石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

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ウィズ・コロナ時代の新たなジレンマ

「店を閉めれば収入はない。しかし店を開ければ赤字になる」。コロナ時代に、多くの店舗が直面しているジレンマだ。

コロナ・ショックにより引き起こされた経済不況の中、生活者の財布のひもは固く締められている。食品や生活必需品ならまだしも、他の商品やサービスの場合、「買う気を起こさせる」のは困難を極める偉業だ。そして、比較的安定した売上を上げている店舗も順風満帆というわけではなく、防護用品の整備、コロナ感染防止対策としての新しいプロトコルの執行にまつわるコストがかさみ、利益を食いつぶしている。

コロナ時代の黒字経営は危うい綱渡りだ。利益を出すために人やサービスをカットすることを強いられる。「コロナ・コスト」を追加料金として徴収するところも出てきている。

そしてこれは大企業も例外ではない。


かさむコロナ・コスト

多くの企業が第一四半期業績を発表したが、その中でもひときわ目立ったのが「コロナ・コスト」の存在だ。ウォルマート、ターゲット、ホーム・デポの三社で、合計20億ドル相当のコロナ・コストを計上している。先ほど述べたように、従業員の安全を保証するための防護用品のコストや、危険手当、除菌作業などの清掃コストである。

ファストフード大手のマクドナルドは店舗再開のガイドラインをフライチャイズ店舗に通達したが、その中には30分毎のトイレの清掃や、毎回、人が使用するたびにデジタル・キオスク(セルフサービス端末)を除菌することなどの項目が含まれている。必然的に、これらの業務からも「コロナ・コスト」が発生することは言うまでもない・

中小の企業にとって状況はさらに深刻だ。中小企業の利ざやは大企業に比べてさらに薄い傾向にあり、また、長期に赤字を出しながらビジネスを維持する体力もない。アメリカ全土でロックダウンが緩和・解除される中、多くの中小企業が営業を再開しているが、そこで直面しているのは利益回収が困難を極めるコロナ時代のコスト構造だ。


「コロナ料金」追加徴収で炎上

食品をはじめとして仕入れのコストは軒並み上昇している。防護用品のコストはかさむ。経済不況のムードが色濃くなる中、生活者は財布のひもをさらに固く締める。感染防止対策として一度に入場できる顧客の数を制限すれば、小売店舗やレストランは一日の売上を自ら圧迫することになる。かといって価格を上げれば、顧客からの反発は避けられない。

「コロナ・コスト」に悩まされているのは小売店舗やレストランばかりではない。ヘア・サロン、ネイル・サロンなどの美容系ビジネス、歯科医などの医療系ビジネス、宅配・配送業者なども同様の難題を抱えている。

アメリカのレストランの中には、食事の値段に一定割合を「コロナ料金」として加算するところも出てきているが、追加徴収に腹を立てた顧客がレシートの写真を撮りインスタグラムなどのソーシャル・メディアに載せ、その結果としてレストランが猛烈な批判を浴びるといった事件も起きている。最近では、顧客の反発を恐れて、「コロナ料金」と明記するのではなく、メニュー全体の価格を上げるという方策をとるところが主流になっているようだ。

歯科医など感染のリスクが高いビジネスでは、感染防止のための設備投資に数万ドル(数百万円)を費やすところも少なくないという。そのうえに、マスクや手袋、フェイスシールドなどの防護用品のコストも毎回の診療の経費として加算されていく。一回の診療あたりに、10ドルから150ドルの「コロナ料金」が徴収される見込みであるという。

ロックダウン緩和・解除でやっと営業再開になったが、喜んでばかりはいられないということだ。新たなチャレンジが待ち受けている。「店を開ければ赤字になる」という状態が続けば、どんなビジネスでも廃業を余儀なくされる。コロナ時代の新しいコスト管理が深刻な課題であるということだ。