なぜ危険な場所にバス停が数千カ所もある?…しかし法律上は「安全」とされる理由

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【独自】危険なバス停、36道府県で7300か所超…8か所で人身事故
横断歩道や交差点のそばにある危険なバス停が、36道府県で計7325か所にのぼることが、国土交通省の調べでわかった。停車したバスが要因となった人身事故が、静岡、埼玉、広島、滋賀の4県の8か所で起きていたことも判明。危険なバス停での人身事故の状況が初めて明らかになった。同省は安全対策を急ぐとともに、今後、残る11都府県分を公表する。https://www.yomiuri.co.jp/national/20201228-OYT1T50117/

「おいおい、ちょっと待て。横断歩道上はもちろん、横断歩道や交差点から5メートル以内はそもそも駐停車禁止だぞ。なんでそんな場所にバス停をつくったんだ!」
「いや、バス停が先にあった。あとから横断歩道をつくった奴が犯罪者だ!」

普通はそう思うよね。確かに道路交通法(以下、道交法)第44条第1項が、横断歩道上はもちろん、横断歩道の前後5メートル以内、交差点の側端から5メートル以内などを駐停車禁止としている。違法な停車を日常的に行わせるバス停と横断歩道の組み合わせ、そんなのがなぜ何千カ所もあるのか。答えは簡単。じつは第44条には第2項があり、その第1号がこう規定しているのだ。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 乗合自動車又はトロリーバスが、その属する運行系統に係る停留所又は停留場において、乗客の乗降のため停車するとき、又は運行時間を調整するため駐車するとき。

これにより、横断歩道上も、横断歩道の前後5メートルも、交差点から5メートル以内も、路線バスは停車OKなんだね。バス停を設置できる場所は限られているから、危険でもしょーがない? んなわきゃない。法律上、危険はありえないのだ。

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道交法第38条の、まず第1項を見てください。長くてややこしいので、私なりに重要と思う部分を” ”で囲むことにする。

”車両等”は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「”横断歩道等”」という。)に”接近する場合には”、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を”横断しようとする”歩行者又は自転車(以下この条において「”歩行者等”」という。)”がないことが明らかな場合を除き”、”当該横断歩道等の直前”(道路標識等による停止線が設けられているときは、”その停止線の直前”。以下この項において同じ。)”で停止することができるような速度で進行しなければならない”。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、”又は横断しようとする歩行者等があるときは”、当該横断歩道等の”直前で一時停止し”、かつ、その”通行を妨げないようにしなければならない”。

シンプルに翻訳すれば「横断歩道に接近したとき、横断しようとする人がいないことが明らかな場合を除き、徐行せよ。横断しようとする人がいたら停止せよ」ってことだ。

ここで引っかかるのは「横断しようとする人がいないことが明らかな場合」とはどんな場合か、である。交通警察官諸氏の虎の巻でもある『執務資料道路交通法解説18訂版』(東京法令出版)が詳細に解説している。要するに、歩行者信号が赤の場合や、信号はないが見通しがよく、横断しようとする人がいないことが一見して明らかな場合をいうのだそうだ。

立て看板や塀などのせいで見通しが悪いとか、付近が暗いとかいう状況だと、もしかしたら歩行者が出てくるかもしれない。横断しようとする歩行者がないことが一見して明らか、とはいえない。よって、十分に徐行しなければならないのである。この違反の反則金は普通車で9千円。違反点数は2点だ。

次に、同じ第38項の第2項。これも、私なりに重要と思う部分を” ”で囲んでみる。

”車両等”は、”横断歩道等”(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前”の直前で停止している車両等がある場合”において、当該停止している車両等の”側方を通過してその前方に出ようとするときは”、その前方に出る前に”一時停止しなければならない”。

要するに、横断歩道の手前に停車車両があってその横を通過するときは、必ず一時停止しなさいってこと。これも普通車の反則金は9千円、違反点数は2点だ。

以上とおり、バス停のそばに横断歩道があり、停車したバスの大きな車体のせいで横断歩道が見渡せないときは、徐行または一時停止をしなければならない。よって、横断歩道のそばにバス停があっても事故は起こりえないのである。

だが、道交法第38条なんて知らない人もいるだろう。知っていても、人間は不注意な生き物だ。目の前に具体的な危険がなければ徐行も一時停止もせず、バスの陰から出てきた歩行者に衝突! そんな事故は起こるだろう。どうするのか。

どうするも何も、歩行者に法律上の落ち度はない。クルマの側には第38条の違反がある。クルマの運転者を処罰すればいい。同種の事故が多発したなら、一般予防(=見せしめ)の観点から重く処罰しよう。日本は基本的にそういうやり方なのだ。お役人的、官僚的と私は思う。

なので私としては、自分が運転者のときは必ず最徐行または一時停止をし、自分が歩行者のときは、徐行も一時停止もしない運転者がいるかもと考えて注意深く横断する、ということでやっている。加害者にも被害者にもならいよう、頑張っていきましょう。

〈文=今井亮一〉
交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を発行。