石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

写真拡大

コロナウイルス感染拡大防止のロックダウン下で、特定の趣味・関心や地域にフォーカスを置く「ニッチSNS」が人気を集め、フェイスブックからオーディエンスを奪っている。

たとえば「レート・ユア・ミュージック(Rate Your Music)」は、音楽好きのためのオンライン・コミュニティだ。「自分と共通の関心を持つ人だけが集う場所、ということで安心感がある」とあるユーザーはコメントする。

ニッチSNSを好み、フェイスブックをやめる人が増えている。フェイスブックのネットワークはあまりにも広すぎ、一般的すぎる。フェイスブックへの投稿は、万人受けする「公の顔」だ。そんなのはつまらない、と批判する声が以前にも増して聞かれるようになってきた。

「ネクストドア(Nextdoor)」は、地域に根差したSNSだが、ロックダウンに際して「コミュニティ」の重要性があらためて見直される中で利用者を増やしている。買い物に行けない高齢者と近所の人がつながったりといった活動が生まれている。いわば「助け合いアプリ」であり、「現代版回覧板」である。

2019年末の時点で市場に出回っていた「ソーシャル・アプリ」の数はモバイル対応のものだけで7万を超え、これは前年同期の1.5倍にのぼった。「ソーシャル・ネットワーク」のカテゴリーに当てはまらない、ソーシャル・ゲーム・アプリやソーシャル・メッセージング・アプリを含めるとその数はさらに膨大なものとなる。

昨年一年間で、アメリカの成人はソーシャル・ネットワーキングおよびメッセージング・アプリの利用に合計57時間を費やした。これは前年に比べて10%の増加であるという。ただ、その中でもフェイスブックの利用は減少している。ロックダウン以降、その利用は再び上向きになったが、パンデミックが収束する頃には再び下降傾向になることが予測されている。

近年、フェイスブックは、家族や友人からの投稿がニュースフィード上に優先的に表示されるようアルゴリズムを変更したり、「グループ」機能に注力したりしてユーザー離れを防ぐ努力を払ってきた。しかし近年、そのプラットフォーム上にフェイク・ニュースや政治的なプロパガンダ広告が氾濫する中、厳しい戦いを迫られている。

ゲームを主体としたソーシャル・ネットワークのディスコード(Discord)のコロナ・クライシス以降の新規登録率は200%アップ、そのチャット・サービスの利用もロックダウン以降50%増加している。利用者の約半数が一日4時間以上を費やすという。

ディスコードの3億人のユーザーはゲームをプレイするためだけにそのプラットフォームに来るのではない。招待制オンリーのグループ機能も存在するが、ペットや政治、アニメ、電子マネーなど多種多用なテーマのグループが存在し、趣味や関心を共有するユーザーが会話に花を咲かせている。

ニッチSNSの主要収益源は広告、そしてユーザーから徴収する会費である。たとえばビール愛好家のソーシャル・アプリであるアンタップト(Untapped)は、バーや醸造所やその他ビール関連の業者の広告を掲載し、その広告料で運営を賄っている。ロックダウン以降には、アルコール宅配業者からの広告問い合わせが急増しているという。

ゆっくり走りたい人のためのマラソン・トレーニング・アプリ「スロー・エイ・エフ・ラン・クラブ(Slow AF Run Club)」は、ユーザーの利用レベルによって月5ドルから50ドルまでの会費を徴収している。また、オリジナルTシャツなどのアパレルを販売することにより運営費を賄っている。これらのニッチSNSが目指すのは「共通の趣味や関心を軸にユーザーが安心して集うことのできる聖域」である。万人に愛される必要はない。「安心」「安全」「仲間意識」を追求するニッチSNSの時代が到来している。