たくさんの情報を「簡潔にまとめる力」があるから、難しい本もスラスラ読めるといいます(出所:『マンガでわかる東大読書』)

「本や教科書を読んでいるのに、なかなか身につかない」

受験生に限らず、勉強熱心なビジネスパーソンでも、このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

「かつての僕は、まさにそうでした」。2浪、偏差値35という崖っぷちから1年で奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏は、自らの経験を振り返って言います。「でも、ちょっとした工夫で、劇的に改善したんです」。

教科書、参考書だけでなく、あらゆる本の読み方を根本から変えた結果たどり着いた読書法をマンガで解説する『マンガでわかる東大読書』を刊行した西岡氏に、東大生が読書の際にやっている「コツ」を紹介してもらいました。

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読書の最大の敵は「わかったつもり」になること

「本を読んで、そのときはわかったような気持ちになったんだけど、実際は全然身についていなかった!」という経験、みなさんにもあるのではないでしょうか?


読書って、なかなか難しいものです。読んでいるときは「なるほど! そうなのか!」という気分になるのですが、読み終わって少し時間が経つと「……あれ? やっぱりよくわかんないぞ?」という感覚になり、結局その読書を実生活に活かすことができない。よくある話だと思います。かくいう僕も、そういう経験ばかりでした。

一方、多くの東大生は読んだことをずっと覚えていて、それを実生活に活かしています。勉強していても「ああ、これはこの前読んだ本に書いてあった」「あの本で言っていたこととこれって、結局同じことだな」と、過去の読書経験をフル活用しているのです。

この差って、一体なんなのでしょうか? 僕は、この差は「要約力」の違いから生まれると考えています。今日は、なぜ「要約力」がこの差を生むのか、どうすれば要約力を伸ばせるのかについて、「3つの視点」をご紹介しながらお話ししたいと思います。

まずみなさんに知っておいていただきたいのは、「文章を読めているかどうかは、その文章を短く言いまとめられるかどうかでわかる」ということです。

「短くまとめられない=読めていない」

僕は、高校生によく勉強を教えているのですが、国語でも英語でも、その生徒が長文を読めたかどうかは、たった1つ、とある質問をしてみればわかります。

その質問とは、「この文章、要するにどういうことが書いてあった?」です。

この質問に対して、一言で「ああ、こういうことが書いてありましたよ」と短くスパッと答えられる生徒は、その文章が「読めて」います。実際、その文章についての問題には概ね正答します。

逆に「ええと、これと、これと、こういうことが書いてあって……」と、一言では答えられずに説明が長くなってしまう生徒は、そのテストの点数も低くなってしまいます。


僕も昔は、読んだ本のことを説明すると、いつもこう責められていました(涙)(出所:『マンガでわかる東大読書』)

僕らはなんとなく、「多くのことを覚えていたほうがいい」と考えてしまいがちです。だから「要するに」と問われても、たくさんの内容を説明している生徒のほうが文章を理解しているんじゃないかと思ってしまいます。

でも実は、逆なんです。長い説明ではなく、短く言いまとめる能力が重要なのです。

長い説明であれば、なんでもその説明に入れ込むことができます。著者にとって取るに足らないただの例も、そこまで重要だと思っていない内容も、全部ひっくるめて入れ込むことができてしまいます。どれだけポイントがずれていてもよくなってしまうのです。

逆に、短く言いまとめるためには、例や枝葉の部分はすべて切り落とさなければなりません。作者が「本当に言いたいこと」を、きちんと見極める能力が求められるのです。

僕は、「本は魚のようなものだ」と考えています。


「何言ってんだ?」と呆れずに、もうちょっと読み進めてみてください(出所:『マンガでわかる東大読書』)

魚って、頭から尾っぽまで、真っ直ぐに1本骨が通っていますよね。その背骨から枝分かれした骨があり、身がついています。魚を食べるときには、骨と身を分けないといけません。

どんな文章であれ、文章には一貫した主張があるものです。最初の段落から結論の部分までが、一貫して何かを主張している。具体例や細かい説明の部分は、その主張を補完するために書かれているわけです。

この「一貫した主張」が骨で、「具体例や説明」が身です。わかりやすかったり、読んでいて印象に残りやすいのは、この「具体例」や「説明」のほう、つまり身です。

大切なのは「言いたいこと」を理解すること

美味しいのは身のほうなので、多くの人は身にばかり目を向けてしまいます。でも、大切なのは骨の部分身と骨を分離して、きれいに「骨」を理解することが求められるのです。

たとえば、次のような文章があったとします。

常に疑いの目線を持って生活することが大切だ。たとえば、本当は言っていないにもかかわらず、偉人が言ったことになっている名言はたくさんある。マリー・アントワネットは「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」なんて言っていないし、ナポレオンは「吾輩の辞書に不可能の文字はない」なんて言っていない。こんなふうに、一般に正しいと思われていても実は間違っていることは多いから、十分に注意すべきだ。

この文章で記憶に残りやすいのは、「マリー・アントワネットは『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』なんて言っていない」という具体例ではありませんか? 


