マヂカルラブリー(左から野田クリスタル、村上) /(c)M-1グランプリ事務局

 漫才日本一を決める『M-1グランプリ2020』決勝が、12月20日、ABCテレビ・テレビ朝日系で生放送され、2017年以来2回目の決勝に挑んだマヂカルラブリーが、前回の決勝最下位の雪辱を果たしてM-1チャンピオンの座を手に入れた。

 昨年は、無名だったミルクボーイが史上最高得点で優勝。審査員の松本人志がエンディングで「過去最高といってもいいのかもしれない」と称えたほどの熱戦で、以前から知名度のあった準優勝のかまいたちはもちろん、3位のぺこぱなど多くの芸人が世に出るきっかけとなり、「神回」と呼ばれた。

 SmartFLASHでは毎年、決勝のスタジオ現場レポートを届けてきたが、今年はコロナ感染拡大対策のためにスタジオ取材が全面NG。記者陣は全員、テレビ朝日局内の大モニターで決勝の模様を見守ることとなった。

 例年はステージ前とその奥のひな壇状の客席で数百人が観覧するが、今年の客席はステージ前のみ。それも間隔をあけての設置だったため、観客数はかなり絞られた。芸人にとって大事なファクターである「目の前の観客を笑わせること」を保つため、ギリギリの策だった。

 また、人数削減のひとつとして、有名人ゲストもなし。芸人の控え所もスタジオ外で、くじで引かれて初めてスタジオに入るという徹底ぶりだ。

 決勝数時間前、ファイナリストの中で目立ったのは「バリ健康なんやけど!嬉しっ!!」(ニューヨーク・屋敷のツイート)といった、無事にこの日を迎えられたことを喜ぶ声。

 コロナに感染すれば、自分たちがこの1年かけてきた成果を見せられないだけでなく、大会自体の色合いも変えてしまう。決勝に挑む思いとともに、そのプレッシャーも少なからず抱えた半月間だっただろう。

 18時34分に放送がスタート。菅田将暉が自身のラジオ番組で「M-1のVTRは、この世で一番かっこいい」と大絶賛するなど、毎年話題になるVTRが流れる。コロナ禍のなかでおこなわれた過酷な予選も垣間見せるドキュメント性の高いVTRを経て、いよいよネタが始まる。

 例年はゲストが引いていた、ネタ順をその場で決める「笑御籤(えみくじ)」は、今年はMCを務める今田耕司と上戸彩がその役目を担う。今田が引いた1組目の籤を渡された上戸は、驚きの表情を見せた。なぜなら1組目から「敗者復活組」だったからだ。

 敗者復活1位でネタを披露したのは、昨年はストレートで決勝に出場したインディアンス。「(屋外の敗者復活戦会場から)走ってきて、あれだけできませんて。感動した!」(上沼恵美子)と称えられた。

 続く2組目は東京ホテイソン。今田が「新しいタイプの漫才」と評したそのネタは、高評価を得つつも点数は伸びなかった。

 3組目はニューヨーク。初の決勝進出であった昨年、松本人志に「(笑いながらツッコむ)ツッコミの形が好きじゃない」と言われたことを逆手に取って、ネタ後に真顔を貫く屋敷。しかし松本に「ちょっと腹立つけど面白かった」と講評され、「1年越しのリベンジー!!」と快哉をあげた。

 4組目の見取り図は、今大会唯一の3年連続決勝進出。貫禄さえ見えるネタ運びで、高得点を収めた。

 続く5組目はおいでやすこが。ピン芸人としてそれぞれR-1ぐらんぷり決勝進出経験を持つ実力派が組んだユニットで、「叫んでいるけどうるさくない。衝撃を受けた」(立川志らく)と審査員も絶賛。この時点での1位に躍り出た。

 6組目はマヂカルラブリー。初決勝進出となった2017年、審査員の上沼恵美子に「好みじゃない」「なんで決勝に上がってこれたの?」と酷評され、決勝最下位に沈んだ。それをバネに、また決勝に返り咲く決意を「えみちゃん、待っててねー!」と叫ぶネタにしてここまで来た。そして今年のネタを終えた後、上沼の一言は「あんたらアホやろ?」という最大限の賛辞。こちらも高得点をたたき出した。

 7組目は2年連続決勝進出のオズワルド。「話芸が抜群に上手い」(ナイツ・塙宜之)と評されながらも、上位に食い込むことはできず。続く8組目のアキナは、出番順にも泣き、物足りない結果に。9組目の錦鯉は、インパクトは残したものの、惜しくも4位。ラスト10組目のウエストランドは、松本に「刺さる言葉がよかった」と評されながらも、点数は伸びなかった。

 最終決戦に残ったのは、点数上からおいでやすこが、マヂカルラブリー、見取り図の3組。その審査方法は、ここまでのファーストラウンドとは異なり、審査員7人が一番面白かったと思う芸人1組に票を投じる。

