日本人妻学Vol.3『淡路島の人妻」/中村 修治
「おっ玉ねぎ?」
淡路島の人妻は、小走りでUFOキャッチャーに駆け寄り叫んだ。日焼けした笑顔が眩しい。「たまねぎやん」無造作に転がっている玉葱の茶色の皮くらい薄っぺらいお返事をしてしまった。
洲本に住む川上さんは、とびきり明るい人妻だ。代々のたまねぎ農家に嫁いで10年の生粋の淡路島っ娘。運転してくれているのは、そこそこ大型のセダン。徳島空港へのお迎えから小1時間クルマを飛ばして最初に降りたのは、四国にいちばん近いサービスエリアだった。
一緒に食べたランチの「うずの丘海鮮うにしゃぶ定食」は、4,500円也。残ったうにスープにご飯を入れて雑炊にした。川上さんの話は、淡路島にカジノが来るかもしれないという経済ネタに移っていた。明石とつながる淡路市の経済発展は凄いと力説する。薄っぺらい皮算用ですね!?とは突っ込めなかった。黙々、黄色い雑炊を掻き込んだ。
本州へと向かう海岸線を走って見えてきたのは、世界の人々にSMILEをお届けする創作オリエンタルレストラン「HELLO KITTY SMILE」。おったまげるくらいでっかいSMILEが夕日を浴びて赤く輝いていた。淡路市の開発のシンボルのようである。
近くには、少子化で使わなくなった小学校を改装したオサレな施設が出来たこと。南淡路は、玉ねぎで。淡路は、開発で。住んでいる洲本だけが取り残される。そんなトレンドを、淡路島の人妻は、大きなマグカップに入ったカフェオレを大事に両手で抱えながら説明してくれた。その間、ずっと口元が見えない。目の前の人妻が、HELLO KITTYにしか見えなくなった。
剥いても、剥いても、剥いても・・・死ぬほどどうでもいい。
土建屋行政臭プンプンの低俗な建物である。地元の利権と経済合理を優先すると、こういう民度の低い建物が出来上がる。誰も文句を言えない。死ぬほどどうでもいい地方は、こうして乱立していく。
最後に、洲本城を案内してくれた。
不揃いの石の階段をのぼる川上さんのふくらはぎだけがやけに白い。
少し見惚れた。
浮気したいと思ったことありますか!?
人をこっそりと心の中で殺めたりしていませんか!?
夜、寝る前に何を考えていますか!?
その扉をこじ開けようとしたが、やっぱりヤメた。
淡路島は、国生みの島である。イザナギノミコトとイザナミノミコトが天から降り立ち夫婦の契りを交わしたのがこの島。まだ世界に形がなかった頃のお話である。
天守の麓からは、穏やかな瀬戸内海が一望できる。
その海の向こうに見えるのは、ほど近い大阪の街並みである。
夜景というほどには、まだ、暗くもない。
「そりゃおっ玉ねぎ!!!」
経済成長が目に沁みた。