シャルケでも信頼を勝ち得ていた内田篤人。どこか人を惹きつける魅力がこの男にはある。写真:Getty Images

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 これまで数多くのインタビュー取材をしてきた。緊張感が張り詰める空間で取材を進める中で特に印象深かったのが、内田篤人とのやり取りだ。とにかく話が上手い。こちらの質問に嫌な顔をせず、絶妙な言葉で切り返す。自分にとって”テレビの向こう側の人“だった時は「キザで、ちゃらいイメージ」もあったが、実際に会って、そうした先入観は一瞬にして消え去った。人間的に非常に魅力的で、これは「チームメイトからも、そしてファン・サポーターからも愛される」と素直に思った。

 内田の人柄を示すひとつのエピソードがある。著者が取材現場にいた通算3回目のインタビューの時、前回のそれから半年間も経過していたので、改めて名刺を渡すと、笑顔でこう切り返された。「もう知っているし、名刺勿体ないでしょ(笑)。気を遣わないで大丈夫ですよ」と。そういう言葉が現場の雰囲気を和ませ、聞き手の緊張を解いていくことをおそらく内田は知っている。

 イメージと言えば、シャルケ時代、内田はこんなことを言っていた。

「すごく冷たいと思われがちですが、そうじゃないんですよ(笑)。リハビリ期間中に出会った人たちにも言われましたよ。『なんだかイメージと違う』って」

 ある意味の”ギャップ“が内田の魅力のひとつなのだろう。

 もちろん人柄だけに惹かれているわけではない。前述したように、インタビューの回答も興味を引くものばかり。例えば、14年12月に「嫌なFWは?」と訊いた際は「進化後の流川くん(『スラムダンク』の主要キャラクターのひとり)」とセンス抜群の回答をし、16年12月に日本代表の世代交代について尋ねた時は「世代交代というより、上も下も両方必要。若返ればいいというわけでは絶対にない」と持論を述べた。
 
 他にも、名回答はいくつもある。「16−17シーズンのシャルケは『走る』というイメージがあります。そのスタイルにフィットできそうですか」との質問に対して、「もちろん。でも、ガムシャラには走らないかな。(膝の)怪我をする前から僕は省エネタイプなので。正直、サッカーはそんなに走らなくても勝てる。負けると『これだけしか走ってないから』と批判されますが、勝てばそんなことは言われない。過密日程のなか、全部の試合で走り切るなんて絶対に無理。どこかで間違いなくクオリティは下がります。走る、走らないはさして重要ではない。要は勝てばいいんです」と返された時は思わず強く頷いてしまった。

 記事の見出しになりそうなワードもあえて散りばめているような対応、紳士的かつフレンドリーな振る舞いに感心したのを今でも覚えている。

 内田のすべてを知っているわけではないが、実際に会ってみると、彼にはどこか人を惹きつける魅力があることに気づかされる。チャンスがあれば、改めてもう一度、独占インタビューを実施したいと少なからず思う。

文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)