お年玉、預かっておくね」と当たり前のように言っていませんか?(写真:freeangle / PIXTA)

お正月に子どもたちが楽しみにしているものと言えば、「お年玉」。お礼もそこそこに、袋の中身のチェックに余念がない子たちも多いでしょう。

『お母さんに知ってほしい 思春期男子の正しいトリセツ』著者であり、開成中学・高等学校で9年間校長を務めた柳沢幸雄氏は、親は子どもが中学生になった時点でお年玉の管理方法を変えるべきだと語ります。その真意について聞いてみました。

理解できない男の子のアタマの中

思春期になると、子どもとの向き合い方はとても難しくなります。それまではよくしゃべりながらまとわりついてきたのに、なぜか口数が減り、反発を繰り返すようになる……。

とくにお母さんにとって不可解なのが、「男子」の思考や行動でしょう。相手が女の子なら、自分の経験に照らし合わせてどうにかなるかもしれません。しかし、男の子の場合は、異性であることに加え、思春期特有の特徴が現れるため、どう接したらいいのか戸惑ってしまうようです。

思春期における男女の違いはいろいろな面で挙げられますが、ここでは「精神的な成長」についてふれてみましょう。

女の子は、比較的早い時期から「自己抑制」を効かせがちです。そのため、自分を過小評価したり、自分の可能性を限定して考えてしまう傾向があります。言葉を換えれば、早い時期から「守り」に入ってしまうのです。

一方、男の子は、女の子と比べて精神年齢が幼いとよく言われます。けれども、その幼さが良い方向に発揮されると、途方もないエネルギーになることがあります。

最近子どもたちがよく使う言葉を借りれば「ワンチャンある」という感覚を、ある程度成長した後も心の中に秘めていて、それによって自分の可能性を広げることができるのです。

現実的なお母さんたちは、それを「根拠のない自信」と呼ぶでしょう。でも、自信ほど大きなエネルギーにつながるものはありません。その点は、男の子が持つ可能性のひとつと言えるでしょう。

そうした思春期の特徴を考えると、日常生活の中で「言ってはいけない」「言わないほうがいい」というフレーズがいくつもあります。

たとえば、子どもがだらしない服装で帰ってきたり、家の近所でハメを外していたりしたときに、「お母さんが笑われるのよ!」としかるケースは多いでしょう。

気持ちはよくわかります。「あなたの行動は第三者から見ればとても目を引く行為だ。でも、私が恥ずかしいからやらないでほしい」ということでしょう。

しかし、「判断基準」を第三者に求める言い方は無責任でしょう。子どもも「他人」を都合よく利用するような親に不信感を抱くものです。「お母さんがしかられるのよ」というフレーズも、同じ理由で避けるべきだと思います。

子どものしたことが許せないのなら、「私はあなたのそういう行為は嫌い」とはっきり言えばいいのです。わざわざ他人を介入させる必要はありません。しっかりと諭すためには、主語は常に「私」か父母を指す「私たち」にして、親自身の視点から率直に話すことが大事なのです。

他にも「男らしくないわね」という言葉がけも要注意。性別によるイメージや役割分担を固定化するようなフレーズは、これからの社会にはそぐわないでしょう。

思春期というのは感受性が豊かな時期ですから、親が発した一言が後々まで心の中に残り続けることもあるのです。

お年玉、預かっておくね」はなぜNGか?

