今後の販売を懸念する渡辺さん(愛知県田原市で)

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支援「到底足りない」 愛知・宮城


 新型コロナウイルスの感染拡大による政府の緊急事態宣言を受け、花き業界が価格低迷で苦境に立たされている。イベント中止や外出自粛で業務、家庭消費ともに振るわず、相場展開は過去10年で最安水準のためだ。農家経営は大打撃を受けている他、流通関係者も悲鳴を上げる。関係者からは損失分の手当てなどの経営支援や消費喚起を求める声が強まっている。
 
 全国を代表する輪菊産地の愛知県田原市で年間115万本を生産する渡辺康宏さん(59)は「(主な用途の)葬儀需要が縮小し、休業する生花店がありキャンセルが相次いでいる」と厳しい取引状況を打ち明ける。4月の売り上げは半減する見込みだ。

 JA愛知みなみ輪菊部会では需要減を受け、出荷量全体の1割強の下位等級の出荷調整を検討する。同部会で相対販売を中心に取り組むグループの代表、藤井保宏さん(44)は「売り先がなければ産地も生き残れない。産地、卸、小売り一体で乗り越えるしかない」と、打開に向け連日関係者と話し合いを続ける。

 渡辺さんは「今後は食べ物を作るしかないのかな」と花栽培の継続を不安視する。政府による無利子、無担保の融資や次期作支援があるが「到底足りない」ため、減収分の直接的な支援を求める。

 愛知県内で年間約2000件の葬儀を行う会社では4月上旬以降、小規模の葬儀の割合が高まっている。担当者は「近親者だけの葬儀が増え、使う花の量は減っている」と話す。

 需要低迷は、花き類全体に広がる。JAあいち経済連は「彼岸が過ぎて一気に需要が減った。利益だけではなく、出荷コストすら出せない」(花き課)と説明。JAでは市場などと対策を検討している。

 東北有数のガーベラ産地、宮城県のJAいしのまきの担当者は「4月以降、品種によっては1本1円で取引された」と異例の低迷を危惧する。緊急事態宣言以降、首都圏では休業する生花店が増え、婚礼需要も激減し価格が急落。JAは多くを京浜市場向けに出荷しており、影響は甚大だ。

 平年は1本50〜30円前後で取引されるが、現在は10円前後のため「再生産が難しい状態」。市況が一層悪化した場合は、自主的な生産調整も検討せざるを得ないという。今春は順調に生育していただけに生産者の落胆は大きい。「次の需要期の母の日はどうなるのか」と先の見えない状況に不安を募らせる。

最安水準続く 対面せり休止も


 13日も切り花の相場低迷が続いた。同日の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は、前市と同じ1本32円で平年(過去5年平均)比で21円安と過去10年で最安の価格水準だった。名古屋での落ち込みが大きく、愛知名港花き地方卸売市場で営業する名港フラワーブリッジの同日の切り花1本価格は23円。前市比5円安、平年比22円の大幅安だった。

 価格低迷は花き類全般だ。全国の菊類は平年比16円安の25円。カーネーション類は同20円安の27円。旬のガーベラは同9円安の14円。東京都内の卸は「産地にとって送料に見合わない相場だ。出荷調整の品目は増えるだろう」と頭を抱える。

 市場運営にも影響が出ている。大阪鶴見花き地方卸売市場を開設する大阪鶴見フラワーセンターは13日、せり人と買参人が直接対面するせりを休止すると発表した。切り花は15日、鉢物は18日から行い、来月6日まで休止する。インターネットを通じた「在宅せり」や市場での相対取引は従来通り行う。同社は「密集するせり場は感染リスクが高く対応した。その他の取引は続け、市場機能は維持する」と話す。