 最終得票結果は見取り図2票、おいでやすこが2票で、マヂカルラブリー3票。最終決戦は1組が断トツか、2組の接戦であることが多く、ここまで拮抗するのは初めて。

 そして、3年前の決勝最下位からの雪辱を誓ったマヂカルラブリーが、悲願の優勝を果たした。

 昨年が「神回」と称された要因のひとつに、マイクの前でしゃべりで笑わせるという、大多数の視聴者が「漫才」でイメージする、いわゆる王道が多かったこともあげられる。

 しかし、今年はボケの野田クリスタルが動きまくり、ツッコミの村上がマイクの前で野田を諫め続けるという「“動”の漫才」を見せたマヂカルラブリーが優勝。

 準優勝も歌ネタで勝負したおいでやすこがと、世間のイメージする「正統派の漫才」とはほど遠いコンビが好成績を収める結果となった。

記者会見のマヂカルラブリー/(c)M-1グランプリ事務局

 オンエア終了から15分後、優勝記者会見場にマヂカルラブリーが入ってきた。ひな壇に座る2人は、まだ優勝がピンときていないのか、高揚感をあまり感じさせない。会見冒頭も、なんだか形式ばった記者会見コントを見ているようだった。

 しかし、質疑応答が進むうちに咀嚼できたのか、だんだんと回答が熱を帯びてくる。マイクの前にほとんど立たず、しゃべりもしない漫才のスタイルが賛否両論であることを自認する野田の口からは、「(今年の決勝は)いろんな漫才があったなと。優勝が僕らでよかったのかとも思うが、文句は言わせません! あれは漫才です、僕らの!」と力強い言葉も聞かれた。

 オンエアの最後で「えみちゃん、やめないでー!」と叫んだことについて聞かれた野田は、冒頭で上沼が「審査員は今年で最後」と宣言したことに対する願いだと明かし、「今までは必ず1組、上沼さんに怒られるコンビがいたが、今年は誰も怒られなかった。その雰囲気からして、本当にやめてしまうのではないかと感じ、やめないでと叫んだ」と語った。

 質疑応答を終え、写真撮影の時間に。緊張気味に並んでポーズ、が撮影の王道だが、2人は違った。会見を進行していたヒロド歩美アナウンサーが「今まで見たことのないトロフィーの持ち方ですね」と思わず声を発したほど、マヂカルラブリーらしく立ち振る舞った。

 正統派でない漫才で優勝し、正統派でないポーズで会見を終えた新王者は、そこから次々とテレビや配信番組に出演。翌日も朝から各所で異色の漫才を披露し、迎える出演者たちの目を丸くしていった。

おいでやすこが(左からこがけん、おいでやす小田) /(c)M-1グランプリ事務局

 惜しくも準優勝となったが、ピン芸人同士が組んだユニット「おいでやすこが」の大健闘も、今年のM-1を象徴している。おいでやすこがは、恒常的に活動している正式なコンビではなく、芸歴20年のおいでやす小田と同19年のこがけん、2人のピン芸人が組んだユニットだ。

 M-1グランプリは、毎年決勝の半月ほど前に準決勝がおこなわれる。進出組発表が終わるやいなや、全ファイナリストは揃って移動し、決勝当日に使われる写真やVTR、SNS素材などさまざまな収録・撮影を一気におこなう。その目まぐるしさを体験して、初めて「本当に決勝に行けたんだ」と実感するという芸人も多い。

 筆者はM-1オフィシャルライターとして、毎年その場で代表取材を担当しているのだが、おいでやすこがの取材は他コンビの倍の時間を要した。正式なコンビではないため、公式の場で2人揃って話を聞かれること自体が初めてだったのだろう。

 発表直後で興奮状態なことも相まって、回答が質問からどんどん脱線し、「あれ、いま何の話でしたっけ?」となり、全員で大笑いすること数回。そんな時間のなかで、2人の “コンビとしての骨格” が急激にできあがっていくのを感じた。そこからわずか半月での準優勝。これからの躍進にも期待がかかる。

 今年のM-1グランプリは、裏番組も強力だった。フジテレビが国民的アニメ『鬼滅の刃』をぶつけてきたのだ。それでも決勝翌日に発表された視聴率は、M-1が5%以上も上回る高視聴率となった。Twitterのトレンドも、「#M1グランプリ2020」が終始1位を守り続けた。

 これだけ大きなコンテンツに成長した以上、大会が終わっただけでは成功か失敗かを見極めることはできない。それでも、「『こんな時代だから』とはあまり言わず、当たり前のように開催してやろうと思っている」(桑山哲治プロデューサー)という決意のもとに開催されたM-1が、今年も当たり前のように開催された意義は大きい。

取材&文/松田優子