世界中で感染が広がる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染者は、誰もがせきや熱といった症状を経験するわけではなく、多くの人々が感染しても無症状のままである可能性が指摘されています。アメリカ海軍の新兵1800人近くを対象にした大規模な実験により、「無症状の感染者によってグループ内にSARS-CoV-2の感染が拡大する」ということが明らかになりました。

SARS-CoV-2 Transmission among Marine Recruits during Quarantine | NEJM

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2029717

Study of nearly 2,000 Marine recruits reveals asymptomatic SARS-CoV-2 transmission

https://medicalxpress.com/news/2020-11-marine-reveals-asymptomatic-sars-cov-transmission.html

SARS-CoV-2の感染者に必ずしも症状が現れるわけではないことは以前から指摘されており、アメリカの原子力空母セオドア・ルーズベルトで発生したクラスターでは、感染者の大半が無症状であることが報じられていました。

新型コロナウイルス感染者が大量発生した空母の乗組員の「大半が無症状」という謎、国防長官も困惑 - GIGAZINE



by U.S. Pacific Fleet

そこでマウントサイナイ医科大学と海軍医学研究センターの研究チームは、海軍の新兵を対象にした大規模な実験を行うことにしました。

研究チームが2020年5月〜7月の調査期間中に訓練を実施した9つの異なる海軍の新兵訓練クラスから被験者を募ったところ、合計で1848人が被験者として応募しました。各クラスには350人〜450人の新兵が含まれていたため、全体の半分ほどが今回の実験に志願したことになります。

新兵は訓練の参加前に2週間の自主的な自宅隔離を行ってから専用の訓練施設に入り、2人部屋に割り当てられて共同生活を始めました。また、1クラス当たり50〜60の小隊に分割され、研究チームによる監視を受けながら2週間にわたる訓練を行ったとのこと。

調査期間中、新兵たちは実験に登録したかどうかにかかわらず、マスクの着用や6フィート(約1.8メートル)の社会的距離の維持、定期的な手洗いといった検疫措置に従って生活しました。各クラスはそれぞれ異なる食事時間と訓練スケジュールが設けられており、別々のクラスが相互に関わることはありませんでした。また、訓練施設は途中でクラスの入れ替わりがあったそうですが、その際には徹底的な消毒作業が全ての個室や共有スペースで行われたそうです。



by Defense Logistics Agency

研究チームは、新兵たちの体温チェックや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状観察を行うと共に、訓練施設に入ってから2日目・7日目・14日目に被験者に対し症状の有無を問わずPCR検査を実施。また、実験には登録しなかった新兵たちに対しても、調査期間の終わりである14日目にPCR検査を行いました。

症状の観察やPCR検査の結果を分析したところ、施設に到着してから2日以内に1848人中16人(約0.9%)がSARS-CoV-2に感染しており、このうち15人は無症状だったことが判明。また、7日目と14日目に行われたPCR検査では合計35人(約1.9%)の参加者がSARS-CoV-2陽性と診断され、そのうち4人が検査前に症状を呈したとのこと。なお、実験に登録しなかった新兵1554人については、26人(約1.7%)が14日目のPCR検査で陽性だと診断され、こちらは事前に症状が確認された事例がゼロだったそうです。SARS-CoV-2の感染は、同じ部屋で生活するルームメイトや、接触が多い小隊内で広まる傾向が見られたと研究チームは述べています。

また、新兵たちから採取されたSARS-CoV-2のゲノムを分析したところ、実験全体で6個のクラスターが独立して発生していたことがわかったとのこと。研究チームの一員であり、マウントサイナイ医科大学で助教授を務めるHarm van Bakel氏は、「異なる遺伝子変異によって特定された6個の独立したクラスターは、監視された検疫中に複数の独立したSARS-CoV-2の導入・拡散があったことを示しています」とコメント。

今回の実験により、検疫やさまざまな公衆衛生規則に従って生活した場合でも、多くの感染者が無症状のままSARS-CoV-2の感染を広めていることが明らかとなりました。van Bakel氏は、「この大規模な研究データは、グループ内でのSARS-CoV-2感染を減らしてより広いコミュニティに波及するのを防ぐため、症状に関係なく全ての個人に繰り返し検査を行う必要があると示しています」と述べ、症状に依存しない検査が感染拡大を抑える上で重要だと主張しました。