コロナ相場で「テレワーク関連企業」に手を出してはいけないワケ
■初心者がコロナ相場に踊ると失敗する
最近はコロナで株価が大きく動いている。「今こそ仕込むべき銘柄特集」や、「コロナでダメージを受ける企業特集」など、まさにコロナの時流に乗った投資情報も多い。しかし私の経験では、そうした情報に踊らされて投資をすると痛い目にあう。
先日、私の学校の講師で、60万円を7年の株式投資で3億円まで増やした敏腕投資家と電話で話をしたが、彼もニュースの情報で株を売り買いすることは基本的にはしないと言っていた。このような時代だからこそ、投資の本質に立ち返り、情報に振り回されずに2年後、3年後を見通して、腰をすえて投資を行ってほしい。
そんな願いを込めて、私たちの学校の講師でもある3人の世界的な投資の達人のお話をお届けしたいと思う。この記事は去年の9月にインタビューした内容をもとに、いつの時代でも通用する投資の本質をまとめたものである。決して最新のニュースのネタではない。しかし私はこんな時だからこそ、あえて投資の本質のお話をお届けしたいと思っている。
第1回は、世界三大投資家の1人と言われる、ジム・ロジャーズ氏だ。彼のこんな印象的な言葉から紹介しよう。
これは私たちが彼に「投資に関して大事なことをこの紙に一言で書いてください」とお願いした時に、彼が1秒も迷うことなくサラサラと書いた言葉だ。
これはとても深い言葉だ。コロナ相場の今、簡単に金持ちになれるチャンスがあると勘違いをして、初心者が相場に入り込んできている。証券口座の開設数が急増しているのだ。しかし、今の相場で儲けられるのはその前から準備をしてきた人だけだろう。そして、運よく今、儲けることができても、それが実力ではないならば、いずれそのお金は無くしてしまうだろう。
■「市場は必ずしも合理的に動かない」
ロジャース氏はさらに続けた。
彼はとにかく勉強の大切さを訴えていた。彼自身も不勉強で失敗したことがたくさんあるからだ。
「いろいろと失敗はしてきたのですが、最初の頃、ほとんどの人たちが破産している状況の中で、私は数カ月間に資産を3倍に増やすことができました。そのとき投資はとても簡単なことだと思っていました。しかしその5カ月後には、市場を読み誤って全てを失ってしまいました。私はこのあと諦めずに勉強を続けた結果、大きな成功を手にできたのです」
失敗の原因の1つを教えてもらった。
「市場は必ずしも合理的には動かないということです。たとえば、自分が明らかな暴落の予兆、暴騰の予兆を把握していても、そうはならない。以前私は、私の知っていることは、みんなも知っているから、みんなは私と同じ行動をすると思っていました。でも、違う。私が市場で成功を収めるためには、市場について、人々について、そして他の投資家についてもっと知る必要があることが分かってきました」
大事なのは、投資対象そのものの研究だけではなく、それを取り巻く人間の状況も詳しく勉強する必要があるということ。
これをコロナ相場で考えるならば、「この企業の売上は間違いなくあがる」と確信を持ったとしても、その次には、市場全体はその企業についてどのような行動をとるのかも考える必要があるということだ。自分だけの情報では市場は動かず、その情報が行き渡れば市場は動く。コロナ相場で考えることは投資対象そのものと、それを取り巻く人間の2つだ。
■「昨年は、ほとんど株を保有していなかった」
これは去年9月にロジャーズ氏が私たちに語ったことだ。他の通貨より米ドルを主に保有しているのは、相場の混乱時には安心感のある米ドルが買われるからである。私からの補足だが、世界経済の危機の時は、さらに安心感があるのは円なので、円高になることが多い。現にこの記事を書いている今も円高が進行している。
しかしこの記事を書く数週間前は、コロナ騒動により一時的にドルの確保という動きがアメリカで発生し、ドル高だった。さらにいえば下落した株式市場と比較すれば当然、米ドルも円も相対的にあがっているので、円かドルかは重要ではない。
ここで大事なことは、去年の段階で株価が割高なので株をほとんど持たず、現金にしていたという事実。この話はコロナ後に語っているのではなく、コロナ前に私たちに語っていたことなのだ。彼は今、割安になった投資対象を探したり、買ったりしているだろう。
■皆が絶賛している企業は危険
ではどうすれば、皆さんも彼のように行動ができるのか。
市場の参加者の様子を観察するという冒頭の話にも重なる。過去のバブルを見るとどこで起きたどんな資産のバブルでも人は同じことを言っている。「あなたが理解していないだけだ」と。
これを皆さんも合言葉として覚えておこう。注意するアラートだと考えよう。ロジャーズ氏のように売却で成功するかどうかはわからない。結果論かもしれない。タイミングは読みきれないと思う。しかし私が皆さんにお伝えしたいことは、注意を配ろうということだ。
もしも注意を配っていればコロナの第一報が入った時の行動が少しは変化するのではないだろうか。第一報の時に、念には念をいれて一部だけリスクの高い投資を現金に戻しておくとかができるはずだ。もしも今回そのような行動がとれていれば、投資のダメージは減らせたはずだ。ロジャーズ氏のように去年から売却をしていなくとも。
■いまの株式市場は、やっぱり買いだ
では、皆さんは今、どう動けばいいのか?
ロジャーズ氏は災害や危機が訪れた時にはまず何が起きているかをじっくりと考え、安いものを買う。安ければ失敗しても大きな失敗にはならないからだと彼は言う。そして安さの中の変化を見定める。安い中で改善に向かう時は買い時なのだ。
そして彼はこんなことも言っていた。
「日本には『危機』という言葉があります。が、これは惨事と好機、両方の意味を持っています。中国にも『危机(ウェイジー)』という言葉がありますが、これにも同様に、惨事と好機の意味があります。だから私はいつも惨事に注目しています」
この記事で私がお伝えしたかったことをまとめよう。まず勉強をすること。コロナ相場で安いからといって、気楽に安そうなものを買ってはいけないということ。それを市場が高値まであげてくれるのかを考えること(成長性があるか見極めよう)。そしてみんなが絶賛しているものは買わないこと。そして安くなったものをよく研究して小さな変化に気づき、危機を好機に変えること。
これらはコロナ問題が解決したあとも10年後でも20年後でも通じる投資術だ。どうか投資をする人はコロナで浮き足立ち、足をすくわれないようにしていただきたい。そしてこの危機を好機として数年後に大きく資産を増やしていただきたい。これが私の心からの願いだ。私はお金を失うことはとてもつらいということをよく知っているからだ。
さて次回は、ペンシルベニア大学教授で株式投資リターン研究の世界的権威、ジェレミー・シーゲル教授が語ってくれたことを、私の解説付きで紹介する。
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市川 雄一郎Global Financial School校長
Global Financial School校長。日本FP協会会員、日本FP学会会員、サイバー大学客員教員。東京証券取引ニッポン経済応援プロジェクトの専門家集団 「東証+YOU応援団」の1人として全国の投資家育成に尽力。著書に『はじめての資産運用(日経文庫Personal)』[武田米生氏との共著](日本経済新聞社)など。
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(Global Financial School校長 市川 雄一郎)