猪口 真 / 株式会社パトス

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おひとり様(独身者)が増加しているという。

内閣府が公表した2019年版の少子化社会対策白書によると、男性の未婚率は、25〜29歳が72.7%、30〜34歳が47.1%、35〜39歳が35.0%となっており、女性の未婚率は、25〜29歳が61.3%、30〜34歳が34.6%、35〜39歳が23.9%となっている。いずれも上昇傾向が続いており、結婚しない若者が増えているようだ。

結婚しないのは、若者だけではない。50歳までに一度も結婚したことがない人の割合(離婚や死別は含まない。これを「生涯未婚率」という)は、1985年までは男女とも5%未満であったのに対し、2015年には男性が23.4%、女性が14.1%で、前回調査の2010年と比較して、男女とも上昇しているという。ちなみに、1990年には、男性が5.6%、女性が4.3%であり、この25年で、相当な数の未婚者が増加したといえる。

これだけ未婚者(おひとり様)が増えると、様々なサービスや商品が、ファミリーやカップルといったターゲットから、おひとり様向けへの変更を余儀なくされるのだろうか。

当然、おひとり様のライフスタイルや経済状況が大きなポイントとなるのだが、彼らは、どのような状況なのだろうか。また、どのようなことが起きるのだろうか。

昨今、よく言われることだが、独身女性の非正規雇用の問題がある。女性は非正規雇用が多く、所得が少ないというものだ。

総務省統計局の労働力調査(2015年に実施)によれば、独身女性の32.1%、約79万人は非正規で働いているのだという。当然、非正規雇用の人たちの収入は、正規雇用者と比較すると相対的に低く、非正規で働く独身女性の7割は年収250万円以下で、さらに悪いことに、年代が上がるほど収入は下がる傾向にあるという。正規社員であれば、45〜54歳という年齢は働き盛りで、収入もピークを迎えるのに対して、非正規社員の場合はむしろ逆の実態になっているということか。

この問題は独身女性だけではない。平成29年版厚生労働白書によれば、50歳代の世帯総所得は、2012年から2014年にかけて、年収300万円以下の世帯が急増している。300万円以下が20%以上(4%近い上昇)、500万円以下だと36%以上に上る。(平均総所得は+約48万円、中央値は659万円から722万円と増加しているにもかかわらずだ)

これはまぎれもなく、単身世帯における所得減少と思われ、おひとり様の経済状況の厳しさが見て取れる。少し古い資料だが、現在でも同じような傾向が続いていると思われる。

ところが、海を越えたアメリカでは、まったく別の話となっている。モルガン・スタンレーの報告書によれば、アメリカにおける独身女性はこれから増え続け、アメリカ全体の人口増加率(0.8%)に対して、0.4%高い1.2%の年率で増え続けるのだそうだ。2030年の独身女性の人口は7750万人になるとされ、なんと、15歳以上の女性において、独身女性が既婚女性の人口を上回るのだという。

ただし、人口の差は大きいが、ここまでは、日本の状況と似ていなくもないといえる。独身が増加するという点においては・・・

ところが、アメリカでは、前述したような独身女性の低収入の問題ではなく、逆にこの状況を「Rise of the SHEconomy(シコノミーの台頭)」と呼び、独身女性(高収入の働く独身女性)の増加によって、アメリカの経済に大きな影響を及ぼすとしている。

「SHEconomy(シコノミー)」とは、「She」と「Economy」を合わせた造語であり、「女性が動かす経済」という意味だ。

モルガン・スタンレーの報告書によれば、ファッション、食品、車など、経済のメインとなる分野でアメリカ経済を後押しするという。

実際に、日本においても、こうしたカテゴリーに入ると思われる人たちを目にすることは多い。高級レストランやホテルラウンジ、ゴルフ場などでは、会社の経費が使いづらくなった中年の男性に代わって、セレブな女性の目にすることも多く、本当に日本のマーケットを支えていると感じる風景もある。

果たして、日本において独身女性の増加は、どちらの状況に転ぶのだろうか。よく言われるように「2極化」ということなのだろうか。

おひとり様マーケットを考える際に、もうひとつ重要なポイントがある。おひとり様マーケットを支えるのは、独身者だけではないということだ。

一人時間を楽しむ人たちの情報を共有できる「オヒトリー」(https://ohitoriii.me/)というメディアなどを見てみても、おひとり様を独身者に限定していない。あくまで「ひとりで楽しむ」ということだ。家族やパートナーがいるいないにかかわらず、「ひとり」を楽しむ人たちは、想像以上に増加しているとみていいだろう。

これは、これまでにマーケティングにおける常套だった、「属性」による分類が意味を持たなくなったことの現れかもしれない。価値観の多様化とは言い尽くされすぎているが、「属性」だけによるマーケティングは失敗することは間違いないだろう。