コロナ禍においてラーメン店の業況の厳しさが浮き彫りに(写真:kazuhide isoe/iStock)

新型コロナウイルスの影響で、ラーメン店の倒産が近年稀に見る件数となりそうだ。

帝国データバンクが10月8日に発表した調査によると、ラーメン店の倒産は2020年1〜9月に34件判明している。この時点でここ20年で最多となる昨年(2019年)の36件に並ぶ勢いとなっており、このペースで倒産が続くと過去20年における年間最多倒産件数の更新がほぼ確実となっている。


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緊急事態宣言下の休業要請はもちろん、コロナ感染を怖れた消費者が外食を手控える中、飲食店側はテイクアウトや宅配に力を入れている。ところが、ラーメンはその輪の中になかなか入れないでいた。

自分で調理する材料一式をテイクアウトとして販売するお店やチェーンは一部あるが、ラーメンは運んでいる間に麺が伸びてしまうので、テイクアウトや宅配には圧倒的に向かない。弁当やサイドメニューを充実させたり、冷凍ラーメンを開発したりする店もあったが、体力のない個人店にはとうてい難しく、筆者が知る限りでもこのコロナ禍で閉店に追い込まれる店は数多い。

そもそもラーメン店は薄利多売型

そもそもラーメン店は薄利多売型のビジネスだ。根っこにあるのは、古くて新しい「1000円の壁」という事実だ。

どんなにおいしくとも、どんなに高級食材を使っていても、ラーメン1杯の価格が1000円を超えると食べる側は心理的に「さすがに高い」と感じてしまう。多くのラーメン店は原価や人件費などを鑑みながら、1000円以内の価格を守ってきただけでなく、全体で見れば低価格志向がどんどん強まってきた。

総務省の「小売物価統計調査(東京区部、12カ月移動平均値)」によると、ラーメンの1杯当たりの価格は2020年8月時点で523円。これは、10年前のデータ(約550円)から比べると27円値下がりしている。この10年間では低価格型のラーメンチェーンが新興も含めて広がっており、回転寿司など他の業態に比べると値上げが難しく、ラーメンが低価格競争に巻き込まれていることを表している。

例えば、中華そばを355円(税抜)で提供する「日高屋」(ハイデイ日高)は2009年時点の250店舗から、2017年には400店舗にまで店舗数を伸ばしている。醤油ラーメンを480円(税抜・関東エリア)で提供する「餃子の王将」(王将フードサービス)は2011年7月に600店舗を達成し、2020年3月時点では737店舗となっている。

この厳しい競争環境において、ラーメン店は1日のうちにどれだけお客を入れてラーメンをたくさん売るかが勝負になっていた。つまり、できるだけ回転率を高めなければならないのが至上命令だ。ところが、コロナによって客足が遠のき気味になっているだけでなく、感染拡大防止対策で席数を減らしているため、回転重視の戦略では売り上げはおのずと減る。一般的なラーメン店がこのコロナ禍でどんどん倒れていくのは、構造的な問題なのだ。

人気ラーメン店トップ10の平均価格は926円

一方で、希望の光がないわけではない。「食べログ」で人気のラーメン店トップ10の基本メニューの価格を調べてみた(10月16日調べ)。

1位 中華蕎麦 とみ田  つけめん(TOKYO-X純粋豚骨)(並・250g) 1250円
2位 手打式超多加水麺 ののくら  中華そば 850円
3位 麺庵ちとせ  塩 850円
4位 メンドコロ キナリ  濃口醤油 780円
5位 らぁ麺 飯田商店  しょうゆらぁ麺 1300円
6位 櫻井中華そば店  中華そば 800円
7位 麺尊 RAGE  軍鶏そば 900円
8位 宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀  宍道湖しじみ中華蕎麦 850円
9位 かしわぎ  塩ラーメン 680円
10位 迂直  鰹昆布出汁 醤油つけ麺 1000円

この10店の基本メニューは平均価格926円と、総務省統計による全国的な平均価格の1.77倍、403円高い。人気店においては「1000円の壁」と戦いながら、限りなく1000円に近づいてきているという見方ができるだろう。

その中でも「1000円の壁」を意識的に乗り越えようとしているラーメン店もある。

「麺屋武蔵」は東京・新宿に総本店を構え、渋谷、池袋、上野、秋葉原、高田馬場などの都心部を中心に現在、国内15店を構えているが、ラーメン店の中では高めの価格設定を続けている。基本メニューのら〜麺こそ900円(税込)だが、豪華トッピングの載った1050〜1530円(税込)のメニューもある。

高価格に設定する理由は従業員の給料の確保だ。給料はラーメンの粗利の中から出ている。高価格はなかなか理解されない側面もあるが、価格に見合うだけの価値をしっかりと提供し、高い粗利を確保して給料をはじめとする従業員の待遇改善に努めていくことが欠かせない。

「ミシュランガイド東京」でラーメン店として2015年に世界で初めて一つ星を獲得した「Japanese Soba Noodles 蔦」(代々木上原)はベーシックな醤油Sobaは1200円ながら、最高で3550円のメニューも提供している。「黒トリュフチャーシュー味玉醤油Soba」「黒トリュフチャーシュー味玉塩Soba」だ。思い切った価格設定をした理由は、原価を惜しまない上質な食材を使っているからだ。厳選された小麦を使った自家製麺や、スープに使う青森シャモロック、天草大王、名古屋コーチンなどの地鶏、そして香りの高い黒トリュフはラーメンの上にダイレクトに削って載せる。

「昔は一般的な食材しかなかなか手に入らず、その中には粗悪なものが多かったですが、今はおいしい食材が手に入りやすくなりました。体にとっても安心で、かつおいしいものが作れる世の中になったので、『1000円の壁』は気にせずおいしいものを作っていこうとしています」(蔦・大西祐貴店主)

単純な低価格競争に甘んじていてはジリ貧

ここ数年は外国人観光客が増えた影響もあり、都心のラーメン店の価格は上がっていく傾向にあった。上記の人気店においてもその動きがあったと言える。

コロナ禍で外国人観光客が日本に来られない今、同じ価格で営業を続けられるのかという課題はあるが、人気店の高価格化はここ数年のトレンドと見ていいだろう。逆に低価格の流れを作っているのはチェーン店なのである。

人件費や原料の高騰に加えて、新型コロナウイルスの影響で客数の減少が止まらず、今後もラーメン店の価格の見直しは避けられない。

日本そばの業界に高級そば店から立ち食いそば店までレベルの差があるように、ラーメンの世界も1000円超えのラーメン店と低価格のラーメン店が共存できるような形を作り上げられるか。これまでは高級食材を使用しているお店だけが価格の上乗せで先行できたが、ラーメン店としては“職人の技術”に対価をどう払ってもらうかの仕掛けを考えて、実行していかなければならない。単純な低価格競争に巻き込まれていては、ジリ貧だ。