純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

写真拡大


「ちっ、やっぱりダメだよ」
「こまったな。起きてこないか」
「ああ。もうイヤだって。自分のところのおもちゃなんか、文字どおり、子どもだましで、だれも喜ばないし、だれも救えないって」
「たしかに時代が変わりすぎたな。あいつがそう言うのも、よくわかるよ」
「素朴なのも、悪くないと思うんだけどな」
「でも、お年玉だって、いまどき何万なんていう子がいるくらいだから」
「いや、それならまだいい。あいつ、行くと、涙が出るような家がいっぱいで、つらいって」
「どういうこと?」
「クリスマスなのに、親もだれもいないんだってさ」
「ああ、ネグレクトっていうやつか……」
「いや、そうでなくても、年末の仕事が忙しくて帰れないんだろ」
「子どもはもちろんだろうけど、親もつらいなぁ」

「で、どうする?」
「うーん、早くしないと明日になってしまうよな。やっぱりムリか?」
「じつは、あいつ、もう飲んじゃったみたいなんだよ。酒くさいんだよ」
「えーっ! それはダメだろ」
「いくらオートパイロットがついていても、飲酒飛行はなぁ……」
「だから、今晩はミルクじゃなきゃダメなんだよ!」
「あいつ、弱いくせに、ガソリンみたいに強い酒が大好きだから」
「まったく北欧のやつは!」
「で、どうするよ」
「どうするったって、どうしようもないだろ」
「いや、だって、子どもたち、待ってるぜ」
「まあ、そうなんだけど……」

「あのさ、正月の準備の方はもうできてるし、おれたちで行くか?」
「え?」
「あいつの代わりにさ」
「代わりったって、おれ、トナカイのソリなんか運転したことないぞ」
「うーん、おれも、ネズミの荷車なら、持っているんだけどな」
「おまえ、シンデレラじゃないんだから」
「タイ釣り漁船よりましだろ」
「ほら、そういえば、あいつ、寿老人が鹿を飼ってただろ」
「ああ、そうだ、あいつ、呼んでこよう。鹿のソリなら、なんとかかっこがつくな」
「だけど、三人って、変じゃないか?」
「いや、もともと東方の三博士の贈り物の話なんだから、三人でいいんだよ」
「けどなぁ、おまえ、ハンマー持ってるし、強盗とまちがえられないか?」
「ハンマーじゃない、打出の小槌だ! それを言うなら、おまえ、魚くさいぞ」
「いや、だって、おれ、タイがマストアイテムだから」
「おまえ、それ、置いてけよ。冷蔵庫、ないのかよ」
「塩で締めてあるから、痛まないんだよ」

「なんにしても、米俵とタイと団扇じゃ、変だよな」
「ああ、たしかに町内会の夏祭りの景品みたいだ」
「だいいち、そんなの、どれも子どもたちが喜ばない。なんか、ないかな?」
「布袋さんの袋、あれ、いろいろ入ってたぞ」
「じゃ、プレゼントのことは、あいつに頼もう」
「いっしょに行くって、言うぜ」
「ま、いいんじゃないか」
「だけど、四人ってさ、なんとも験が悪い」
「そうか? 験担ぎなら、福禄寿も入れたらどうだ? あいつは鶴亀で、めでたいぞ」
「デブ三人と年寄二人で、真夜中にだいじょうぶだろうか。途中で妙なやつらに絡まれたりしないだろうか」
「それなら、毘沙門天も呼ぼう」
「それこそ、あいつ、武装しているぞ。警察に捕まるぞ」
「いや、だから、コスプレということでさ」
「真夜中に?」
「ほら、クリスマスだから」
「クリスマスは、ハロウィーンとは違う」
「じゃぁさ、鳴り物も付けたらどうだろう?」
「ああ、弁財天のねぇさんか。あの人、こういうの、好きそうだな」
「ぜったい好きだな。彼女の友だちも引き連れて、みんなでぱぁっと!」
「そりゃいいわ。みんなでサンバとか踊りながらさ」

「いま、みんなに連絡した。すぐ来るって。でも、こんな変なクリスマス、子どもたち、喜んでくれるかなぁ……」
「おまえ、わかってないな、どんなクリスマスだって、やることに意味があるんだよ」
「だけど、ほんとはこれ、イエスさんの誕生日会なんだろ。クリスチャンじゃなかったら、やんなくてもいいんじゃないのか?」
「……あのさ、おれ、子どものころ、ずっとクリスマスにあこがれてたんだ」
「え? おまえんち、やんなかったの?」
「話したこと、なかったっけ。おれ、子どものとき、捨てられたんだよ」
「え?」
「ちょっと障害があってさ、そしたら、木箱に入れて海に流された……」
「おい、ちょっと待てよ、それって、ずいぶんな親じゃないか?」
「まあ、昔のことだからさ、昔はそんなもんだったんだよ」
「だけど、それにしたって……」
「でも、流れ着いた村の人がよくしてくれて、おれみたいなのが村にいると、魚がよく捕れる、商売が繁盛する、って」
「……」
「人生、いろいろあるよ。だけど、どこかに自分のことを大切に思ってくれている人がいると思えるだけで、どんなにつらくても、なんだか力が湧いてくるんだよ」
「……わかるよ」
「だから、……」
「さ、もうすぐみんな揃うよ。ちょっと変だけど、クリスマス、始めようか?」


2018年のクリスマスのお話 「サンタ、少子化問題に取り組む」

2017年のクリスマスのお話 「コンビニはクリスマスも営業中」

2016年のクリスマスのお話 「クリスマスケーキにロウソクはいらない?」

2015年のクリスマスのお話 「クリスマスの夜、サービスエリアで」

2014年のクリスマスのお話 「なぜサンタは太っているのか」

2013年のクリスマスのお話 「最後のクリスマスプレゼント」

2012年のクリスマスのお話 「サンタはきっとどこかにいると思うんだ」