かつてアメリカでとある旅行代理店が嘘のようなチャーター便を手配したことがありました。この便は乗客が下着ですら脱ぎ捨て、裸になるのです。インパクト絶大ですが、この背景には当時の航空業界特有の問題も関わっていたようです。

乗客が全裸だからこその工夫アリの機内サービス

「自由の国」とも呼ばれるアメリカで、冗談のようなフライトが実際に行われたことがあります。


アメリカの象徴のひとつ「自由の女神」があるニューヨーク。2001年にはテロにさらされた(画像:写真AC)。

 2003(平成15)年、チャーターされた1機のボーイング737型機が、マイアミからメキシコまで飛びました。乗客は100人弱とのこと。この便は直訳すると「原則裸の旅行」をコンセプトとする、とある旅行代理店がチャーターしたものです。

 機内では、普段は見られない光景が広がっていたそう。このフライトは、シートベルトサインが外れると服を脱ぐことが許されていました。この「服」は、下着を含みます。

 CNNなど当時の現地メディアの報道によると、担当する乗員は当局の規則に従い制服を着用すること、やけど防止のためドリンクは冷たい物のみ、降下する際の機内アナウンスは乗客に「服を着るよう」説明があったとされています。

 インパクト絶大ともいえるこのフライトですが、裏には当時の事情が関わっていたという論調もあります。

「全裸フライト」実行時の米航空事情

 この「全裸フライト」があった2年前の2001(平成13)年9月、アメリカでは同時多発テロが発生し、航空業界に大きな衝撃を与えました。航空需要は減退を余儀なくされ、アメリカの大手航空会社、ユナイテッド航空、デルタ航空、ノースウエスト航空(のちにデルタ航空に合併)が経営破綻を起こすほどの影響を及ぼします。

 また、この事件をきっかけに旅客機のテロ対策も大幅に強化され、同国の搭乗客への身体検査や手荷物の検査が厳重化されました。


オーストラリアのシドニー国際空港、この空港は搭乗券なしでも保安検査を抜け、搭乗ゲートまで行ける(2019年、乗りものニュース編集部撮影)。

 このようななか、たとえばニューヨークタイムズのコラムニスト、トーマスL.フリードマンは「服を脱ぐことによって機内の安全性、安心感を高めることができる」趣旨のコメントをしています。つまり、テクノロジーが進化しても、乗客がみな裸ならば武器などを服の中に隠し持つことができなくなるということです。

 先述のとおり「全裸フライト」は、少々ユニークな旅行代理店が行ったものであり、直接的な関連性は不明ですが、アメリカ国内でこのような論調もあるなか行われました。

 なお、このフライトが実施されたのはこの一度きりで、ほとんどの乗客は、同じくこの旅行代理店が主催するツアーに向かうための乗客で、フライト時間は1時間少しだったそうです。