見積りの持つ意味/野町 直弘
先日私が愛読するZhenさんの「グローバル調達とものづくりのリアル」というメルマガで「見積金額が上がるカラクリ、下がるカラクリ」という号を読みました。
この中でZhenさんは『欧米系のサプライヤは、見掛けの見積金額を低く抑えるために見積依頼仕様を下回る見積を平気で提示する。もちろん、基本的に契約社会なので、見積書のどこかに小さな文字で、「××を含まない」、「弊社標準仕様で見積しているので、××を指定する場合は、追加費用(US$〇〇/基)が発生する」、「出荷前性能検査は、各アイテム1台のみ実施」等が記載されている。』と書かれています。
とても興味深いことです。
一方で日系サプライヤの場合は、通常高めの見積を提示することが多いです。これは当初の見積提示時には仕様が確定していないことが多く、仕様が未確定の場合にサプライヤは保険をかけて見積提示をするからと言えます。既存のサプライヤと新規サプライヤで競合見積を取得する時に、仕様が明確でないと公平な土俵で勝負ができない、というのはこういう現象が理由と言えるでしょう。
一方、日系サプライヤが初回見積を高めに提出するのは、別の理由も考えられます。日本企業のバイヤーは初回提出された見積からいくら値下げしたか、を評価されることが多く、中には一律X%下げてください、などと交渉をするバイヤーもいるからです。バイヤーによっては見積に値下げシロを盛り込んでください、などとサプライヤに堂々と依頼する方も未だにいるとのこと。
つまり、サプライヤは下げられることをわかっているバイヤーには、最初は高目の見積を意図的に提出しているのです。
このようにサプライヤにとって見積とは単なる数字だけでなく何らかの意思が込められいることが分かります。例えば受注リスクが高い時に、わざと高い見積を提出することで辞退するといういわゆる「お断り見積」は最たるものです。また見積明細で、特に高い部分などは要注意な箇所をアピールするためというのも理解できるでしょう。逆に本気で受注したいサプライヤの見積はしっかりした(説明できる)ものである場合が多いです。
このように見積はサプライヤや営業パーソンの意思や思いが入っているものであり、バイヤーはそれをできるだけ汲み取ることが責務だと言ってよいでしょう。
他方で信頼性の高い見積を提出されるということは、バイヤーとサプライヤの関係が上手くいっているということです。ある企業では信頼関係ができているサプライヤの見積りは査定の
必要がない、と言います。合わせて査定しなければならない見積提出されるバイヤーは能力が高くない、とまで言い切る企業も知ってます。
私が知っている某自動車メーカーは見積を2回提出させるのです。1回目は個別の購入品についての見積です。1回目の見積についても査定はされます。しかし理屈が通っていればそのまま見積通りに価格決定されることも少なくありません。
2回目の見積は半期毎に提出します。ここでは工場の関係箇所の総原価を見積ます。総原価は工場の生産性向上や各工程の生産性比較による課題提示が行われ、半期毎にフォローされるのです。また購入品についてもコスト削減を求められます。このように個別原価と総原価の見積取得によって、より信頼性の高い見積取得の仕組みができているのです。
こう捉えると見積とはサプライヤの意思が入っているだけでなく、バイヤーとサプライヤの重要なコミュニケーションツールだとも言えるでしょう。