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アウトランダーPHEV 「特務機関NERV」のロゴ

text:Kenji Momota(桃田健史)

2019年12月23日の昼過ぎ、銀座通りから一本裏に入った路地の角地。周囲のビル群や商業施設とは不釣り合いに見える、緑いっぱいの小さな庭がある。

そこに、黒塗りの三菱アウトランダーPHEVが2台。ボディサイドには、「特務機関NERV」のロゴが見える。

黒塗りの三菱アウトランダーPHEVが2台。ボディサイドには、「特務機関NERV」のロゴが見える。

特務機関NERVといえば、日本を代表するアニメーション作品「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する架空の存在だ。

2台の車両が置かれている庭は、三菱自動車が2019年9月から2022年8月までオープンしているブランド発信拠点である。

三菱が、PHEVが、エヴェが、いったい何がどうつながっているのか?

師走の銀座をいく多くの人が、記者会見後の写真撮影の風景を「何事か?」と覗き込んだ。

なかには、「NERV(ネルフ)って、エヴァンゲリオンのNERVなのか?」と質問する外国人観光客までいた。

記者会見の正式名称は「特務機関NERV災害対策車両 整備計画、始動!」とある。

会見会場には、自動車関連メディアだけではなく、経済系メディアなどが「ことの真相」を知ろうと集まった。

そもそもゲヒルンって、どんな会社なのか?

ゲヒルン、三菱自動車、スカパーJSATの共同記者会見となった今回、最初に登壇したのは、ゲヒルンの石森大貴社長だ。

同社は2010年に情報セキュリティサービス企業として設立されたこと。設立5か月目に東日本大震災が発生し、石森氏の生まれ故郷である石巻市で甚大な被害が発生し、実家は津波で全壊。

ゲヒルンの石森大貴社長は、東日本大震災のあと、地震時にツイッターによる情報集約し、独自の震度観測網の構築。独自アプリを開発した。

この時に情報が的確に早期に住民に伝わらず、住民が警報を知る機会を逃した。

防災インフラと情報伝達の仕組みに取り組みべき課題が多いと感じた。

その後、地震時にツイッターによる情報集約し、独自の震度観測網の構築。独自アプリを開発。気象庁が公募した協力企業として、大雨・洪水警報の危険度分布の通知サービス協力事業者と選定された。

公開されたデータでは、タイムラインとして表示された回数は約37.4億回、プロフィール閲覧数が約3600万回、ユーザー数はSNSとアプリを合わせて約130万人に及ぶ。

同社にとって、ユーザーからのデータが事業の中核であり、グループ会社として独自のデータセンターを北海道石狩市に完備。

また、東京と大阪に合計6つのデータセンターを持ち、災害時でのデータ破損や喪失を防ぐための冗長性を担保している。

そんな情報セキュリティ企業とエヴァはどういった関係なのか?

ツイッターアカウントでの名称使用を承認

会見上で配布された資料にはエヴァンゲリオンシリーズのライセンス管理を行うグラウンドワークス社のコメントがある。

以下、原文を一部を記載する。

ゲヒルンが開発するNERV防災アプリ。

「特務機関NERV防災アプリの名称は、ご存知の通りアニメ作品『エヴァンゲリオン』に由来します」

「東日本大震災の再、防災情報を周知し節電を呼びかけてくれたTwitterアカウントが『特務機関NERV』でした」

「『エヴァンゲリオン』チームもその趣旨に賛同し、名称を使い続けていただいて今に至ります」

〜中略〜

「作品に由来する名を冠したこのプロジェクトが、1人でも多くの人の支援につながることを願います」

会見のなかで、ゲヒルンの石森社長に「ロイヤリティ(名称使用料)の発生」について筆者(桃田健史)が質問したところ、ロイヤリティは発生していないと話した。

もしもの災害時 通信と電源の確保へ

本家エヴァ側から正式に認められている、今回の発表された活動。

ゲヒルンとして情報セキュリティの土台として、独自の通信と電源を確保する必要があると考えたという。

ベースとなった三菱アウトランダーPHEV

通信については、スカパー!を展開しているスカパーJSATが2017年10月から技術検証を始めた移動体向け衛星通信事業を活用。

車両に平面アンテナを装備することで衛星との双方向通信が可能となる。

また、内閣府のプロジェクトである準天頂衛星システムみちびきに実装されている、衛星安否確認サービス(Q-ANPI)にも対応する。

電源では、三菱アウトランダーPHEVを採用した。同車はフロントに2.4Lハイブリッドエンジン(モータ出力60kw)と後輪に70kwのモーターを持つ四輪駆動車として知られている。

PHEVの災害時での活用では、先日発生した千葉県房総地域での大規模停電の際、トヨタがプリウスPHVやMIRAI、また日産がリーフなどを使ったボランディア活動として被災地での給電を行ったことが記憶に新しい。

アウトランダーPHEVの場合、車体床面に搭載するリチウムイオン電池の容量は13.8kwh。車内のボタン一つで、1500WのAC電源となり、携帯電話の充電など外部電源として利用可能だ。

住宅用の定置型電源として考えると、ガソリンタンクを45L満タン状態で最大10日程度の需要を賄えることになる。三菱自動車からゲヒルンへはリース契約としている。

今回、独自の防災情報網を構築するベンチャーと、自動車メーカー大手、衛星通信事業大手が連携するプロジェクトが、「エヴァ」の支援を受けて走り出した。

東京、札幌に次ぎ、全国での「カバーエリアを増やしたい」(石森氏)という。