オンライン診療に強いベンチャー」で「マザーズ上場」企業でもあり混同されやすい。文春砲翌日2月4日の株価も、「メドレー−2.96%」「メドピア−4.68%」と風評被害なのか本家よりも急落しており、ちょっと気の毒である。

変わり種としては、「医学部生や医師国家試験向けの学習動画配信サービス」Medu4を主宰するDr.穂積氏が挙げられる。2015年開始ながらわかりやすい授業で人気を集め、「医学生で知らぬ者はいない」レベルで広く浸透している。本名や東大医学部出身以外の経歴は公表されていなかったが、2018年の動画配信の一部で「元マッキンゼー」であることを発表している。

元コンサル女医としては冨坂美織氏が有名だろう。順天堂大学出身の産婦人科医で、ハーバード大学公衆衛生大学院に留学の後、マッキンゼーに就職した。その後は、産婦人科医として勤務しつつ、雑誌の読者モデルやテレビ番組コメンテーターとして活躍している。

■青い鳥症候群の「起業家医師」は結局、医療の現場に出戻るのか

しかしながら筆者の見聞きした範囲では、元外資コンサルタントの「その後」として最も多いのは、「普通の医師」に戻るケースだ。出戻り組の中には「患者様が安心して過ごす環境づくり」などと自社ホームページにそれらしいキャッチフレーズを掲げているものの、実際は「よくある高齢者向け開業医」ということはよくある。あるいは、カッコいい響きのカタカナ名の小さな会社を所有しつつも、実際の生計の多くは医師アルバイト業で稼いでいるパターンも見聞きする。

メドレー社HPに掲載された「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」。

「上場」のような超成功事例でもない限り、結局のところ「一般の事業会社」が「普通の医者」をしのぐ収益を安定的に得ることは非常に困難なのだ。「外資コンサル」「MBA」「ベンチャー役員」と、いろいろとチャレンジしてみたものの最終的に「医師免許の貴重さ」「ライバルの少なさ」を実感して振り出しに戻る……「人生あるある」かもしれない。

医療系ベンチャー企業として「オンライン医療」をアピールするメドレー社だが、実際の事業内容は「介護士・看護師などの人材斡旋」との2本立てである。そして公表されている2020年第3四半期の決算報告を見ると、利益(EBITDA)のうち、医療介護人材派遣業が約6億円の黒字、オンライン医療は約1億円の赤字となっている。豊田氏がアピールするオンライン医療は、2017年のマザーズ上場以降、常に赤字の“お荷物事業”なのだ。また、メドレー社のトップは豊田氏ではなく、高卒後ビジネス界に入った別の男性である。代表取締役医師のイケてるイメージとは裏腹に、決算書から判断する分には「よくある人材紹介会社」なのだ。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)
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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)