思春期(中高生)の男の子は、しっかりしているようで、ある部分に関してはとても幼いという特徴があります。だから、「何を任せて何を管理すればいいのかわからない」という親御さんも多いかもしれません。

私は、できる限り自分のことは自分でマネジメントさせるべきだという考えです。

「お金」の問題もそのひとつ。

子どもが祖父母や親戚から受け取ったお年玉を、親が管理しているというご家庭は多いのではないでしょうか。「お年玉、預かっておくね」という一言で、親が全額を管理することにさほど疑いが持たれることはないようですが、この言葉もNGフレーズです。

中学生になったら、通帳やキャッシュカードを本人に渡し、子ども自身に管理させる方向にシフトしていくべきでしょう。

そう言うと、「無駄遣いをして、すぐになくなってしまいます!」と不安を漏らす方がいます。でも、それならそれでいいのではないでしょうか。

お年玉を使い切ったからといって、彼らが食べるものに困ったり、生活が立ち行かなくなるわけではありません。それより、お金の大切さを学ぶための「授業料」だと思えば、無駄遣いだとは言い切れないのです。

残金がゼロになったときに、むなしさや不安を感じるはずです。その経験があれば、「慎重に使わなければ……」という気持ちが芽生えるでしょう。いつまでも親が管理をしている限り、お金が減ることはありません。けれども、その代わり、生きていくために必要なお金の感覚がまったく育たないということにもなってしまいます。

正しい借金の作法を教える

せっかくお金の話をするのなら、「借金」についてもきちんと学ばせておきたいところです。

未成年であれば、自分の意思だけで借金をすることは基本的にはないと思いますが、やはり正しい知識は身につけておくべきです。

不動産や車を買う場合の「大きな借金」は必要不可欠だとしても、目先の欲求のための「小さな借金」は、高い金利を払うためにするようなもの。こうした事実も機会をつくってきちんと教えたほうが良いと思います。

最近は、カードローンやカードのリボ払いなどで手軽に借金をすることができます。そのしくみを正しく理解しておかなければ、社会人になったときに気軽に手を出して、身の程を超える借金を抱えることになりかねません。

日本ではあからさまにお金の話をするのは下品だという考え方が根強くありました。その風潮は今でも根強く残っています。学校でのお金の教育も、十分進んでいるとは言い難い状況です。

しかし、これだけ情報が氾濫している時代に、子どもたちをお金から遠ざけてしまうのは、逆に不自然でしょう。

学校で十分に教えてもらえないのなら、親がその役割を果たすという覚悟で、日常的、かつ積極的にお金とのつきあい方を話題にしていくほうがよいと思います。

子どもが金融や資産運用の分野に興味を持ったのなら、知識を与えるのは決して悪いことではありません。投資に関しても、親に十分な知識がないのなら、一緒に学んでみるのも悪くはないでしょう。

塾の「サボり」もお金教育の好機

以前、「塾に通わせているのに、サボってばかりいるんです」という悩みを打ち明けてくださったお母さんがいました。

こういうとき、勉強に対する取り組み方をアドバイスするほうが一般的だと思うのですが、私はちょっと違ったアプローチからお話をすることにしました。この場合も、「お金」についての教育をするチャンスだと思ったのです。

たとえば、塾の月謝に毎月いくら払っているのか、それは1回あたりいくらになるのか(=1回サボることでどれくらいの損失になるのか)、そして、それに相当するお金を稼ぐのに、どれくらいの労働が必要なのか。こうしたポイントについて、具体的な数字を出しながら話してみるといいでしょう。


中学生以上なら、塾の月謝がご家庭の生活費の中でどれくらいのウエイトを占めているのかを伝えても十分理解できる年齢です。塾に通うという行為には「コスト」がかかっているのだと、きちんと理解させることが大切なのです。

もしも、毎月数万円もかけているにもかかわらず、そのコストに見合う成果が出ていないとしたら、つまり、成績が一向に上がらないのだとしたら、親子でその原因について率直に話し合うべきでしょう。

「プレッシャーをかけるのは良くないのでは?」と思うかもしれませんが、実は男の子というのは論理的な話のほうが理解しやすい面があります。いたずらに感情に訴えかけるより、コストを切り口にして話すほうが、成果を出す必要性に気付きやすいのです。

たっぷり時間がある冬休みは、親子で「お金」に関する話をする良い機会かもしれません。今年は「お年玉」の管理権を、ぜひ、子どもに譲ってあげてください。