美味しいのは「身」でも、読み取るべきは「骨」です!(出所:『マンガでわかる東大読書』)

でも、この文章が本当に伝えたいのは「疑いの目を持とう」ということです。つまり、マリーアントワネットの話は「身」で、「疑いの目」の話が「骨」なのです。

この話を要約してくれと言われて、マリー・アントワネットの話をしたら「わかってない」やつだと笑われてしまいます。要約として適切なのは「疑いの目を持とう」という話で、マリー・アントワネットの具体例はそれを補足し、説明するためにあるだけなのです。

短くまとめる「要約」の必要性について、わかってもらえましたでしょうか。

ではここから、具体的にどこを見れば短く言いまとめる要約ができるようになるのか、3つの視点をご紹介します。

「言いたいこと」を読み取る3つの視点

「言いたいこと」を読み取る視点1:文章の最初と最後

1番の鉄則は、「文章の最初と最後を見る」ことです。

先ほど僕は「本は魚だ」という話をしました。骨は頭と尾っぽで一貫している、と。つまりは、頭と尾っぽに同じことが書いてあるなら、それはその本の中で強調したい「一番言いたいこと」である可能性が高いのです。

東大生の多くは、国語の問題を解くときにこの鉄則を活用しています。最初の段落を読んだ後、すぐに最後の段落を読み、「この文章はこういうことが言いたいんだな」と筆者の一貫したメッセージを把握した上で、文章の読解に入るのです。

このやり方は、本を読むときにも使えます。「はじめに」を読んだ後にすぐ「おわりに」を読むことで「なるほど、こういうことが言いたいのだろう」と理解することができます。それを元に本文を読むから、読むスピードが速くなるし、誤読も少なくなるというわけです。

この鉄則は、要約にも活用できます。最初に書いてあることと最後に書いてあることを読み、その中から著者が重要だと考えているであろうポイントをつかんで、自分の言葉でまとめてみるのです。

「言いたいこと」を読み取る視点2:「しかし」の後

次にポイントとなるのは、「しかし」の後です。古今東西、日本語も英語も含め、どんな文章でも「逆説」の後には著者が言いたい「骨」が見え隠れしている場合が多いのです。

「みなさんの中に、こう思っている人は多いのではないですか? しかし実は違うんですよ!」「こういうこと、やりがちですよね。しかし、それはやってはいけないんです!」

こんな文章、よくありますよね。多くの人がやっていることや常識と考えられていることを提示して、それに対する否定をぶつける。非常に多く使われる表現技法です。

では、なぜこの技法が多く使われているのでしょうか? それは、著者が文章を書こうと思う「理由」を考えればわかります。多くの場合、著者がわざわざ文章を書くのは、世間の「常識」や「当たり前」に対して思うことがあるからです。

「みんなこう思っているけれど、そうじゃないんだ!」「知られていないけれど、これって重要なんだ!」と、世間一般の常識に対して「NO」を突きつけるのが、文章の本質です。だからこそ、逆説を使ってその思いを表現することが多くなるのです。

みなさんは、「しかし」「だけれども」「だが」など、「逆説」のあとの文章に着目してみてください。英語であれば「But」「Yet」「However」の後です。そこには、著者が本当に言いたい「骨」が書かれているはずです。

「言いたいこと」を読み取る視点3:「問いかけ」

最後は、「問いかけ」です。

著者が「本当に理解してほしいポイント」を書くとき、読者に対して「質問」することがあります。ただ「これってこうなんです」と書くだけでは、そこが重要だと気づいてもらえないかもしれない。だから「これってどう思いますか? 実はこれ、こうなんですよ!!」という形で、読者を文章に引き込もうとする場合が多いんです。

特に、その質問の答えがすぐには出てこず、文章の最後のほうまで引っ張られているなら、それは著者が強く言いたいこと、すなわち「骨」である可能性が高いといえます。

例えばみなさんは、「なぜ〇〇は△△なのか?」のように、タイトルが質問形になっている本や記事を見かけたことはありませんか? これは、この質問の答えを語りたいから書かれている文章であり、その答えが結論になっているはずです。

逆に、文章を読んでみたら「答えはこれです。で、話は変わるんですけど……」と、全然違う話が展開されることってありえないですよね。「なんでその質問をタイトルにしたんだ?」と突っ込みたくなってしまいます。

同じように、文章の序盤で質問があるけれど答えが書いていないのならば、おそらく文章全体で質問の答えを回収していくはずです。例えばこの記事なら、僕は「要約力を鍛える3つの視点とは何か?」という問いを出して、今はその質問に沿って文章を書いているわけです。


「読むべきところ」がわかってから、偏差値35の僕でも「要約」ができるようになりました(出所:『マンガでわかる東大読書』)

「問いかけ」は、推理小説における「伏線」と同じです。ダイイングメッセージが書いてあって、「これは一体どういう意味なんだ?」というシーンがあったら、そのメッセージが絶対大きな意味を持ってくるはずですよね? そのメッセージの意味が最後までわからなかったら、みなさんは「なんだよ!」と怒るはずです。

これと同じように、すぐに答えがない質問があったら、それは文章全体にかかわる大きな問いなのです。この問いと、その問いに対する答えを探すことで、必ず筆者の「言いたいこと」を発見できるはずです。

読んだ文章を「要約する」習慣をつけよう

文章を読んだら、これらの3つの視点を使って、その文章を簡潔にまとめてみましょう


本当に「読めた」なら、140文字にまとめることもできるはず。がんばってみましょう!(出所:『マンガでわかる東大読書』)

はじめのうちは300〜400字でノートにまとめ、慣れてきたら100字〜150字くらいでまとめられるように訓練していきましょう。

自分が書いた要約文は、元の文章を読んだことのない第三者に読んでもらって、どう感じるのかを聞いてみてください。「理解できる」と言ってもらえる文章が書けているのであれば、元の文章をきちんと読めていることになります。

逆に「何を言っているのかわからない」と言われてしまうのならば、元の文章を読めていない証拠です。もう一度、きちんと元の文章を読んでみましょう。

いかがでしょうか? 要約をぜひ試してもらえればと思います。