元日本代表DF田中マルクス闘莉王氏【写真提供:闘莉王TV】

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昨季限りで現役引退、故郷ブラジルで第二の人生をスタート 公式YouTubeチャンネル「闘莉王TV」も開設

 昨季限りで現役を引退した元日本代表DF田中マルクス闘莉王氏が、8日に公式YouTubeチャンネルを開設した。

 引退から約4カ月、24日に39歳の誕生日を迎えた“闘将”は、19年間のプロ生活にピリオドを打ち、故郷のブラジル・サンパウロ州パルメイラ・ド・オエシチで牧場など様々な事業を展開し、第二の人生をスタートさせている。今後は高校時代から22年間を過ごした日本に向けて、現地から様々な情報を発信していく予定だ。今回「Football ZONE web」の単独インタビューに応じ、YouTuberになった理由や、ブラジルでの刺激的な日々を明かした。

 ブラジル出身の闘莉王氏は、1998年に渋谷幕張高校へ留学するため単身で日本に渡り、2001年にJ1リーグのサンフレッチェ広島でプロデビュー。03年にJ2水戸ホーリーホックに移籍し、この年、日本国籍を取得して年代別代表として日の丸を背負うようになった。04年から09年までは浦和レッズの主力として活躍し、06年にはチーム史上初のリーグ優勝に貢献。自身はJリーグMVPを受賞した。10年に移籍した名古屋グランパスでも移籍1年目でJ1制覇。17年からはJ2京都サンガF.C.でプレーし、昨季限りで現役引退を決意した。

 日本代表としても存在感を発揮し、04年にはU-23日本代表の一員としてアテネ五輪に出場、06年以降はA代表の主力となり10年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)16強進出の原動力になった。FWのような決定力を誇る“攻撃的DF”としてゴールネットを何度も揺らし、DF登録選手としてはJリーグ史上初となる通算100ゴールを達成。魂のこもったプレーや熱い言動でもファンの支持を集めるなど、輝かしいキャリアを歩んできた“闘将”だが、現役引退とともに故郷のブラジルで第二の人生をスタートさせた。

 そして、8日に公式YouTubeチャンネル「闘莉王TV」を開設。故郷での活動や日本への思いなどを自らの言葉で発信していくことになった。同日には“予告編”ともいえる動画で、現在世界中が揺れている新型コロナウイルスについて自身の思いを述べるなど、今後、本格的にYouTuberとして活動をスタートさせていく。

 今回、「Football ZONE web」の単独インタビューに応じた闘莉王氏は、YouTuberになった理由を説明。乗馬が趣味で、現役時代から牧場を経営していた自身は、意外にも試合の合間にディスカバリーチャンネルや、畜産系のコンテンツを息抜きで楽しむ、生粋のネイチャー系だった。

「元々は広大な大地や自然の動画を見て、もしも、その場にいられたら、と体験したい側だった。YouTubeという発信方法もあるんだと知ったのがきっかけ」というが、現役時代から熱いプレーでファンの心をつかんだ闘莉王氏らしい魂が込められた思いも明かした。

「日本を離れたから、というのが一番。夏に日本に一度戻るつもりだった。東京オリンピックで解説の仕事もあったけれど、五輪とともに延期になってしまった。そうなった時にどうすればいいのか。今まで応援してくれた人たちに対して、日本と違う生活、文化、こんなところに“楽しさ”があるというところを知って欲しかった。ブラジルと日本のギャップがありすぎる。サッカーだけではなく、恵まれた自然の中でどうやって生きていくか。楽しさを学べるか。日本の人たちが朝起きて、元気が出るようなものを届けたかった」

知られざる地元での生活…釣り人にカウボーイ? 「すごく若返った」

 故郷ブラジルで新たな人生を歩んでいる闘莉王氏。現役時代は規則正しい生活を送っていたが、地元では家族に囲まれながら自由な日々を過ごしているという。17歳の時に単身で日本へ渡った闘莉王氏にとっては、ブラジルでの生活はまるで“少年時代”に戻ったよう。プロサッカー選手時代とは違い、大自然の中、楽しみながら暮らしている。

「日本ではプロサッカー選手として生活していたうえで、試合に合わせて規則正しいスケジュールがあった。なかなかやりたくてもやれないことがたくさんあった。街に信号もない田舎でもすごく楽しいし、日本にいない動物と触れ合うこともできる。釣りを取っても、スケールが違う。大自然の中で生きていくのはすごく楽しい。地元の友だちと過ごす楽しい時間も見てもらいたい。もちろん引退してもサッカーは楽しい。人生の半分以上はサッカーをやってきたからこそ、ここまできた」

 現在は新型コロナウイルスの影響で外出しづらいものの、感染拡大前の生活リズムは自由そのものだった。

「友だちを誘って釣りに行ったり、『今日は馬に乗ろう』とか、『牧場に行こう』とか、何もしないで家にいようとか自由に生きられる」

 第二の人生を模索していくなかで、見出した新たな道――。それでもやはり挑戦することへの情熱は尽きないようで、今は競走馬の調教師としても猛勉強をしているという。

「乗られたことのない馬に乗る。僕も勉強しているところだけど、どうやってアプローチすれば暴れないか、どう綱を引っ張れば左右に曲がるか、どういう時に足を入れれば走ってくれるか、とかを勉強している。すごく若返った感じ。今までDFとして周りに指示を出していた人間としては、馬にシグナルを出されるようになるというのも新鮮。物事を学べるのは楽しいなと改めて分かりました」

 今後は自身のYouTubeを通して、ブラジルでのサバイバルライフを配信していく予定だ。サッカーについては「いやあ、もうおっさんになっているからね、考え方も古風。ヘディングでどれだけゴールを入れていたか、そんな自慢も恥ずかしいね」と、笑顔で“闘莉王節”を披露した。

 最近ではYouTubeチャンネルを開設するサッカー選手も増えてきたが、ブラジルから動画を通して人々に幸せを与えることができれば――。そんな生きがいに目覚めた闘莉王氏。「今は地球全体が大変な時。ブラジルだけでなく、日本の人たちも心を一つにしてこの危機を乗り越えなければいけない」と語る。新型コロナウイルスの感染拡大はブラジルでも続いているが、南米ならではの動物や魚、本場のサッカーライフを「ステイ・アット・ホーム」の日々を送る日本の人たちに伝えていきたいと思っている。

 ピッチ上で熱く、時には厳しく仲間を鼓舞してきた闘将は、今後もYouTubeチャンネルを通して日本のファンに恩返しを続けるつもりだ。(Football ZONE web編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)