石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

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コロナショックがきっかけとなって、アメリカ中のオフィス・ワーカーというオフィス・ワーカーが一気に「在宅勤務」を強いられることになった。六月がつい目前に迫った今日では、各地ロックダウン(外出禁止令)の緩和・解除が進んでいるものの、一時はアメリカの人口の95%が「ロックダウン」となり、「テレワーク(アメリカでは「リモート・ワーク」)が突如としてメインストリームな働き方となった。

そこで浮き彫りになってきたのが、「オフィス」という場所/物理的な空間が、従業員のエクスペリエンスやエンゲージメントにどんなに大きく貢献していたかという事実だ。考えてみれば、近年、特にシリコンバレーのテック企業や飛ぶ鳥を落とす勢いのスタートアップ企業は、優れた人材をめぐる競争の中で、他社に勝る「カッコいいオフィス」や「豪華なアメニティ」、そして「エンターテイメント」を提供することに並々ならぬ力を注いできた。

しかし、コロナ感染対策として「在宅勤務」が義務づけられ、従業員が集う「オフィス」という場が失われた今、いかに「従業員エクスペリエンス」や「エンゲージメント」を高めるのか、会社として、チームとしての一体感や、結束や、仲間意識を維持していくのか、ということが重要な課題となり、企業のリーダーはみなこの課題に頭を悩ませている。

たとえばつい先日、グーグルは、2020年の年末までは一部のチームを除き在宅勤務を続行する方針をシリコンバレーの本社で働く全社員に通達した。グーグルのキャンパスといえば、健康で美味しい食事を一日三食無料で食べられるカフェテリア、フィットネス・センター、無料マッサージ、無料理髪店、無料ランドリー・サービスなど贅沢を極めたアメニティの数々で有名である。それが、グーグル社員にとって自慢でもあるだろう。今までは「キャンパス」に集い、生活を共にすることで、一体感や仲間意識を保っていた人たちが、各自の自宅から働くようになった今、「グーグラー(グーグルの社員はこう呼ばれる)」としてのアイデンティティをどうやって築いていくのか。これはグーグルだけでなく、世の中の会社の多くが今後直面する深刻な課題であるといえる。(フェイスブックは2030年までに従業員の約半数が「リモート・ワーカー」になると予測。今後、「リモート・ワーク」を前提とした雇用を強化していく意向を発表している。)

スカイプやズームなどのウェブ・ミーティング・プラットフォームや、メッセージング・プラットフォームは数多(あまた)の選択肢が存在し、無料で、または安価に使うこともできる。多くの人、会社は既にこういったテクノロジーを利用し、打ち合わせをしたり、全社会議をしたり、プロジェクト管理をしたりもしているだろう。しかし、テクノロジーを導入すれば、会社として、チームとしての一体感や結束や仲間意識が育まれるかというとそうではない。

従業員間の「つながり」を保つために、「バーチャル飲み会」「バーチャル・ヨガ・クラス」、そして、子供の面倒を見ながら在宅で働いている従業員のためには「バーチャル・ストーリータイム(絵本の読み聞かせ)」など、各社、様々な工夫を凝らしている。しかし、「バーチャル」で何かやればいいというものでもないだろう。「ズーム」みたいなプラットフォームがまだ物珍しいうちは面白みもあるが、いずれはマンネリ化して飽きがくる。バーチャルにつながってただ一緒にお酒を飲むだけではあまりにも脳がない。

今後、人が「会社」という場に集まらずに働くワークスタイルが定着すると、会社としての「目的意識」や「価値観」の共有がますます重要になってくる。そういった「鎹(かすがい)」がなくては、ただ一緒に作業をしている人の集まりになってしまう。個人が各自の能力を「切り売り」するという感覚では、「会社」という共同体としての力は生まれない。

複数の人が共通の目的意識や価値観のもとに結束し、力を合わせて何かを成し遂げる時、つながりが芽生え、一体感や仲間意識が生まれる。個々人の才能やスキルを寄せ集めてモノやサービスをアウトプットすることだけにフォーカスをおいた会社はあまりにも味気ない。共通の目的意識や価値観をもってつながり、人がお互いに共感・共鳴して働くからこそ未知数のイノベーションが生まれる。「リモート・ワーク」の時代だからこそ、会社の一貫性や個性に磨きをかける「企業文化」の重要性は薄まるどころか、今後いよいよ高まっていくはずだ。

過去10年以上にわたり、会社が価値観の共有を基盤として唯一無二の企業文化を築き上げ、企業力につなげる「コア・バリュー経営」のメソドロジーを広めることに注力してきた。人々が離れつつ、つながって働くことが要求される「リモート・ワーク」の時代に、戦略的、言い換えれば「独自性豊かな」企業文化を構築していくうえで最強の武器となる「コア・バリュー経営」も、いよいよ、力の発揮のし甲斐があるというものだ。